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江戸の「金」と「銀」の空間(その八) [金と銀の空間]

(その八)光琳の「金と銀」(「紅白梅図屏風」)

紅白梅図屏風.jpg

尾形光琳筆「紅白梅図屏風」二曲一双 各一五六・〇×一七二・二cm MOA美術館蔵

一 主題 → 「暗香疎影(あんこうそえい)」 → 「どこからともなく漂う花の香りと、月光に照らされた木々の影の情景。または、梅のこと。「暗香」はどこからか漂う良い香りのこと。「疎影」はまばらに広がる木々の影のこと。」 

林和靖(りんなせい)「山園小梅」

「衆芳揺落独嬋妍  衆芳 揺落して 独(ひとり)嬋妍たり
占尽風情向小園  小園にて 風情を占め尽くす
疎影横斜水清浅  疎影 横斜して 水 清浅
暗香浮動月黄昏  暗香 浮動して 月 黄昏
霜禽欲下先偸眼  霜禽 下らんと欲して 先ず眼を偸む
粉蝶如知合断魂  粉蝶 如(もし)知らば 合(まさ)に魂を断つべし
幸有微吟可相狎  幸に微吟の相い狎なるべき有り
不須檀板共金樽  須(すべからず)もちいず 檀板と金樽とを 」

二 描写技法

1 没骨法(もつこつほう)→筆線でていねいに物象の輪郭をとらえる鉤勒法(こうろくほう)に対し、輪郭線を引かずに、水墨や彩色の広がりある面によって形体づける技法。中国では唐代中期からみられるが、宋代に確立、山水・花鳥・人物画に用いられ、とくに花鳥画では北宋初期の徐崇嗣(じょすうし)の系統を受けた、いわゆる徐氏体を特徴づける手法であった。これに対し鉤勒法は黄氏体(こうしたい)に特徴的である。広い意味では、わが国の俵屋宗達や尾形光琳に代表される琳派の画法や、円山・四条派の付立法(つけたてほう)なども没骨法の一種である。

2 たらし込み → 色を塗ってまだ乾かないうちに他の色をたらし、そのにじみによって独特の色彩効果を出すもの。自覚的に用いたのは宗達が初めで、以後、琳派がさかんに用いた。

3 点苔(てんたい) → 岩石・枝幹などの苔を点によって表現するもの。群がり生えている草木,遠くの樹木などを描くのにも用いる。また,画面の調子を整えるための,重要な技法ともされる。

三 使用されている色

 紅と白(梅の花)、緑(苔)の三色、その他は、禽・銀と水墨だけである。

四 特殊な金箔

 箔足(金箔を貼った境目)があるが、金箔としても最も薄いもので、「強い光沢ではなく、やわらかな金色を求めていた」ことが窺える(『もっと知りたい尾形光琳(仲町啓子著)』)。

五 流水の妙

 意匠的な流水の紋様は、宗達の伊勢物語絵のものをモデルとしている。銀箔が使用されているという説もあるが(『別冊太陽 尾形光琳 琳派の立役者』所収「紅白梅図屏風(中部義隆稿)」)、「二〇〇三~〇四の調査で銀の使用はみられないことが確認された」(『もっと知りたい尾形光琳(仲町啓子著)』)。
 しかし、この流水には、銀が浮かび上がっている感じで、何かしらの細工が施されているのであろう。

六 水くぐりの枝

 左隻には、白梅の枝と水流が重なったところがある。墨倍図などに伝統的にみられる「水くぐりの枝」をイメージしている。

七 その他

 この作品は、明治時代には津軽伯爵家に伝えられたもので、「婚礼の儀式を飾るにふさわしい。紅梅を描く右隻の前に新婦、白梅を描く左隻の前に新郎が座れば、人物の背景になることで、画面の奥行きはより自然に感じられ、左右の隻の対照的な表現も際立つ。この作品に用いられた色彩は、梅の花の紅白と苔の緑にすぎない。その他は、金銀と水墨である。光を受けて輝く様子はさぞかし華やかであっただろう」(『別冊太陽 尾形光琳 琳派の立役者』所収「紅白梅図屏風」(中部義隆稿)」)。  

(追記)

 「『紅白梅図』の金地ともなれば、もうほとんど金の輝きは失われているといってもよいであろう。そもそもこの屏風は夜のシーンなのだ。このような金地における宗達から光琳の変質の先に、抱一が愛した銀地の絵画世界が広がっている。金地が陽光だとすれば、銀地は月光のイメージを内包しているのだ」(『別冊太陽 尾形光琳 琳派の立役者』所収「光琳の金地表現」(河野元昭稿)」)。



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