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フリーア美術館逍遥(その一) [フリーア美術館]

(その一)宗達「雲竜図屏風」

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Dragons and Clouds
Type Screen (six-panel)
Maker(s) Artist: Tawaraya Sōtatsu 俵屋宗達 (fl. ca. 1600-1643)
Historical period(s) Momoyama or Edo period, 1590-1640
Medium Ink and pink tint on paper
Dimension(s) H x W: 171.5 x 374.6 cm (67 1/2 x 147 1/2 in)

【「雲竜図屏風」俵屋宗達 六曲一双 紙本墨画淡彩 各H x W: 171.5 x 374.6 cm
六曲一双の大画面に波間から姿を現し、対峙する二頭の龍を雄渾な筆致で描く。二頭に反転したような姿態でにらみ合う。龍は周りを黒雲で囲み、塗り残しの白さで表す。左右に躍る二組の波濤の形態は、のちに光琳や抱一の「波図屏風」にそのまま受け継がれている。龍のいかめしい顔にも、どこかゆとりがあってユーモアを覚える。 】(『もっと知りたい 俵屋宗達 村重寧著』)

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「風神雷神図」幻想(その十三) [風神雷神]

(その十三)光琳の「風神雷神図屏風」

光琳・風神雷神図.jpg

尾形光琳「風神雷神図屛風」二曲一双 紙本金地着色 江戸時代(18世紀)各一六六・〇×一八三・〇㎝  重文  東京国立博物館蔵

 俵屋宗達に比すると、尾形光琳については、その全体像が鮮明に浮かび上がって来る。
光琳は、万治元年(一六五八)〜享保元年(一七一六)の、光琳が没した年(享保元年=一七一六)に、その光琳の次の時代(江戸中期)を背負う、伊藤若冲と与謝蕪村とが誕生している。
 すなわち、「江戸時代の三代改革」(享保の改革・寛政の改革・天保の改革)の、そのトップに位置する「享保の改革」が断行された年に、光琳は没している。それは、江戸前期と後期との分岐点でもあり、光琳が活躍した時代は、いわゆる、「徳川の平和(パクス・トクガワーナ)」の右肩上がりの時代でもあった。
 その意味で、宗達と光琳とは、その年代差は、十七世紀(宗達))と十八世紀(光琳)との開きもあるが、共に、「江戸前期」の「京都」を中心にして、「徳川の平和(パクス・トクガワーナ)」の輝かしい時代の画人と位置付けることは可能であろう。
 その二人の関係を象徴するかのように、光琳は、上記のとおり、宗達の「風神雷神図屏風」を模写して、宗達の世界を自家薬籠中のものにして、日本画壇の中枢を占めていた「狩野派」に匹敵する、新しい日本画壇の息吹たる「琳派(宗達・光琳派)」という流れをスタートさせたのである。
 ここで、宗達と光琳の「風神雷神図屏風」の細部の比較などをすると次のとおりである(『俵屋宗達 琳派の祖の真実(古田亮著)』を参考としている。但し、サイズの大きさやその他同著の指摘と異なる表現も多い)。

一 共に、二曲一双の金屏風だが、サイズは、宗達画(各一五四・五 × 一六九・八 cm)に比し、光琳画(各一六六・〇×一八三・〇㎝)の方が、やや大きい。

二 宗達画では、雷神の連鼓や、風神のショールが画面からはみ出でているが、光琳画では画面内に収めている(光琳画のサイズが大きいのは、このことと関係しているようである)。

三 光琳画は、宗達画をトレース(敷き写し)したもので、シルエットなどは宗達画に一致する。故に、光琳画の描線は、そのトレースしている輪郭線という印象に比して、宗達画の線は墨の濃淡など、その描線を異にしている。

四 このことは、色彩についても、光琳画は均一にムラなく塗っている印象に比して、宗達画では着色の濃淡や粒子の粗密など微妙なニュアンスの相違点が出て来る。

五 一見して、宗達画の「二神の足元の雲」は、何色かの絵具(顔料)が複雑に絡み合い、そして、塗るというよりも「たらし込み」の技法で、濃淡の空間の深みのような表現に比して、光琳画は墨一色の黒さが目立ち、両者の相違点を際立たせている。

六 これらのことから、この両者の「風神雷神図屏風」に限ってするならば、宗達画が「絵画的」(「ぼかし」などの抑揚豊かな感性的世界の表現)な世界とすると、光琳画は、より「デザイン的」(「線描主義的な画面構成」と「装飾的な色彩対比」の重視)な世界という印象を抱かせる。

七 上記のことは、光琳画が、宗達画をトレース(敷き写し)し、模写するという、そういうことから派生する指摘事項で、「光琳画の創意点」という視点からすると、次のようなことも指摘出来よう。

七の(一) 風神と雷神を画面の中に収めて対峙させ、黒雲を背景に両神の姿を浮き上がらせ、その黒雲の形状も、風神の乗る雲は△形、雷神の乗る雲は○形にまとめて対照させている。画面には、宗達作品の空間の広がりに代わって、高い緊張感が生じている。
(『別冊太陽 尾形光琳 「琳派」の立役者(監修=河野元昭)』所収「作品解説・中部義隆稿」、なお、光琳画のサイズは、同著に因っている。)

七の(二) この光琳の「黒い雲」に着目すると、北斎の「雷神図」の、「黒い闇」と「赤いレザービームの雷光」が思い起こされて来る。

北斎・雷神図一.jpg

北斎筆「雷神図」(一部・拡大)フリーア美術館蔵(「オープンF|S」)
署名「八十八老卍筆」 印章「百」 弘化四年(一八四七)

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