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酒井抱一筆「四季花鳥図屏風」周辺(八) [抱一・四季花鳥図屏風]

その八 鈴木其一筆「雪中竹梅小禽図」(細見美術館蔵)

其一・雪中竹梅図.jpg

鈴木其一筆「雪中竹梅小禽図」双幅・絹本着色 細見美術館蔵 一一一・九×五二・〇cm
【 雪竹に雀を右幅、雪の紅白に雀を左幅に描いた双幅。いずれも枝葉、花にこんもりと雪が積もり、なお画面には雪が舞っている。降り積もった雪を薄い水墨の外隈で表し、降る雪、舞う雪はさらに胡粉を吹き付けて雪らしい感じに仕上げている。雪深い中にも早春の気配を感じさせる図である。
 右幅では雪の重みでしなる二本の竹の枝が大きく弧を描き、雀が当たって勢いよく落ちる雪のさまが雪塊とともに長く滝のように表される。墨を交えた緑の竹と、それを覆うかのような雪が鮮やかなコントラストを見せている。同様な表現は、竹に替わり檜ではあるが、其一「檜図」や「四季図」(四幅対)にも見出され、其一が得意とした画題であった。
 これに対し左幅は、一羽の雀が寒さに耐えて羽を休め、静寂な画面である。ほころび始めた紅梅の花にも蕾にも雪が積もり、複雑な余白の表出を其一は楽しんでいるかのようである。
 雪と雀を左右共通のモチーフとしながら、静と動、緑と紅などを対比させ、雪のさまざまな形の面白さをも追及した意欲的な作品である。師の抱一が情趣の表現を追求したのに対し、其一は造形的な効果にも多く関心を払った。 】(『鈴木其一 江戸琳派の旗手(読売新聞社)』所収「作品解説(岡野智子稿)」)

 この「作品解説」の末尾の「抱一が情趣の表現を追求したのに対し、其一は造形的な効果にも多く関心を払った」ということを、「綺麗さび」という観点から見ていくと、抱一の「綺麗さび」は、「さび」(情趣)の表現を重視するのに比して、其一の「綺麗さび」は「綺麗」(造形的な効果)の表現を重視する傾向にあると換言することも出来よう。
 この「綺麗さび」とは、そもそも茶道の用語で、千利休(「わび・さび茶」の利休)と古田織部(「伊達風流」の織部流」)とを止揚する小堀遠州(「綺麗さび」の遠州流)との、この三者(茶人)の茶道観に由来するものと解したい。
 として、この三者(茶人)を俳諧師(俳人)に見立てると、「利休=芭蕉」、「織部=其角」、そして「遠州=屠龍(抱一)」ということになる。
 さらに、ここに抱一ゆかりの画人(絵師)を加味すると、「利休・芭蕉=尾形乾山=『(艶)隠者』」、「織部・其角=尾形光琳=『(伊達風流)歌舞伎者』、そして「遠州・屠龍(抱一)=酒井抱一=『江戸琳派=抱一・其一他『綺麗さび』」ということになる。
 このような観点に立って、改めて、冒頭の「造形的な効果にも多く関心を払った」其一筆「雪中竹梅小禽図」を観賞すると、やはり、其一の師の抱一が樹立した「綺麗さび」の世界であることを痛感する。
 と同時に、其一の師の抱一が、私淑し、目標とし、顕彰し続けた「尾形光琳・乾山」兄弟の、「光琳風(綺麗=造形性)」と「乾山風(さび=情趣性)」の「綺麗さび」の世界であることの印象を深くする。
 これらを証しする、「尾形光琳・乾山」兄弟の作品の一例を掲げて置きたい。

雪芦図団扇.jpg

尾形光琳筆「雪芦図団扇」一幅 紙本金地著色 二〇・九×二四・二㎝
落款「法橋光琳」 印章「潤声」白文方印 ファインバーグ・コレクション
【 団扇形の上辺と下辺を金地として、中央の素地を水辺に見立てる。雪をかむった枯芦が左方向へ倒れかかり、それを落款が受けとめている。商品ながら画面構成の密度は高い。】
(『琳派二・花鳥二(紫紅社刊)』所収「作品解説(小林忠稿)」)

乾山・雪竹図.jpg

尾形乾山筆「雪竹図」一幅 紙本墨画 九八・〇×三四・二㎝
落款「七十九紫翠深省画」 印章「霊海」朱文方印
賛「竹の葉は/うす雪ながら/色かへて/しぐれふりにし/つれなさも/なし」
寛保元年(一七四二)作
【(前略)「雪竹図」は『国華』一三一号にも紹介され、早くから乾山水墨画の秀作として名高い。自賛「竹の葉はうす雪ながら色かへてしぐれふりにしつれなさもなし」に、七十九翁の年紀がある。とつとつとした筆致のうちに、能にも通じあう幽玄な趣きが秘められている。(後略) 】(『琳派二・花鳥二(紫紅社刊)』所収「作品解説(河野元昭稿)」)
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