SSブログ

芦雪あれこれ(幽霊・髑髏仔犬・白蔵主図) [芦雪]

(その十六)幽霊・髑髏仔犬・白蔵主図 

幽霊三幅対.jpg

「幽霊・髑髏仔犬・白蔵主図」(芦雪筆)三幅 絹本淡彩描表装(上部省略)
幽霊図    一四一・六×三二・六cm
髑髏仔犬図  一四一・四×三二・六cm
白蔵主図   一四五・〇×三二・六cm
大阪・藤田美術館蔵

【中幅は応挙よりも凄味を増した美人の幽霊である。描表装は幽霊が「出る」ことを演出するのに適した手法だが、意外にも描表装までを応挙が確実に手掛けたものは知られず、後年の「幽霊図」(プライス・コレクション)とも共通する効果的な描表装は芦雪による変容であろう。左右は狂言「釣狐」に取り入れられた白蔵主の伝説に由来するようだ。猟師の殺生をやめさせるために狐が猟師の伯父・僧白蔵主に化ける。本物の白蔵主を噛み殺して寺に住んでいた狐は五十年後に犬に殺される。左幅が白蔵主に化けた狐、右幅の仔犬と髑髏は狐を殺す犬殺された本物の白蔵主を指すのだろう。印章の組み合わせは「犬図屏風」と同じ。仔犬の描き方からみて、南紀後の制作の可能性もある。】
『別冊太陽 長沢芦雪(狩野博幸監修)』所収「(作品解説)幽霊・髑髏仔犬・白蔵主図(伊藤紫織稿)」

 上記の「作品解説」では、「中幅は応挙よりも凄味を増した美人の幽霊である」とあるが、この芦雪の「幽霊」は、応挙の「幽霊図(返魂香之図)」(下記に掲載)を模写したと解してよかろう(「作品解説」とは別に「眉間の皺と陰影で表わすことによって凄みを増している」との記述がある。「凄みを増した」といっても、その程度のもので、真に凄みを増すのは、後年の「幽霊図=プライス・コレクション」などであろう)。
 それよりも、この芦雪の「幽霊」も、応挙の「幽霊図」の副題「返魂香之図」の背景にある「李夫人詩」(白居易)に由来し、「返魂香(はんごんこう)」を焚き、その煙の中に「死んだ人の姿が現れる」というようなものであろう。
 そして、応挙の「幽霊図(返魂香之図)」は、その「返魂香」の煙で「腰から下が無い」ように描かれている。以後、「足の無い幽霊図」が定着するようであるが、芦雪の、この「幽霊」は、応挙の幽霊のように「腰から下が無い」のは勿論なのだが、表装自体を「描表装」、すなわち、芦雪の手書きで、掛軸の上部の「天」の所に落款が施され(冒頭絵図では省略)、下部の「地」まで「余白」となっている。
 この「描表装」について、冒頭の「作品解説」で、「描表装までを応挙が確実に手掛けたものは知られず、後年の『幽霊図』(プライス・コレクション)とも共通する効果的な描表装は芦雪による変容であろう」と指摘しているが、「空間マジック」「空間トリック」に天性的なものを持っている芦雪を以て、「幽霊図」に「描表装」との取り合わせは、嚆矢とするのが妥当のかも知れない。
 この左幅の「白蔵主」は、これも「作品解説」のとおり、狂言「釣狐」の「白蔵主に化けた狐」で、これが何とも「描表装」の下部の「地」から描かれており、中幅の「幽霊」を真似しているような雰囲気である。
 さらに右幅の「髑髏仔犬」になると、髑髏の歯は「地」に、頭蓋骨の大部分は「中縁」と「本紙」の一部に描かれ、仔犬の足は「中縁」、その他は「本紙」と、左幅・中幅、そして、右幅と、変化をさせながら、全体として、何か、狂言「釣狐」の世界を背景にしているような雰囲気を醸し出している。
 すなわち、中幅の「幽霊」は、応挙の「夢に出てきた亡き奥様をモデル」にしている「幽霊」を模写して、この幽霊の正体は、狐に殺された「白蔵主」で、左幅は「白蔵主に化けた狐」ということになる。そして、右幅の「髑髏」は、狐に殺された「白蔵主」の髑髏で、
その脇の仔犬は、大きくなって、左幅の「白蔵主に化けた狐」を噛み殺すというような、一連のドラマ仕立てのような印象を受けるのである。
 そして、この「髑髏」がまた、若冲の黒地の「拓版画」仕立ての「髑髏図」をモデルにしているような雰囲気なのである。そして、この「仔犬」も、やはり、応挙の「仔犬」をモデルにしているのであろう。
 こうして、この三幅を仔細に見て行くと、それぞれに、芦雪が何かしらをモデルとしつつ、しかし、全体として、その「空間マジック」「空間トリック」、さらに、「返魂香」や「釣狐」にまつわる「ドラマ仕立て」「構成力」は、芦雪そのものという印象を深くする。

幽霊図.jpg

「幽霊図(返魂之図)応挙筆 一幅 紙本墨画淡彩 
一一〇・〇×三〇・〇cm 久渡寺蔵(青森)

髑髏図.jpg

「髑髏図」(若冲下絵 高遊外賛)一幅 紙本拓画
一〇六・三×二八・〇cm  宝蔵寺(京都)

コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。