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「風神雷神図」幻想(その十六) [風神雷神]

(その十六)狩野派(「雷神(右)・風神(左)」)と琳派(「風神(右)・雷神(左))」)

探幽・雷神図.jpg

「雷神図屏風(右)」(一一四・〇×三四九・八cm)
「風神雷神図屏風」(伝狩野探幽)六曲一双 紙本墨画淡彩 板橋区立美術館蔵

探幽・風神図.jpg

「風神図屏風(左)」(一一四・〇×三四九・八cm)
「風神雷神図屏風」(伝狩野探幽)六曲一双 紙本墨画淡彩 板橋区立美術館蔵

 「狩野派」は、上記のとおり、「雷神(右)・風神(左)」となる。これまで見て来たもので、「北斎」・「国芳」(単独の「雷神図」主体など)・「暁斎」(基本的には「狩野派」に準じている)も、この「狩野派」の流れのものと解したい。
 この「雷神(右)・風神(左)」の、代表的なものが、「三十三間堂」の「雷神像(右)」「風神像(左)」の配置ということになる。

三十三間堂.jpg

「三十三間堂」=「雷神像(右)」「風神像(左)」

 これに比して、「琳派」の流れは、「宗達→光琳→抱一→其一」とも、すべからく、「風神(右)・雷神(左))」ということになる。
 ここで、あらためて、「風神雷神図」のイメージを今に元祖的に伝えている、その宗達の「風神(右)雷神(左)」を再掲して置きたい。

宗達 風神雷神図.jpg

俵屋宗達「風神雷神図屏風」二曲一双 紙本金地着色 建仁寺蔵(京都国立博物館に寄託)
寛永年間頃(十七世紀前半)作 各一五四・五 × 一六九・八 cm

 宗達の、この「風神雷神図」の世界と、例えば、「三十三間堂」のそれとは、似ても似つかないものということになろう。
 そして、この宗達画の「風神(右)雷神(左)図」は、やはり、例えば、遠く、敦煌莫高窟(ばくこうくつ)第二四九窟の壁画などに見られるもののようである。

敦煌.jpg

敦煌莫高窟第二四九窟の壁画(風神=右、雷神=左)

 この「風神=右、雷神=左右」は、「千手観音二十八部衆像」(静嘉堂文庫美術館蔵)などにも踏襲されている。しかし、「風神=緑青、雷神=朱」で、宗達図の「風神=緑青、雷神=白」とは異なる。
 また、風神と雷神の形姿自体は、「松崎天神縁起絵巻」や「北野天神縁起絵巻」などの古絵巻などの引用の方法がとられているとの指摘がなされている(『絵は語る (13) 夏秋草図屏風-酒井抱一筆 追憶の銀色(玉蟲敏子著)』)。
 いずれにしろ、「風神・雷神」というのは、「暴風雨をおこす恐るべき鬼神」(「三十三間堂」の「風神・雷神像」)というのが、基本的な形姿で、その形姿の背後に、「弘法大師や小野小町の祈雨に呼応する鬼神」という一面を有しているのであろう。

 名月や神泉苑の魚(うを)躍る 蕪村 (『蕪村句集』)

 この蕪村の句には、「雨のいのりのむかしをおもひて」の前書きが付してある。「神泉苑」とは、桓武天皇創設の御苑で、ここで、弘法大師や小野小町が「雨のいのり」をしたことで知られている。

 ほとゝぎすいかに鬼神(きじん)もたしかに聞(きけ) 宗因
  ましてやまぢかきゆふだちの雲           蕪村
 江を襟(えり)の山ふところに舟よせて        几董
  (以下略)

 『花鳥篇』(天明二年・蕪村編)所収の「ほとゝぎす」(歌仙)の冒頭の三句である。これは、宗因の句を発句として、蕪村が脇句を付け、そこからスタートする「脇起こし」歌仙である。宗因の発句は、「いかに鬼神もたしかに聞(きけ)」の「謡曲・田村」の「文句取り」の一句である。
 この「鬼神」が、「風神・雷神」の「鬼神」ということになろう。この句に対する蕪村の脇句も、「ましてや間近き鈴鹿山」(「謡曲・田村」)の「文句取り」の一句で応酬しているところがポイントとなる。意味するところのものは、「風神・雷神さんが夕立の雲に乗って、確かに、祈雨に応えてくれるであろう」というようなことになろう。
 几董の第三は、「天候急変に舟が避難している」という付けということになる。

 ここで、冒頭の「風神雷神図屏風」(伝狩野探幽)を見ると、これは「怒れる風神・雷神」図ではなく、「祈雨に応えている風神・雷神」図ということになろう。
 そして、「風神雷神図」のイメージを今に元祖的に伝えている、宗達の「風神・雷神」図も、決して、上記の「三十三間堂」の「怒れる風神・雷神」図ではなかろう。
 しかし、それはそれとして、決して、地上界の「祈雨に応えている風神・雷神」図というイメージでもなかろう。
 ずばり、六世紀初頭の、日本から遠く離れた敦煌の、その「敦煌莫高窟第二四九窟の壁画」に描かれた「風神・雷神」図の、その「彩色豊かな・動的にして且自由闊達な、その『風神・雷神』」を、見事に活写した、十七世紀の日本の、そして、京都の一介の絵師の、「俵屋宗達」の、その「風神雷神図屏風」は、まさに、「風神雷神図」のイメージの元祖としての位置を不動のものにするのであろう。
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