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江戸の「金」と「銀」の空間(その三) [金と銀の空間]

(その三) 抱一の「銀」(夏秋草図屏風)と「金」(下絵)

 かつて、下記のアドレスで、抱一の「夏秋草図屏風」について触れた。

http://yahan.blog.so-net.ne.jp/2018-01-26

夏秋草.jpg

酒井抱一筆「夏秋草図屏風」紙本銀地着色 二曲一双 各一六四・五×一八一・八cm
東京国立博物館蔵(重文) 文政四・五年(一八二一・二二)頃

「銀箔地の右隻は夕立にしなだれる夏草、左隻には風にたなびく秋草を描く。一八二一(文政四)年末頃。十一代将軍徳川家斉の実父、一橋治済(はるさだ)の注文で描かれたことが、下絵とともに出現した書付から判明した。もとは光琳の「風神雷神図屏風」の裏面に描かれていたが、現在は別々の屏風に仕立て直されている。機知に富む構成、曲線を多用した優美で卓越した描写など、抱一作品の最高峰を誇る。」(『別冊太陽 酒井抱一 江戸琳派の粋人』所収「江戸の風流を描く(岡野智子稿)」)

 この解説文の、「下絵とともに出現した書付から判明した。もとは光琳の『風神雷神図屏風』の裏面に描かれていたが、現在は別々の屏風に仕立て直されている」の、その下絵なるものの、「夏秋草図屏風草稿」は、次のものなのである。

夏秋草下絵.jpg

酒井抱一筆「夏秋草図屏風草稿」紙本着色 二曲一双 各一六二・〇×一八一・四cm
出光美術館蔵 文政四年(一八二一)

「一九九一年の発見当時、大きく話題になった『夏秋草図屏風』の本下絵。もとは折り畳まれて保管されていたようだが、現在屏風に改装されている。その屏風の裏に添付されている書付によると、この下絵は文政四年十一月九日に、抱一から注文主の一橋治斎に宛てた、伺下絵であった。この下絵から本絵への制作過程に、構図上の変更はほとんどない。」
(『別冊太陽 酒井抱一 江戸琳派の粋人』所収「江戸の風流を描く(岡野智子稿)」)

 ここで、「本絵(完成画)と下絵(「完成画」前の草稿画)」について確認をして置きたい。

【(下絵)→ 完成画(本絵(ほんえ))を描く前の準備段階で、構想をまとめるためにつくる図。初めに小さな画面に画想の大略を表して構図化するのが普通で、これを小下絵(こじたえ)とよぶ。次にこれを基に本絵の大きさに拡大し、細部まで整えて下絵(または下図)をこしらえる。日本画の場合はこの下絵に紙や絹を重ね、敷き写して本絵の構図を決めるが、敷き写しのできない壁画や板絵などでは念紙を用いる。また、先のとがったもので下絵の上から傷をつけて下に写す釘(くぎ)彫りや、重ねた紙に針で線をなぞって写し取り、上から白い粉をはたき点線で記す法もある。
 西洋画ではエチュード、エスキス、エボーシュ、デッサンなどの語をあててよぶが、本絵と同寸大の下絵にカルトン、フレスコではシノピアなど、用語も多様である。油絵の場合、スケッチを小下絵にしてカンバスに直接下絵を施し、その上に絵の具を塗り重ねて本絵をつくる。
 また染織の場合の下絵は、青花(ツユクサ)汁など、水染で脱色可能なもので描く方法が古くから用いられた。[村重 寧] 出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)  】

 抱一の代表作「夏秋草図屏風」(二曲一双・紙本銀地着色)は、抱一の「銀屏風」の頂点を極めたものと言われている(『別冊太陽 酒井抱一 江戸琳派の粋人』所収「抱一と銀(宗像晋作稿)」)。
 抱一には、何点かの「銀屏風」がある。

一 「波図屏風」 六曲一双 紙本銀地墨画着色 各一六九・八×三六九・〇 静嘉堂文庫美術館蔵 文化十二年(一八一五)頃
二 「紅白梅図屏風」 六曲一双 紙本銀地着色 各一五二・五×三一九・六 出光美術館蔵 文政四年(一八二一)頃
三 「四季花鳥図屏風」(裏「波濤図屏風」)八曲一双 紙本銀地着色(表「紙本金地着色」) 各二一・〇×七二・〇 出光美術館蔵 文政元年(一八一八)頃


 この「三」の「四季花鳥図屏風」は「表」の「金(ゴールド)」の世界で、その「裏」の「波濤図屏風」が、「銀(シルバー)」の世界ということになる。
 そして、冒頭に掲げた抱一の「夏秋草図屏風」(銀・シルバー)は、光琳の「風神雷神図屏風」(金・ゴールド)の「裏絵」ということになる。
 さらに、冒頭に掲げた抱一の「夏秋草図屏風草稿」(金・ゴールド)は、「夏秋草図屏風」(本絵・銀・シルバー)の「下絵」ということになる。
 これらの、「本絵と下絵」、そして、「表絵と裏絵」とが、「金(ゴールド)」と「銀(シルバー)」とで、それぞれ「反転」して制作しているところに、酒井抱一の、尾形光琳への、限りないオマージュ(追慕の情)と、相互の「光琳(金・ゴールド)・抱一(銀・シルバー)」とのメッセージ(交流の情)を垣間見る思いがする。
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