SSブログ

狩野探幽筆「新三十六歌仙画帖」(歌合)(その二) [三十六歌仙]

(その二)土御門院と皇太后宮大夫俊成女

土御門院.jpg

狩野探幽筆「新三十六歌仙画帖(左方二・土御門院)」(東京国立博物館蔵)各33.5×26.1
https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0009395

俊成女.jpg

狩野探幽筆「新三十六歌仙画帖(右方二・皇太后宮大夫俊成女)」(東京国立博物館蔵)各33.5×26.1
https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0009413

俊成女全.jpg

(右方二・皇太后宮大夫俊成女)=右・和歌:左・肖像
https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/E0019784

(バーチャル歌合)

左方二 土御門院
http://www.ikm-art.jp/degitalmuseum/num/001/0010678000.html

 伊勢の海のあまの原なる朝がすみ/空にしほやく煙とぞ見る

右方二 皇太后宮大夫俊成女
http://www.ikm-art.jp/degitalmuseum/num/001/0010679000.html

 下もえにおもひ消南(きえなむ)煙だに/跡なき雲のはてぞかなしき

判詞(宗偽)

右方の俊成女は、後鳥羽院と同時代の、式子内親王の後継者ともいうべき、後鳥羽院歌壇の中心メンバーの一人ということになろう。対する、左方の土御門院は、後鳥羽院の第一皇子で、俊成女は、兄の定家ともども土御門院の師範挌のような立場で、ここにも、この俊成女を据えたのも、後鳥羽院の意向のように思われる。
 『後鳥羽院-日本文學の源流と傳統(思潮社刊)』という著を有する保田與重郎は、次のように俊成女を高く評価している。

「幽玄にして唯美な作として、俊成女ほどに象徴的な美の姿を、ことばで描き出した詩人はなかつた。俊成女のつくりあげた歌のあるものは、たゞ何となく美しいやうなもので、その美しさは限りない。かういふ文字で描かれた美しさの相をみると、普通の造形藝術といふものの低さが明白にわかるのである。音樂の美しさよりももつと淡いもので、形なく、意もなく、しかも濃かな美がそこに描かれてゐる。驚嘆すべき藝術をつくつた人たちの一人である」(保田與重郎『日本語録』)

 この「新三十六人歌合」は、「後鳥羽院撰」伝承といことを考慮すると、これまた、右方の「皇太后宮大夫俊成女」の一首を「勝」とすべきなのであろう。

(土御門院御製)
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/36sk.html#02

雪のうちに春は来ぬとも告げなくにまづ知るものは鶯のこゑ
埋れ木の春の色とやのこるらむ朝日がくれの谷のしら雪
伊勢の海のあまの原なる朝霞空にしほやく煙とぞ見る
見わたせば松もまばらになりにけり遠山桜咲きにけらしも
秋もなほ天の川原にたつ波のよるぞみじかき星合の空
おしなべて時雨るるまではつれなくて霰におつる栢木の森
逢はでふる涙の末やまさるらむ妹背の山の中の滝つせ
春のはな秋のもみぢのなさけだにうき世にとまる色ぞすくなき
白雲をそらなる物とおもひしはまだ山こえぬ都なりけり
秋の夜もやや更けにけり山鳥のをろのはつをにかかる月かげ

(俊成卿女)
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/36sk.html#22

梅のはなあかぬ色香もむかしにておなじかたみの春の夜の月
うらみずやうき世を花のいとひつつさそふ風あらばと思ひけるかな
面影のかすめる月ぞやどりけるはるやむかしのそでのなみだに
をしむともなみだに月はこころからなれぬる袖に秋をうらみて
色かはる露をば袖におきまよひうらがれて行く野辺のあきかな
ふりにけり時雨は袖に秋かけていひしばかりを待つとせしまに
霜枯はそことも見えぬ草の原たれにとはまし秋の名残を
あだに散る露の枕にふしわびてうづら鳴くなりとこの山かぜ
夢かとよ見し面かげも契りしもわすれずながらうつつならねば
いにしへの秋の空まですみだ河月にこととふそでのつゆかな

(俊成卿女の一首)
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/syunzejo.html#LV

五十首歌奉りしに、寄雲恋
下もえに思ひ消えなむ煙だに跡なき雲のはてぞかなしき(新古1081)
【通釈】おもてには顕わさず、ひそかに思い焦がれるまま、我が身は燃え尽きてしまうだろう、そしてその煙さえ、跡形もなく雲の果に消えてしまうだろう、と思えば悲しい。
【補記】建仁元年(1201)の仙洞句題五十首。
【他出】自讃歌、定家十体(幽玄様)、定家八代抄、続歌仙落書、俊成卿女集、新時代不同歌合、題林愚抄、兼載雑談
【参考歌】「狭衣物語」四
消え果てて煙は空にかすむとも雲のけしきをわれと知らじな
かすめよな思ひ消えなむ煙にも立ち遅れてはくゆらざらまし

土御門院 (つちみかどのいん) 建久六~寛喜三(1195-1231) 諱:為仁
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tutimika.html

後鳥羽院の第一皇子。母は承明門院在子(源通親の養女)。大炊御門麗子を皇后とする。贈皇太后土御門通子との間に覚子内親王(正親町院)・仁助法親王・静仁法親王・邦仁王(後嵯峨天皇)をもうけた。
建久九年(1198)正月十一日、四歳で立太子し、即日受禅。三月三日、即位。承元四年(1210)十一月二十五日、皇太弟守成親王(順徳天皇)に譲位。この時十六歳。承久三年(1221)の乱には関与せず、幕府からの咎めもなかったが、父後鳥羽院が隠岐へ、弟順徳院が佐渡へ流されるに際し、自らも配流されることを望んだ。同年閏十一月、土佐に遷幸し、翌年幕府の意向により阿波に移る。寛喜三年(1231)十月、出家。法名は行源。同月十一日(または十日)、阿波にて崩御。三十七歳。陵墓は京都府長岡京市金、金原陵。徳島県鳴門市池谷に火葬塚がある。
新勅撰集などによれば内裏歌合を催したことがあったらしい。建保四年(1216)三月成立の『土御門院御百首』には定家・家隆の合点、定家の評が付されている。御製を集めた『土御門院御集』がある。続後撰集初出。勅撰入集百五十四首。新三十六歌仙。

藤原俊成女(ふじわらのとしなりのむすめ) 生没年未詳(1171?~1254?)
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/syunzejo.html

 藤原俊成の養女。実父は尾張守左近少将藤原盛頼、母は八条院三条(俊成の娘)。俊成は実の祖父にあたるが、その歌才ゆえ父の名を冠した「俊成卿女」「俊成女」の名誉ある称を得たのであろう。晩年の住居に因み嵯峨禅尼、越部禅尼などとも呼ばれる。勅撰集等の作者名表記としては「侍従具定母」とも。
 治承元年(1177)、七歳の頃、父盛頼は鹿ヶ谷の変に連座して官を解かれ、八条院三条と離婚。以後、俊成卿女は祖父俊成のもとに預けられたものらしい。建久元年(1190)頃、源通具(通親の子)と結婚し、一女と具定を産む。しかし夫は正治元年(1199)頃、幼帝土御門の乳母按察局を妻に迎え、以後の結婚生活は決して幸福なものではなかったようである。
 後鳥羽院主催の建仁元年(1201)八月十五日撰歌合が「俊成卿女」の名の初見。同年の院三度百首(千五百番歌合)にも詠進している。同二年(1202)、後鳥羽院に召され、女房として御所に出仕する。院歌壇の中心メンバーの一人として、「水無瀬恋十五首歌合」「八幡宮撰歌合」「春日社歌合」「元久詩歌合」「最勝四天王院障子和歌」などに出詠した。
 建保元年(1213)、出家。以後も旺盛な作歌活動を続け、建保三年(1215)の「内裏名所百首」をはじめ、順徳天皇の内裏歌壇を中心に活躍した。安貞元年(1227)、夫通具の死後、嵯峨に隠棲。貞永二年(1233)頃、兄定家の『新勅撰和歌集』撰進の資料として、家集『俊成卿女集』を自撰した。仁治二年(1241)の定家死後、播磨国越部庄に下り、余生を過ごした。晩年まで創作に衰えを見せず、宝治二年(1248)の後嵯峨院「宝治百首」などに健在ぶりが窺える。
 建長三年(1251)以後、甥(実の従弟)為家に続後撰集に関する評などを送った『越部禅尼消息』がある。また物語批評の書『無名草子』の著者を俊成卿女とする説がある。
 新古今集の29首をはじめ、勅撰集に計116首を入集。宮内卿と共に新古今の新世代を代表する女流歌人。新三十六歌仙。
(俊成女評)
「今の御代には、俊成卿女と聞こゆる人、宮内卿、この二人ぞ昔にも恥じぬ上手共成りける。哥のよみ様こそことの外に変りて侍れ。人の語り侍りしは、俊成卿女は晴の哥よまんとては、まづ日を兼ねてもろもろの集どもをくり返しよくよく見て、思ふばかり見終りぬれば、皆とり置きて、火かすかにともし、人音なくしてぞ案ぜられける」(鴨長明『無名抄』)。
「幽玄にして唯美な作として、俊成女ほどに象徴的な美の姿を、ことばで描き出した詩人はなかつた。俊成女のつくりあげた歌のあるものは、たゞ何となく美しいやうなもので、その美しさは限りない。かういふ文字で描かれた美しさの相をみると、普通の造形藝術といふものの低さが明白にわかるのである。音樂の美しさよりももつと淡いもので、形なく、意もなく、しかも濃かな美がそこに描かれてゐる。驚嘆すべき藝術をつくつた人たちの一人である」(保田與重郎『日本語録』)
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:アート

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。