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酒井抱一の「綺麗さび」の世界(十六) [抱一の「綺麗さび」]

その十六 「紅葉図扇面」(抱一筆)

(再掲)
 https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2019-09-05

抱一・扇面紅葉図.jpg

酒井抱一筆「紅葉図扇面」紙本金砂子地著色 一面 三六・五×五三・五㎝ →A図

桜楓図屏風・左.jpg

酒井抱一筆「桜・楓図屏風」の左隻(「楓図屏風」)デンバー美術館蔵 → B図
六曲一双 紙本金地著色 (各隻)一七五・三×三四・〇㎝
落款(左隻)「抱一筆」 印章(各隻)「文詮」朱文円印 「抱弌」朱文方印

桜楓図屏風・右.jpg

酒井抱一筆「桜・楓図屏風」の右隻(「桜図屏風」)デンバー美術館蔵 → C図
六曲一双 紙本金地著色 (各隻)一七五・三×三四・〇㎝
落款(右隻)「雨庵抱一筆」 印章(各隻)「文詮」朱文円印 「抱弌」朱文方印

【 抱一画には珍しい六曲一双の大画面に、桜と柳(右隻)、および紅葉(左隻)を中心とする、春秋の花卉草木を描いた作品。屏風の下辺に沿って土坡が連なり、その上をそれぞれ春草、秋草が覆って、木々の根元を彩っている。
 桜、柳、紅葉の幹は、濃い墨に緑青をまじえた、強い調子のたらし込みの技法を以て表される。いっぽう、桜の花や蕾、柳の細い葉、土筆、菫、竜胆といった、細部の描写においては、隅々まで神経の行きとどかせた、丁寧な筆づかいをみせる。金箔地を背景に、濃彩で明快な草花を描く琳派の伝統を強く意識しながら、余白を広くとる構図や、草花を描く細やかな筆づかいにも、抱一独特の構成力、描写力が発揮されている。
 「松藤図」屏風(アジア・ソサエティ・ロックフェラー・コレクション)や「四季花鳥図」屏風(陽明文庫・文化十三年)にも見出されるこのような表現を、本図は受け継ぐとみられ、落款の形式や特徴からも、文化年間末から文政前期の作と思われる。
 なお、本図は『酒井抱一画集』(国書刊行会)に載るほか、ブルックリン美術館で一九七五年に開かれた、Japaneese Paintings from the C.D.Center Collection 展カタログの表紙ともなっている。  】
(『琳派一・花鳥一(紫紅社刊)』所収「作品解説(大野智子稿)」)

 上記の「紅葉図扇面」(A図)については、下記のアドレスで二回に亘って触れている。

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2019-09-05
 ↓  ↑
https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2019-09-02

 それは、偏に、抱一の没する一年前(文政十年=一八二七、抱一、六十七歳)の、「十一月十一日、水戸候徳川斉修の茶席に招かれる。掛物は前年に納めた抱一の《菊紅葉双幅》。その返礼のため。(句藻)」(『酒井抱一と江戸琳派の全貌(求龍社)』所収「酒井抱一と江戸琳派関係年表)の、下記の「掛物※=菊紅葉」が、どんな図柄のものかを想定してのものであった。

【 御道具御会席附 
初坐
一 掛物   ゆらのと 定家卿筆
一 窯    広口天明 蓋漢鏡紋あり
一 香合   回也 庸軒作 画土佐光起
一 三ツ羽  大鳥
一 炭斗   人形台
一 水次   方口
後坐
一 掛物※   菊紅葉 等覚院抱一筆 讃清人藩世恩石韞玉
一 花入  船 砂張(船形の見取図あり) 船大サ二尺五寸斗水一盃入紅葉      絵の影をうつさんとの思召也
(後略)        】

 この、抱一が水戸候徳川斉修に納めた「菊紅葉」はひとまずとして、上記の「紅葉図扇面」(A図)は、流出して以来本邦未公開と思われる(?)、抱一の大作中の大作、「桜・楓図屏風(デンバー美術館蔵)」(B図・C図)の、その左隻(「楓図屏風」)と、非常に親近感のある雰囲気を有している。そして、同時に、水戸候徳川斉修に納めた「菊紅葉」(双幅)も、この左隻(「楓図屏風」)と関係の深いものなのではなかろうかという、そんな予感を誘う雰囲気を醸し出している。
 この抱一の大作(六曲一双)「桜・楓図屏風(デンバー美術館蔵)」(B図・C図)が、本邦未公開(?)ということについては、下記のアドレスの「抱一の屏風絵・襖絵」に因っている。そして、抱一の大作(六曲一双)で、相互に関連しているものと思われるものは、次の三点なのである。

http://houitu.com/houitu1.htm

三部作・四季花鳥図.jpg

「四季花鳥図屏風」(陽明文庫蔵) → D図

三部作・青朱楓.jpg

「青楓・朱楓図屏風」(個人蔵) → E図

三部作・桜楓.jpg

「桜・楓図屏風」(デンバー美術館・フレミングコレクション) → B図とC図


 この「四季花鳥図屏風」(D図)ついては、下記のアドレスで、十四回にわたり、その周辺を見てきた。

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2019-06-21
  ↓  ↑
https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2019-08-06

 次の「青楓・朱楓図屏風」(E図)については、「大琳派展 継承と変奏」(尾形光琳生誕三五〇周年記念、二〇〇八年一〇七日~一一月一六日・東京国立博物館)で、「四季花鳥図屏風」(E図)と同時に展示されていたことなど間接的に触れてきたが、正面からは取り上げてはいない。
 その時の図録(読売新聞社刊)によると、「この屏風の図柄は『光琳百図』に掲載された図と同じで、風神雷神図などと同様に抱一が光琳作品を目にして模写した作品ということになる。全体の色調が其一の『四季花木図屏風』とも通じ、楓の樹幹にはりつく苔のはなはだしさや形態は『夏秋渓流図屏風』でも目にすることができる」(松嶋雅人)と解説されている。
 そして、次の「桜・楓図屏風」(B図とC図)については、『琳派一・花鳥一(紫紅社刊)』で、今までに見落としていたもので、今回、これまでに何回か触れて来た「紅葉図扇面」(A図)の背後にある、抱一の大作中の大作、この「桜・楓図屏風」(B図とC図)に再会したのである。
 そして、この抱一の大作中の大作、そして、これは、抱一の晩年の作とも思われるのだが、この作品は、デンバー美術館所蔵になって以来、里帰り公開はしていないようなのである。
 と同時に、「四季花鳥図屏風」(D図)が、「四季(春・夏・秋・冬)」の花鳥(草花)図とすると、「青楓・朱楓図屏風」(E図)の「青楓(夏)」と「朱楓(秋)」と同じく「『対』の取り合わせ」(対照的な素材をひと組にとりあわせる)の花鳥(草花)図ということになる。
 もとより、この「『対』の取り合わせ」の趣向というのは、抱一の創見的なものではないが、抱一は内在的に、この「『対』の取り合わせ」の趣向というものを、己自身の中に顕著に有していたということが窺える。
 そして「綺麗さび」という世界も、「綺麗」(粋・造形性・「晴=ハレ」)と「さび」(閑寂・文芸性・「褻=ケ」)との、「『対』の取り合わせ」の世界と換言することも出来るのかもしれない。
 こうして見てくると、「四季花鳥図屏風」(D図)と「青楓・朱楓図屏風」(E図)そして「桜・楓図屏風」(B図とC図)とは、抱一の六曲一双の屏風物の三部作として位置づけすることも可能なのかもしれない。
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