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酒井抱一筆「四季花鳥図屏風」周辺(十一) [抱一・四季花鳥図屏風]

その十一 鈴木其一筆「朝顔図屏風」と光琳筆「朝顔図香包」周辺

光琳・朝顔香包一.jpg

尾形光琳筆「朝顔図香包」一幅 絹本金地著色 二六・一×二一・一㎝
サンフランシスコ・アジア美術館蔵 → (図一)

光琳・朝顔香包二.jpg

尾形光琳筆「朝顔図香包」一幅 絹本金地著色 三三・三×二四・五㎝ 
シカゴ美術館蔵 → (図二)
【 両図とも組香で香木を入れるための香包としてデザインされたもので、「シカゴ美術館蔵」の方は、ほぼ同寸のものがこれ以外六点現存しており、セットとして制作されたものと思われる。いずれの場合も香包の機能性を充分考慮に入れて、最終的に下側になる中央部より、表となる側面に重点が置かれて描かれている。金箔地を背景に、草木や鳥が極彩色で描かれた香包は、贅を尽くした蒔絵の道具にも対抗し得る豪華な姿を呈したことであろう。
両図とも葉を墨と緑青で彩色し、葉脈を金泥で描き込んでいる。花の方は、「シカゴ美術館蔵」の方は、やや濃目の群青で花弁を彩色し、花蕊を金泥で描き込んでいるのに対し、「アジア美術館蔵」の花は淡目の群青を使い、胡粉で白い筋を入れ、中心部を暈しており、品種の異なる朝顔を描いていることがわかる。また偶然ではあるが、折目に生じた格子が竹垣のような印象を画面に与えている。 】(『琳派二・花鳥二(紫紅社刊)』所収「作品解説(別役恭子稿)」)

 「香包」(香包み)とは、中に香を入れて香席で使うもの(料紙)で、四つ折りにして使うため、表となる位置は画面の左中央の部分となる。光琳は、この彩色した装飾的な香包みを数多く制作しており、その図柄も、上記の「朝顔」だけではなく、「千羽鶴・白梅・紅梅・燕子花」など、いわゆる、「光琳紋様」(光琳の意匠化された図柄など)が目白押しである。
 今に、「琳派」の名の由来ともなっている尾形光琳は「燕子花図屏風」(六曲一双、根津美術館蔵、国宝)や「紅白梅図』(二曲一双、MOA美術館蔵、国宝)などの大画面の画家というイメージが強いが、それ以上に、この「香包」や「扇面画・団扇画・絵皿・蒔絵・小袖画」などの小品物や工芸物の名手なのである。
 そして、この「香包」などは、「扇面画・団扇画・絵皿(絵付け)」などと同じく、下絵を描くような手慣れた即興的な作品と解して差し支えなかろう。

其一・朝顔図拡大.jpg

鈴木其一筆「朝顔図屏風」のうち左隻「五・六扇」の部分拡大図 → (図三)

 これは、前々回から触れている其一の「朝顔図屏風」(六曲一双)の、左隻の最終部分の一部を切り取って拡大したものである。
 これを、上記の光琳の「朝顔図香包」(図一・図二)とを対比させるための、其一の「朝顔図香包」と紹介しても、よほどの目利きでないと、このトリック(詐術)を暴けないであろう。
それ以上に、実際に、これに香木を包み、その「折り目に生じた格子が竹垣」(図一・図二)のような状況になることを想像すると、これらの作業を媒体としての、新しい「美的空間」の展開すら見えてくる予感をも抱くのである。
 ここで、少なくとも、光琳の「朝顔図香包」(図一・図二)の小品は、其一の「朝顔図屏風」(六曲一双)の大画面の作品(「図三」の母体の「六曲一双」の屏風空間)に反転させることは、「宗達・光琳・抱一・其一」等の琳派の絵師達には容易なことであろう。
 と同時に、其一の「『朝顔図屏風』のうち左隻『五・六扇』の部分拡大図」(図三)の小品から、「宗達・光琳・抱一・其一」等の琳派の絵師達は、その詐術前以上の「朝顔図屏風・襖」などの大画面の大作を創造することは、これまた、極めて容易なことではなかろうかという思いがする。
 いずれにしろ、其一の師の抱一にしても、その「十二か月花鳥図」の基準的作品(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)の一つに「朝顔」(「玉蜀黍朝顔に青蛙図(七月)」は取り上げられており、
「光琳・乾山→抱一・其一」の、この流れにおいては、「朝顔」が好みの画題であったことは付記しておく必要があろう。
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