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酒井抱一の「綺麗さび」の世界(七) [抱一の「綺麗さび」]

その七 「扇面貼交屏風」(抱一筆)

扇面貼交屏風.jpg

酒井抱一筆「扇面貼交屏風」 扇面紙本着色 六曲一双(上=左隻 下=右隻)
各一五九・五×三三二・〇㎝ → A図

抱一・扇面屏風拡大.jpg

同上部分拡大図(上=左隻の第五扇)
上から「梔子図」「柿図」「水墨山水図」「双亀図」 → B図

【 金地左右両双屏風に扇面三十五面(右隻十八面、左隻十七面)を対照的に貼りつけてあるが、恐らく後代になって左右に散らして貼交ぜにしたものであろう。本来から屏風仕立てであったならば、左右双の片隅に落款と印章を捺すのが普通であるが、扇面各画面にだけ落款印章がそれぞれ捺してあるので、はじめから屏風仕立てなかったか、後に改装されたものであるという解釈が成立つ。
 またこの扇面画は一度も扇子として用いなかったと見えて、扇骨の入ったあとが認められず、注文によって多くを描き、注文主が好みによって散らしたもので、抱一自身はこの散らし方に参加していないようである。
 ここでは、右隻右上部からの扇面画から題名を記せば、桜に木戸図(勿来関図?)、紅葉に小禽図、鯰図、白梅図、竹林に田舎屋図、黒揚羽・紋白蝶図、紅立葵図、水仙図、石蕗図、菜の花図、富士図、月夜に砧図、紫式部(?)図、石燈籠に鹿図、野薔薇図、枇杷図、曲水に酒盃図、白兎図。左隻右上から蕨に蒲公英・菫図、水流に鷭図、雄鹿立つ図、白椿図、烏瓜図、小松図、夕顔図、未央(ビヨウ)柳図、陶淵明観菊図、菖蒲に蛤図、河骨に莞(フトイ)図、梔子図、柿図、水墨山水図、双亀図、雪中富士図、譲葉(ユズリハ)に羽根図である。
 四季の草花から行事、風習など純日本的な文学ものや陶淵明のような漢人物などにまで至り、画題は多岐にわたっている。抱一は扇面画をよく描いたらしく、東京国立博物館に六十面、大本教本部蔵に三十面、個人蔵俳画扇面貼交屏風に三十六面(これらは使用した扇面を貼付けたもの)等、まだまだ多く見ているので、その膨大な数に驚くほどである。とにかく各種の画題をこなし、そのレパートリーの広さを物語るものである。
 本屏風絵の全図や拡大した図を見てもわかるように洒脱した構図法とその色彩感にあふれ、いかにも江戸人の粋な気分がここに繰りひろげられている。
 各種には落款と印章をほどこしているが、落款はすべて「抱一筆」とある。但し印章は五種にのぼる。以下表にすれば
「文詮」 朱文瓢印 (右隻)十 (左隻)四 (合計)十四
「文詮」 朱文円印 (同) 四 (同) 三 (同)  七
「鶯村」 朱文壺印 (同) 三 (同) 二 (同)  五
「抱一」朱文重郭円印(同) 〇 (同) 二 (同)  二
「抱一」 朱文円印 (同) 一 (同) 六 (同)  七
となるが、この屏風に貼られた扇面画はほとんど同時期に一気に描かれたであろうと思われるし、また石蕗図、白椿図、未央(ビヨウ)柳図に捺されている朱文壺印「鶯村」の自号は「雨華庵」と同様、下根岸大塚の新築の家に名付けたとき、つまり文化十四年(一八一七)十二月以降であるから、文化中期以後の作となる。はっきりした制作年代は不明であるが、最も油の乗った折の作であろう。 】
『抱一派花鳥画譜三(紫紅社)』所収「本文・図版解説(中村渓男稿)」)

 「酒井抱一と江戸琳派関係年表」(『酒井抱一と江戸琳派の全貌(求龍堂)』所収)の文化六年(一八〇九)の十二月の項に、「下根岸大塚村に転居(句藻/御一代)、以後定住し、鶯の里にちなみ『鶯邨(村)』を用いるようになる」とあり、上記の解説中の「文化十四年(一八一七)十二月以降」は、「文化六年(一八〇九)十二月以降」の方が妥当であろう。
 しかし、『鶯邨画譜』を刊行したのは、文化十四年(一八一七)二月、そして、その庵居(下根岸大塚村)に「雨華庵」の額を掲げ、以来「雨華」の号を多用するようになったのは、「文化十四年(一八一七)十月十一日以降」のことで、上記の解説中の、「朱文壺印『鶯村』の自号は『雨華庵』と同様、下根岸大塚の新築の家に名付けたとき、つまり文化十四年(一八一七)十二月以降であるから、文化中期以後の作となる。はっきりした制作年代は不明であるが、最も油の乗った折の作であろう」は、『鶯邨画譜』の刊行に関連して、その指摘は首肯されるものであろう。
 その首肯する理由の一つとして、上記の「双亀図」が、『鶯邨画譜』の最後を飾る「双亀図」そのものということなのである。そして、この『鶯邨画譜』が刊行されたのは、その年の二月、その六月(十七日)に、「小鸞女史(御付女中・春篠)剃髪し、妙華尼と名乗る(御一代)」と共に、その二十五日に、抱一の愛弟子(酒井家付人)鈴木蠣潭が二十六歳の若さで急逝し、その後継者が其一(二十二歳、蠣潭の姉と結婚)なのである。
 この「双亀図」は、その年の様々なことを暗示しているように思われる。

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/archive/c2306169671-1

(再掲)

亀図.jpg

抱一画集『鶯邨画譜』所収「亀図」(「早稲田大学図書館」蔵)
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/chi04/chi04_00954/chi04_00954.html

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