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江戸絵画(「金」と「銀」と「墨」)の空間(その二) [金と銀と墨の空間]

(その二)山口素絢の「夏冬白鷺図屏風」


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山口素絢「夏冬白鷺図屏風」 六曲一双(右隻) 紙本銀地墨画

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山口素絢「夏冬白鷺図屏風」 六曲一双(左隻) 紙本銀地墨画  各一五五・三×三五四・三cm 「プライスコレクション」蔵(「夏のシラサギ、冬のシラサギ」)
【 総銀地に墨で、右隻には夏の、左隻には冬のシラサギを配した景が描かれています。水辺で遊ぶシラサギの一方で、雪のつもった木の上で身を寄せ合うシラサギの寒そうなこと! 水辺の涼しさ、雪のなかの凍えるような寒さを銀箔地が際だたせています。また、特に左隻には夜の景を表したものとも考えられています。なお、この作品は、もとは両面に絵が描かれた屏風の裏面だったと思われます。なぜなら、両端の扇(パネル)がやや変色しており、これは折りたたんだ時に外側に露出するためと考えられるからです。 】
(『若冲が来てくれました プライスコレクション 江戸絵画の美と生命』所収「作品解説(紺野朋子稿)」)

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山口素絢「夏冬白鷺図屏風」(右隻)→四扇・五扇(部分図・拡大図)

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山口素絢「夏冬白鷺図屏風」(左隻)→ 四扇・五扇(部分図・拡大図)

一 山口素絢(そけん)は、京都の生まれ、円山応挙の高弟で、応門十哲の一人である。
応挙門の源琦が「唐(から)美人画」の名手とすると、素絢は「倭(やまと)美人画」の名手として知られている。

二 上記の「作品解説」の、「特に左隻には夜の景を表したものとも考えられています。なお、この作品は、もとは両面に絵が描かれた屏風の裏面だったと思われます。なぜなら、両端の扇(パネル)がやや変色しており、これは折りたたんだ時に外側に露出するためと考えられるからです」のとおり、もともとは「六曲一双」の屏風絵ではなく、「六曲一隻」の「表と裏」の屏風絵ということになる。

三 この「表と裏」の屏風絵で、「表」を「金=ゴールド」、そして、「裏」を「銀=シルバー」の世界での代表的な作品が、「表(金=ゴールド)=風神雷神図(尾形光琳)」・「裏(銀=シルバー)=夏秋草図(酒井抱一)」であった。

四 その江戸琳派の創始者・酒井抱一が切り拓いた「表=金・コールド」と「裏=銀・シルバー」との対比の世界を、その抱一の高弟・池田孤邨は、「表(金=ゴールド)=紅葉に流水図(装飾画)」、そして、「裏(銀=シルバー)=山水図(水墨画・文人画)」の世界へと転換させたのであった。

五 これらの屏風の「表」と「裏」との対比は、「逆さ屏風」(屏風の「天」と「地」を逆転させて立てる=葬礼)に通ずる「様(さま)こと屏風」(表裏を反転させる)を意図したものと換言して差し支えなかろう。

六 この「様こと屏風」の観点から、「金=ゴールド」を「華やぎ・表・日・昼・婚礼」の世界とすると、「銀=シルバー」は、「翳り・裏・月・夜・葬礼」の世界ということになる。

七 しかし、冒頭の素絢の「夏冬白鷺図屏風」は、「表」も「裏」も「銀(シルバー)」の世界で、その「表」に「夏・昼・動の白鷺」、そして、「裏」に「冬・夜・静の白鷺」を描いている。この「銀(シルバー)」の「六曲一双」又は「六曲一隻(裏・表)」というのは、
「金(ゴールド)」のそれらに比すると、その作品例は極めて少ない。

八 それは、冒頭の「夏冬白鷺図屏風」を見ても、「銀(シルバー)」は、長い年月に酸化して黒色に変化するという特性があり、この「銀(シルバー)」を「墨」だけで、その作者の意図する「主題」を描くということは、容易ならざるものがあろう。

九 この作品が、「六曲一隻(裏・表)」の屏風絵とすると、その空間を飾ったのは、昼(表)と夜(裏)との使い分けであったのであろうか。しかし、表も裏も、総銀地ということになると、その場面転換の妙は、これまた、容易ならざるものがあろう。

十 いずれにしろ、「六曲一双」の「総銀地(シルバー)」の、応挙門・山口素絢の、この作品は、特筆に値するという雰囲気が伝わってくる。

【 山口素絢(やまぐちそけん) 1759‐1818(宝暦9‐文政1)
江戸後期の円山派画家。通称は武次郎,字は伯後,山斎と号す。京都の人。円山応挙に画技を学び,1795年(寛政7)師に従って香住の大乗寺障壁画制作に参加する。1813年(文化10)版の《平安人物志》により,そのころ祇園袋町に住していたことがわかる。人物画をよくして時様の和美人を得意とし,同門源琦の唐美人と併称された。著書に《倭人物画譜》,代表作に《草花図襖》(根津美術館)などがある。素岳はその子。(河野元昭稿) 】(『世界大百科事典 第2版』)

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