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江戸絵画(「金」と「銀」と「墨」)の空間(その十五) [金と銀と墨の空間]

(その十五)鈴木其一筆「桜町中納言図」(一幅)

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鈴木其一筆「桜町中納言図」 一幅 絹本著色 一一六・八×四九・八㎝
千葉市美術館蔵
【 桜町中納言は、平安時代後期の歌人藤原成範の通称で、桜を殊のほか愛した成範は、自らの邸宅にたくさんの山桜を植え、春になると桜の下にばかりいたと伝わる。能「泰山府君」の登場人物でもあり、短い花の盛りを惜しんだ成範が、その命を延ばしてもらおうと泰山府君に祈ったところ、成範の風流な心に感じた泰山府君が現れ、願いを叶えってやったと云う。本作は、満開の山桜の下でくつろぐ桜町中納言と従者を描いたもので、構図自体は『光琳百図』所載の光琳画をほぼ忠実に踏襲している。「桜町中納言図」は師の酒井抱一にもいくつかの遺品があり、江戸琳派において継承された画題のひとつといえる。(久保佐知恵稿) 】
(『鈴木其一 江戸琳派の旗手 図録』所収「作品解説56 桜町中納言図」)

 この其一の作品は、『光琳百図』(鈴木抱一編)所収の「桜町中納言」の、いわゆる「光琳写し」(その「縮図」を模写しての作品)そのものである。そして、その「桜町中納言(藤原成範)」の「作品解説」としては、上記のものは「簡にして要を得ている」ということになろう。

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酒井抱一筆 三幅対「宇津山図・桜町中納言・東下り」(絹本着色 各九九・一×三五・〇㎝ 個人蔵) 出典(『琳派―版と型の展開(町田市立国際版画美術館編)』)

 しかし、この抱一の「三幅対」の中幅「桜町中納言」との関連ということになると、冒頭の「作品解説56 桜町中納言図」は、どうにも、「何かが欠けている」という思いが増して来るであろう。

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http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko06/bunko06_01266/bunko06_01266_0002/bunko06_01266_0002_p0008.jpg

抱一上人真蹟鏡. 上,下 / 抱一上人 [画] ; 池田孤邨 [編] - 早稲田大学

 そして、抱一・其一の次の世代を背負う一人の「池田孤邨」の、『真蹟上人真蹟』の、その上記の「縮図」に接すると、さらに、冒頭の「作品解説56 桜町中納言図」は、どうにも、「何かが欠けている」という思いが増太して来るの。

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○桜楓図 酒井抱一筆 (「洛東遺芳館」蔵)

紅葉ではなく、青楓が桜と対になっているのは珍しいですが、光琳に屏風の作例があり、それに傚った抱一の屏風作品もあります。それらの屏風作品は装飾的な画風ですが、この作品は描写的で、同時代の円山四条派に似た雰囲気があります。左幅では、橘千蔭の賛にも「ややそめ(染め)かくる」とあるごとく、紅葉しかけている姿が描写されています。落款の書体から、初期の作品であることが分かります。鈴木其一の「雨中桜花楓葉図」(静嘉堂文庫美術館所蔵)は、この作品が原型になっているようです。

http://www.kuroeya.com/05rakutou/index-2015.html

 この作品を収蔵している、「洛東遺芳館」については、これまでに、下記のアドレスのとおり、様々な視点から探索し続けてきた。

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/archive/c2306139641-1

 この「桜楓図」(洛東遺芳館蔵)に接すると、『抱一上人真蹟鏡』所収の「桜図・桜町中納言図・紅葉図」(三幅対)は、「桜図・桜町中納言図・楓図」なのかも知れない。
 さて、江戸琳派の抱一の高弟・池田孤邨でスタートとし、その抱一工房(雨華庵)の兄弟子・鈴木其一の「桜町中納言」で、一応のゴールとし、そこに、琳派発祥の地、京都の一角の「洛東遺芳館」の「桜楓図(双幅)」(抱一筆)を添えることも一興であろう。
 因みに、江戸(東京)の一角(静嘉堂文庫美術館)にも、次の「雨中桜花紅楓図(双幅)」(其一筆)の名品がある。

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鈴木其一筆「雨中桜花紅楓図」 双幅 絹本著色 各一一四・一×四㈦・五㎝
静嘉堂文庫美術館蔵


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