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「鶴下絵三十六歌仙和歌巻(光悦書・宗達画)」周辺(その七) [光悦・宗達・素庵]

その七 「A図とB図」(その一)

鶴下絵図和漢ーA図.jpg

A図『鶴下絵和歌巻』(1柿本人麻呂と2凡河内躬恒)

鶴下絵和歌巻B図.jpg

B図『鶴下絵和歌巻』(2凡河内躬恒と3大伴家持)

3中納言家持(大伴家持)
かささぎの渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける(「俊」)
https://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/meihin/kinsei/item02.html

https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/yakamot2.html

3 かささぎの渡せる橋におく霜の白きを見れば夜ぞ更けにける(新古620・百人一首6)

【通釈】天の川を眺めると、鵲(かささぎ)が翼を並べて渡すという橋に、あたかも霜が置いているかのように、星々が輝いている。その冴え冴えと白い光を見れば、夜もすっかり更けてしまったのだった。
【語釈】◇かささぎのわたせる橋 七夕の夜、鵲が翼を並べて天の川に橋を架け、織女を渡すとの伝説に由る。「烏鵲(うじやく)河を填(う)めて、橋を成して以て織女を渡す」(白孔六帖)。但し『大和物語』百二十五段の壬生忠岑の歌では御殿の御階(みはし)を「かささぎのわたせるはし」によって喩えており、これに基づき賀茂真淵は宮中の御階の比喩と解した。「烏鵲橋は先大内の御橋を天にたとへいへり」(初学)。◇おく霜の 夜空にしらじらと光る星を霜に喩える。「月落ち烏鳴いて霜天に満つ」(張継「楓橋夜泊」)を踏まえることが古注以来指摘されている。橋を宮中の御階と解する説からすれば、階(きざはし)の欄干などに付いた霜を言うことになる。
【補記】『家持集』では結句が「よはふけにけり」。

三十六歌仙・家持.jpg

『三十六歌仙・上・大伴家持([風俗絵巻図画刊行会)』(国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/967012/8

さをしかのあさたつをのの秋はぎにたまとみるまでおけるしらつゆ(新古334)

https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/36k_t.html#05

(歌意)
「男鹿が朝立っている野辺の秋萩の上に玉かと見まがうまでに置いている白露よ。」『新日本古典文学大系 11』
(補記)
原歌は万葉集八。和漢朗詠集「露」。雄鹿と秋萩を男女に見立て、露はきぬぎぬの別れの涙。「露に結ぶ萩」の歌。

扁額・家持.jpg

【狩野探幽画・青蓮院宮尊純親王書「三十六歌仙・中納言家持」金刀比羅宮宝物館蔵 】
http://www.konpira.or.jp/museum/houmotsu/treasure_house_2015.html

https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/yakamot2.html

巻向(まきむく)の檜原のいまだくもらねば小松が原にあは雪ぞふる(新古20)

【通釈】巻向山の針葉樹林がまだ曇っていないのに、小松の生える原には淡雪が降っている。
【語釈】◇巻向 奈良県桜井市の巻向山。◇檜原(ひばら) 山の斜面を覆う、檜などの針葉樹林。「はら」は野原や平原と言う時の原でなく、或る植物が群生している場所を意味する語。「萩原」「松原」などと同じである。
【補記】下記万葉歌の異伝。淡雪の降る「小松が原」にいて、「巻向の檜原」を遠望している。『家持集』では冬歌とされ、結句は「あわゆきぞふる」。「あわゆき」は泡のように溶けやすい雪のことであるが、後世「淡雪」と解されるようになったものらしい。淡雪は春のものとされたので、新古今集では春の部に載せている。
【他出】家持集、俊成三十六人歌合、時代不同歌合、歌枕名寄、雲玉集
【参考歌】作者未詳「万葉集」巻十
巻向の檜原も未だ雲居ねば小松が末ゆ沫雪流る

(追記一)『鶴下絵和歌巻』の流れ(「百韻」と「見立て」の視点など)

鶴下絵和歌巻・一の折.jpg

『鶴下絵和歌巻』(一の折)

『鶴下絵和歌巻』(A図・B図)(成立時期=光悦軽い中風発作以前=慶長十七年・一六一二前)

(一番歌=人丸)
ほのぼのと明石の浦の朝霧に島隠れ行く舟をしぞ思ふ
(二番歌=躬恒)
いづくとも春の光は分かなくにまだみ吉野の山は雪降る
(三番歌=家持)
かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける

「佐竹三十六歌仙」(成立時期=藤原良経没前=元久三年・一二〇六前)

(一番歌=人丸)
ほのぼのとあかしの浦のあさぎりに島がくれゆく舟をしぞおもふ
(二番歌=躬恒)
いづくとも春のひかりはわかなくにまだみ吉野の山は雪ふる
(三番歌=家持)
さをしかのあさたつをのの秋はぎにたまとみるまでおけるしらつゆ

「金刀比羅宮扁額三十六歌仙」(成立時期=慶安元年・一六四八前後)

(一番歌=人丸)
ほのぼのと明石の浦の朝霧に島隠れ行く舟をしぞ思ふ
(二番歌=躬恒)
住の江(すみよし)の松を秋風吹くからに声うちそふる沖つ白波
(三番歌=家持)
巻向(まきむく)の檜原のいまだくもらねば小松が原にあは雪ぞふる

(上記の「解説」など)

「佐竹三十六歌仙」の成立時期は、伝承の「書=藤原(九条)良経・画=藤原信実」の、藤原(九条)良経の没前として、一応の目安として「元久三年・一二〇六前」として置きたい。
『鶴下絵和歌巻』の成立時期は、光悦が軽い中風の発作に見舞われた「慶長十七年・一六一二前」などを、これまた、一応の目安として置きたい。
そして、「金刀比羅宮扁額三十六歌仙」の成立時期は、その奉納された「慶安元年・一六四八前後」として置きたい。
 さて、この「佐竹三十六歌仙」は、「百韻」連歌の時代ではなく「歌合」の時代で、この「左方一・二・三」(上巻)の和歌は、「右方一・二・三」(下巻)と対峙するもので、下記の「左方一・二・三」の流れを、連歌のルール(式目)で見て行くのはやや無理な点があろう。

(一番歌=人丸)
ほのぼのとあかしの浦のあさぎりに島がくれゆく舟をしぞおもふ
(二番歌=躬恒)
いづくとも春のひかりはわかなくにまだみ吉野の山は雪ふる
(三番歌=家持)
さをしかのあさたつをのの秋はぎにたまとみるまでおけるしらつゆ

 この一番歌(人丸)の歌の「あさぎり(朝霧)」の「朝」と、三番歌(家持)の歌の「あさたつ(朝立つ)」の「朝」が「輪廻」(同一語・同一イメージ)の関係で、「前の歌(句)に付けて打越(前々)の歌(句)から転じる」の「転じ」の反対に逆戻りして一歩も前に進んでいない。季語(季題)的にも、「霧(秋)→春の光(春)→鹿・秋萩・露(秋)」と、これまた逆戻りしている。

 次に、「金刀比羅宮扁額三十六歌仙」は、「明石の浦→住の江又は住吉→巻向の檜原」の「歌枕」の三連続が、連歌の流れというよりも、それぞれの歌の屹立性を示しているように思われる。

(一番歌=人丸)
ほのぼのと明石の浦の朝霧に島隠れ行く舟をしぞ思ふ
(二番歌=躬恒)
住の江(すみよし)の松を秋風吹くからに声うちそふる沖つ白波
(三番歌=家持)
巻向(まきむく)の檜原のいまだくもらねば小松が原にあは雪ぞふる

 これらの「佐竹三十六歌仙」や「金刀比羅宮扁額三十六歌仙」に比すると、『鶴下絵和歌巻』の流れは、最も百韻連歌の流れに馴染み雰囲気を有している。

(一番歌=人丸)
ほのぼのと明石の浦の朝霧に島隠れ行く舟をしぞ思ふ
(二番歌=躬恒)
いづくとも春の光は分かなくにまだみ吉野の山は雪降る
(三番歌=家持)
かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける

 一番歌(人丸)の「ほのぼのと」(朝の景)→二番歌(躬恒)「いづくとも春の光は」(昼の景)に対して、三番歌(家持)の「夜ぞ更けにける」(夜の景)が絶妙な「転じ」になっている。そして、この歌は『俊成三十六人歌合』の一首ではあるが、同時に、『百人一首』(藤原定家撰)の六番歌でもある。


『三十六人撰』(藤原公任撰)の「家持」の歌
①あらたまのとしゆきかへる春たたばまづわがやどにうぐひすはなけ
②さをしかのあさたつをのの秋はぎにたまとみるまでおけるしらつゆ
③春ののにあさるきぎすのつまごひにおのがありかを人にしれつつ
『俊成三十六人歌合』(藤原俊成撰)の「家持」の歌
④まきもくの檜原もいまだ曇らねば小松が原に泡雪ぞ降る
⑤かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける
⑥神奈備の三室の山の葛かづら裏吹き返す秋は来にけり

 この六首のうち、「佐竹三十六歌仙」では、「②さをしかのあさたつをのの秋はぎにたまとみるまでおけるしらつゆ」、「金刀比羅宮扁額三十六歌仙」では、「④まきもくの檜原もいまだ曇らねば小松が原に泡雪ぞ降る」を撰び、そして、『鶴下絵和歌巻』では、「⑤かささぎの渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける」を撰んだときに、『鶴下絵和歌巻』の撰歌者(そして揮毫者)が、この歌が『百人一首』(藤原定家撰)の一首であることは、無論、承知していたことであろう。
 そして、この歌を、この三番歌として撰歌したときに、宗達の、ここに描かれている下絵の「鶴」を、「三十六歌仙」の鶴、そして「百歌仙」の鶴、即ち、これらの「鶴」を「歌仙=優れた歌人」を「見立て」(和歌・連歌・俳諧などで、ある物を別のものと仮にみなして表現すること)て、撰歌し、そして揮毫して行ったのではなかろうかと思いを深くする。
 即ち、『鶴下絵和歌巻』の「鶴」は、「歌仙=優れた歌人」の「見立て」で、この和歌巻の何と「百四十羽」(『日本の美術№460 光悦と本阿弥流の人々(河野元昭編著・2004年)』)を数える「鶴」は、「歌合」や「百韻連歌」に興じている歌人たちの映像と解したい。
 なお、「百韻」のルールなどは、先に「集外三十六歌仙(抱一筆)」で触れた、下記のアドレスのものなどが参考となる。

https://yahan.blog.ss-blog.jp/2019-10-28


(追記二)『光流四墨』(延宝三年・一六七五刊)上の四人(本阿弥光悦・尾形宗伯・秋葉貢庵・角倉素庵)

 延宝三年(一六七五)に刊行された『光流四墨』について、『創立百年記念特別展 琳派(東京国立博物館編・1972年)』の図録で、次のように紹介されている。

光流四墨.jpg

『創立百年記念特別展 琳派(東京国立博物館編・1972年)』所収「104『光悦四墨』三冊」
【 光悦流の手本として延宝三年(一六七五)に刊行された。この本に収められたのは、光悦の他、尾形宗伯(?~一六三一)・秋葉貢庵・角倉素庵の四人の筆跡で、当時かれらが光悦流の代表的な名手として喧伝されていたことがわかる。宗伯は、光琳・乾山兄弟の祖父に当たる人。 】(「104『光悦四墨』三冊」解説)

 この「太上天皇」は「後鳥羽天皇」である。そして、「鶯の」の歌は、「鶯の鳴けどもいまだ降る雪に杉の葉しろきあふさかの関」(『新古今』18)のようである。この『光流四墨』の「本阿弥光悦」のものが、この「太上天皇」から始まるとすると、光悦の後鳥羽院への憧憬の念というのが伝わって来る。また、「角倉与一」こと「角倉素庵」は、「光悦流四人」の内の一人(光悦門三羽烏の一人)で、『鶴下絵和歌巻』の書が、「角倉素庵」としても、それは、光悦(流・門)の、その掌上(その一角)のものという思いを深くする。
なお、『日本書道史(下巻)・講談社刊』の「光悦流」は下記のとおりである(数字などは「目次」番号)。これを見ると、「観世黒雪・烏丸光広・酒井抱一」も「光悦流(光流)」の一人に数えられている。

https://rnavi.ndl.go.jp/mokuji_html/000001278246-02.html

36 光悦流 〔三八九−四三九〕

401 本河弥光徳(1330) 三八九
402 角倉素庵(1331〜1335) 三八九
403 観世黒雪(1336) 三九一
404 堯円(1337) 三九一
405 本阿弥光悦(太虚庵)(1338〜1368) 三九二
406 本阿弥光瑳(1369〜1370) 四〇六
407 烏丸光広(1371〜1424) 四〇七
408 小島宗真(1425〜1430) 四二二
409 阿野実顕(1431〜1436) 四二五
410 清水谷実任(1437〜1438) 四二六
411 大黒常信(1439) 四二六
412 勘解由小路資忠(1440) 四二六
413 万里小路雅房(1441) 四二六
414 本阿弥光甫(1442〜1449) 四二七
415 本阿弥光由(1450) 四二九
416 尾形宗謙(主馬)(1451〜1458) 四三〇
417 灰屋紹益(1459〜1461) 四三四
418 本法寺日允(1462〜1464) 四三五
419 水野筑後守忠興(1465) 四三六
420 酒井抱一(屠龍)(1466〜1472) 四三六
421 秋葉貢庵(1473) 四三八
422 本満寺日将(1474) 四三九
423 本圀寺日酔(1475) 四三九
424 本阿弥光益(1476) 四三九

 関連して、「近衛流」と「滝本流」は次のとおりである。

27 近衛流 〔二五三−二八六〕

299 近衛信尹(信輔・信基・三藐院)(945〜980) 二五三
300 和久半左衛門(981〜989) 二七二
301 四辻季継(990) 二七六
302 西園寺公益(991) 二七六
303 九条道房(992) 二七六
304 近衛信尋(応山)(993〜1007) 二七七
305 大覚寺 空性親王(1008〜1010) 二八三
306 西園寺公満(1011) 二八三
307 滋野井季吉(1012〜1013) 二八四
308 鷹司信房(1014) 二八四
309 花山院忠長(1015) 二八四
310 鷹司教平(1016〜1017) 二八五
311 堀川康胤(1018) 二八五
312 北野禅昌(1019) 二八五
313 津田辨作吉之(1020) 二八六
314 近衛太郎君(1021) 二八六

33 滝本流 〔三六四−三八四〕

393 松花堂昭乗(1278〜1303) 三六四
394 豊蔵坊信海(1304〜1311) 三七七
395 藤田友閑(1312〜1316) 三八一
396 法童坊孝以(1317) 三八三
397 中村久越(1318) 三八四
398 雄徳山孝雄(1319) 三八四
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