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雨華庵の四季(その十五) [雨華庵の四季]

その十五「冬(一)」

花鳥巻冬一.jpg

酒井抱一筆『四季花鳥図巻(上=春夏・下=秋冬)』「冬(一)」東京国立博物館蔵
https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0035826

花鳥巻冬一拡大.jpg

同上:部分拡大図

 右から「榛(の実)」「野菊」に続き、赤い実を付けた「青木の実」(三冬の季語)が登場する。その青木の葉の一枚に「蝉の抜け殻」(空蝉=晩夏の季語)を描いている(部分拡大図)。この「空蝉」は、前図の、能の「女郎花」「蟻通」の連想と同じく、『源氏物語』の「空蝉」(第三帖)を暗示しているものと解せられる。
 その左脇に、赤い蔦を這わせた「冬柏」が大きく左対角線上に描かれている。この冬柏も、『源氏物語』の「柏木」(第三十五帖)に由来するものであろう。その柏木の枯れた葉に「尉鶲(じょうびたき)」が、あたかも、『源氏物語』の柏木(官位の「衛門府」)の未亡人落葉の宮が詠む和歌「柏木に葉守の神はまさずとも人ならすべき宿の梢か」の、その梢を見ている雰囲気である。

青木の実(三冬・「桃葉珊瑚」)「青木はミズキ科の常緑低木。冬に楕円形のつややかな真紅の実をつける。冬でも青々とした葉ともあいまってその色は美しい。」
 長病のすぐれぬ日あり青木の実    風生「松籟」
 雪降りし日も幾度よ青木の実     汀女「汀女句集」

空蝉(晩夏・「蝉の殻、蝉の抜殻、蝉のもぬけ」)「蝉のぬけ殻のこと。もともと『現し身』『現せ身』で、生身の人間をさしたが、のちに、『空せ身』空しいこの身、魂のぬけ殻という反対の意味に転じた。これが、「空蝉」蝉のぬけ殻のイメージと重なった。」
 空蝉の殻は木ごとに留(とど)むれど魂の行くへを見ぬぞ悲しき 詠人知らず「古今集」
 梢よりあだに落ちけり蝉のから    芭蕉 「六百番発句会」

冬柏(三冬・「柏の枯葉・枯柏」)「ブナ科の落葉高木。冬に葉が枯れても、落ちないで枝について越冬する。その立ち姿や風に鳴る葉音は印象的で、『柏木の葉守の神』と古歌にあるように、神宿る木とされるのも頷ける。」
 柏木に葉守りの神はまさずとも人ならすべき宿のこずゑか 『源氏物語』「柏木」
 顔寄せて馬が暮れをり枯柏       亜浪 「亜浪句集」

蔦(三秋・「蔦紅葉・蔦の葉・錦蔦・蔦かずら」)「晩秋には紅葉して木や建物を赤々と染め上げる。青蔦は夏の季語。」
 桟やいのちをからむ蔦かづら     芭蕉 「更科紀行」 
 蔦植て竹四五本のあらし哉      芭蕉 「野ざらし紀行」
 苔埋む蔦のうつゝの念仏哉      芭蕉 「花の市」
 夜に入らば灯のもる壁や蔦かづら   太祇 「太祇句集」

色鳥(三秋・「秋小鳥」)「秋に渡ってくる美しい小鳥のことをいう。花鶏(あとり)や尉鶲(じょうびたき)、真鶸(まひわ)など。」
 色鳥のわたりあうたり旅やどり    園女 「小弓俳諧集」
 色鳥の中に黄なるはしづかなり    一青 「蓬路」
 鳥に先ず色を添へたる野山かな    浪化 「白扇集」

扇面夕顔図.jpg

酒井抱一筆「扇面夕顔図」 一幅 個人蔵 
【現在の箱に「拾弐幅之内」と記されるように、本来は横物ばかりの十二幅対であった。全図が『抱一上人真蹟鏡』に収載されており、本図は六月に当てられている。扇に夕顔を載せた意匠は、「源氏物語」の光源氏が夕顔に出会う場面に由来する。細い線で輪郭を括り精緻だが畏まった描きぶりは、この横物全般に通じる。模写的性質によるためか。「雨花抱一筆」と款し「抱弌」朱方印を押す。 】 (『酒井抱一と江戸琳派の全貌 求龍堂』)

抱一画集『鶯邨画譜』所収「紫式部図」

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2018-11-18

抱一筆「花街柳巷図巻」のうち「五月(五月雨)」(『源氏物語』の「空蝉」と「竹河」に関連するもの)

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2019-04-21

(参考)酒井抱一画に出てくる『源氏物語』

第三帖 空蝉 → 巻名は光源氏と空蝉の歌「空蝉の身をかへてける木のもとになほ人がらのなつかしきかな」および「空蝉の羽におく露の木がくれてしのびしのびにぬるる袖かな」による。

https://ja.wikipedia.org/wiki/空蝉_(源氏物語)

第四帖 夕顔 → 巻名及び人物名の由来はいずれも同人が本帖の中で詠んだ和歌「心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花」による。「常夏(ナデシコの古名)の女」とも呼ばれる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/夕顔_(源氏物語)

第三十六帖 柏木 → 巻名は作中で柏木の未亡人落葉の宮が詠む和歌「柏木に葉守の神はまさずとも人ならすべき宿の梢か」に因む。「柏木衛門督」とも呼ぶ。頭中将(内大臣)の長男。「柏木」とは王朝和歌における衛門府、衛門督の雅称である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/柏木_(源氏物語)

第五十四帖 竹河 → 巻名は薫と藤侍従の和歌「竹河のはしうち出でしひとふしに深きこころのそこは知りきや」および「竹河に夜をふかさじといそぎしもいかなるふしを思ひおかまし」に由来する。

https://ja.wikipedia.org/wiki/竹河
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