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芦雪あれこれ(虎図) [芦雪]

その三 虎図

芦雪・龍・無量寺.jpg

無量寺の「龍虎図襖(芦雪筆)」(龍・襖六面、虎・襖六面)上段「龍図」下段「虎図」
紙本墨画、 襖・一八三・五×一一五・五cm(四面)・一八〇・〇×八七・〇cm(二面)

 上段の「龍」も巨大だが、下段の「虎」も巨大である。「龍図」は「龍は興りて雲を致(マネ)く」が定石で、芦雪の「龍」も、その定石を踏まえて、その雲を切り裂くように、その眼光も鋭い。「虎図」は「虎は嘯(サケビ)て風烈(ハゲ)し」というのが定石で、芦雪の「虎」も、岩の脇の竹の葉が激しく靡いている中でのもので、その定石を踏まえているが、その表情は猛虎というよりも、巨大な猫(「虎もどきの猫」)という雰囲気で無くもない。
 この無量寺の「龍虎図襖」は、本堂室中の「東・西」に面したもので、「東」側に「龍図」、そして、「西側」に「虎図」がある。そして、この「虎図」の襖の裏面に、芦雪の「薔薇と猫図」(薔薇の下に猫の親子が三匹)が描かれている。
 こちらの猫は原寸大の猫で、そのうちの一匹(子猫)が、水中の鮎を狙っている。そして、この子猫には、「虎に竹」ではなく、その竹に似た「芦の葉」が靡いている図を配している。
 即ち、この子猫が狙っている「鮎」の目から見た「猫」が、「龍虎図襖」の巨大な「虎図」だということになる。
 その「虎図」を仔細に見ていくと、襖四面のうち、左の一面は「虎の髭の端」だけ、次に「虎の両足を揃えた虎の前頭部」、次に「虎の胴体と尾と足の一部」、次に「虎の尾と足の一部」と「笹竹の葉の一部と岩の一部」とが描かれている。
 そして、次のやや小ぶりの襖に面に「笹竹と岩」が描かれて、それが、裏面の「薔薇と猫」図に続いているような、何とも壮大な構成になっている。
 これらのことに関して、『江戸の絵を愉しむ(榊原悟著)』では、「芦雪のマジック」「紙芝居効果」と題して、「襖を『開ける』」(すると、図様に消える部分と残る部分とが生ずる)、「襖を『閉める』」(そのとたん、わたしたちの視界から一瞬消えていた『虎』が、突然、巨大な姿を現す))、この「襖の開閉」による「紙芝居効果」的な視覚的意外性を、芦雪は、これらの襖絵に企んでいると喝破している。
 さらに、『日本絵画のあそび(榊原悟著)』では、芦雪の師・応挙は、「描かれた絵が、あたかも鑑賞者の座っている部屋から望まれる現実の景色であるかのように表現することに成功した」(大乗寺書院の間障壁画『山水図』)と、応挙もまた「空間マジック」の第一人者であったことも喝破している。
 この応挙と芦雪との二人の関係を、この芦雪の「虎図」で見ていくと、芦雪は、師の応挙が描くところの獰猛で精悍な「虎」をモデルにせず、どちらかというと、光琳の描くところの「虎」(「竹に虎図」)の「虎もどきの猫」を、この襖絵では描き、さらに、師の応挙が大画面障壁画に遠近技法を取り入れ、「鑑賞者に『現実の景色』を見るように錯覚させる」視覚的トリックを、その「現実の景色」ではなく、「巨大なものを、さらに巨大にさせる」という「空間マジック」を試行したということになろう。
 ここでも、芦雪は、師の応挙の絵画技法を自家薬籠中のものにして、それをさらに発展させているということになる。
芦雪・薔薇と猫図1.jpg

無量寺の「薔薇・猫襖図」(芦雪筆)「部分図」(紙本着色「薔薇図」襖八面のうちの「部分図」)

tora2.jpg

「水呑虎図」(応挙筆)九六・五×一四一・〇cm

コメント(2) 
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コメント 2

middrinn

鮎から見ると、
猫が虎に見えるというのは面白いですね(^^)
色々と計算されているのですね(゚o゚;)
by middrinn (2017-09-08 19:48) 

yahantei

画人ということに限ると、蕪村さん以上に、この芦雪とか蕭白の方が面白いですネ。「鼠から見た猫」=虎(?)という説が、MIHO MUSEUM館長さんとかで、「鮎から見た猫」=虎(?)は、それを発展したものなのかも(?)
そのうちに「猫(?)」見に、お邪魔します。
by yahantei (2017-09-09 15:08) 

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