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「光琳・乾山そして蕪村」周辺覚書(その八) [光琳・乾山・蕪村]

その八 乾山の「角皿二」(「定家詠十二ケ月和歌花鳥図角皿」)

乾山皿二.jpg

(表)「定家詠十二ケ月和歌花鳥図角皿」の「十二月」(フーリア美術館蔵)

乾山皿二の一.jpg

(裏)「定家詠十二ケ月和歌花鳥図角皿」の「十二月」(フーリア美術館蔵)
Square dish with design after Fujiwara Teika, Poems of the Twelve Months, twelfth month
Type Square dish (kakuzara)
Maker(s) Artist: Ogata Kenzan (1663-1743), Narutaki workshop (active 1699 - 1712)
Historical period(s) Edo period, 1699-1712
Medium Buff clay; enamels, white slip, and iron pigment under transparent lead glaze
Dimension(s) H x W: 2.4 x 16.9 cm (15/16 x 6 5/8 in)

(メモ)

一  上記の『裏面』の読みは次のとおり。

十二月 早うめ  
色うつ(づ)むかきねの
雪の花なか(が)ら年のこ
なたに匂ふ梅が枝(※え)
水鳥 なか(が)めする池の
氷にふる雪のかさ
なる年を鴛(をし)の毛衣

二 先に紹介した下記の「新佐野乾山」の「黒地白梅流水八寸皿」の賛「ちるはなをいとめてみたし水のうえ」)の「みずのうえ」は、この「梅が枝(え)」と同じような用例なのであろうか(?)

佐野乾山二.jpg

(新佐野乾山「黒地白梅流水八寸皿」の賛「ちるはなをいとめてみたし水のうえ」)

三 この「定家詠十二ケ月和歌花鳥図角皿」は、「MOA美術館蔵」の十二枚一組の作品の、その「十二月」の裏面に、下記のとおり「元禄十五年《一七〇二》」の落款が施されており、
乾山が、四十歳の頃の作品ということが分かる。すなわち、乾山が鳴滝に開窯した頃の初期の作品で、当時の人気作品ということになる。この種のものは、「表」面の図柄も、「裏面」の和歌の散らし書きも、そのシリーズもので、それぞれ微妙に異なっている。

乾山皿二の二.jpg

「定家詠十二ケ月和歌花鳥図角皿」(MOA美術館蔵)の「十二月」の裏面

四 「乾山窯」(乾山工房)における乾山の役割は、「プロデューサ(製作者)兼ディレクター(監督)兼クリエイター(創作者)」というゼネラリストととしてのそれで、例えば、光琳は「クリエーター」(「絵付け」のスペシャリスト)ということになる。そして、この「定家詠十二ケ月和歌花鳥図角皿」での乾山の役割は、この「角皿」の全体の枠組みを考案し、さらに、その「陶法」(白絵具の技法・応用など)を編み出し、それを作陶者(陶工者)や絵付師に指示し・監督し、製品を作り上げるということになろう。そして、この角皿では、「裏面」の和歌を散らし書きしなどを、担当したということになろう。

五 この「定家詠十二ケ月和歌花鳥図角皿」は、狩野探幽の「定家詠十二ケ月和歌花鳥図画帖」をモデルにして、乾山が考案したものなのであろう。
http://www.nagoya-boston.or.jp/exhibition/past/vessels-201102/point.html


乾山皿二の三.jpg

六 ちなみに、この『定家詠十二カ月』は、藤原定家の自撰歌集『拾遺愚草』の中の「後仁和寺宮花鳥」として収められる、次の月次(つきなみ)の二十四首である。

●一月(正月): 柳竹に鶯
うちなびき春くるかぜの色なれや日をへてそむる青柳の糸
春きてはいく世もすぎぬ朝戸いでに鶯なきゐる里の群竹

●二月(如月): 桜に雉

かざし折るみちゆき人のたもとまで桜に匂うきさらぎの空
かり人の霞にたどる春の日をつまどふ雉のこゑにたつらん

●三月(弥生): 菫に雲雀

ゆく春のかたみとやさく藤の花そをだに後の色のゆかりに
すみれさくひばりの床にやどかりて野をなつかしみくらす春かな

●四月(卯月): 卯花に郭公

白妙の衣ほすてふ夏のきてかきねもたわにさける卯花
郭公しのぶの里にさとなれよまだ卯の花のさ月待つ比

●五月(皐月): 橘に水鶏

ほととぎすなくや五月のやどがほにかならず匂う軒の橘
まきの戸をたたくくひなのあけぼのに人やあやめの軒のうつり香

●六月(水無月): 撫子に鵜飼

大かたの日影にいとふ水無月の空さえをしきとこなつの花
みじか夜のう河にのぼるかがり火のはやくすぎ行くみな月の空

●七月(文月): 女郎花に鵲
 
秋ならでたれにあひみぬをみなえし契りやおきし星合の空
ながき夜にはねをならぶる契とて秋待ちたえる鵲のはし

●八月(葉月): 萩に雁
 
秋たけぬいかなる色と吹く風にやがてうつろふもとあらの萩
ながめやる秋の半もすぎの戸にまつほどしきる初かりのこゑ

●九月(長月): 尾花に鶉

花すすき草のたもとの露けさをすてて暮ゆく秋のつれなさ
人目さへいとど深草かれぬとや冬まつ霜に鶉なくらん
 
●十月(神無月): 残菊に鶴(たづ)

神無月しも夜の菊のにほはずは秋のかたみになにをおかまし
夕日影むれたつたづは射しながら時雨の雲ぞ山めぐりする

●十一月(霜月): 枇杷に千鳥

冬の日は木草のこさぬ霜の色を葉がへぬ枝の花ぞまがふる
千鳥なく賀茂の河せのよはの月ひとつにみがく山あゐの袖

●十二月(師走): 早梅に鴛鴦

色うづむかきねの雪の花ながら年のこなたに匂ふ梅がえ
ながめする池の氷にふる雪のかさなる年ををしの毛ごろも
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