SSブログ

応挙工房周辺(大乗寺(その十五 応挙の「十六羅漢図」など) [応挙]

その十七 大乗寺(その十五 応挙の「十六羅漢図」他)

 兵庫県北部、旧但馬国の日本海に臨む香住に、別名応挙寺として夙に知られている、高野山真言宗寺院の亀居山大乗寺がある。
この大乗寺の客殿に、応挙を筆頭として、嫡子の応瑞や門人の源琦・芦雪、そして、蕪村高弟の呉春(後に応挙に朋友として迎えられる)たち総勢十四名が、凡そ百六十五面に及ぶ障壁画を完成させている。
 この客殿再建に携わった大乗寺の中心人物は、密蔵上人(一七一六~八六)と密英上人(一七五三~一八〇二)で、密蔵上人は、その応挙らの障壁画が着手される天明六年(一七八六)七月以前の、その年の二月に遷化し、その密蔵上人の志を引き継いだのが密英上人ということになる。
 応挙と大乗寺側(密蔵上人など)との、この障壁画に係わる逸話としては、「応挙が幼いころ大乗寺の世話になった恩返し説」(石田幽汀の門に入る頃、大乗寺の密蔵上人が資金を援助したと伝えられている)などが、その背景の内容であるが、それらは、あくまでも逸話の域を出ないのであろう。
 これらのことに関して、大乗寺の所蔵の、応挙筆「十六羅漢図屏風」(二曲一隻・八隻)
は、一つの示唆を与える縁のものと解したい。

応挙羅漢一.jpg

応挙筆「十六羅漢図屏風」(二曲一隻・八隻)の内の「第一隻」(大乗寺蔵)

 この「十六羅漢図屏風」の裏面には、「此尊影求密英上人 本所京東福寺什宝 渡唐之十六羅漢願 拝借則於彼方丈使 画師源應擧令寫焉 文政七申夏仕堅密円」とあり、「密英上人が、応挙にこの十六羅漢の制作を依頼している」との文面(文政七年=一八二四・密円記)のようである。そして、「応挙が三十才代初期に模写したものと伝えられる」としている。

 この「応挙三十歳代」を、「応挙年譜」で見ると次のとおりとなる。

宝暦13[1763]  応挙31歳 この頃、宝鏡寺蓮池院尼公との係わり深くなる。
明和2[1765] 応挙33歳 この頃、円満院門主祐常との親交はじまり、応挙の円満院時代始まる。
明和3[1766] 応挙34歳 この頃、名を「応挙」と改名し、作品には主に「応挙」の落款を用いる。円山応瑞生れる。(応挙二男)
明和8[1771] 応挙39歳 「牡丹孔雀図」(萬野美術館蔵)を描く

 ここで、この「十六羅漢図屏風」の裏面に記載されている、「本所京東福寺什宝 渡唐之十六羅漢願 拝借則於彼方丈使 画師源應擧令寫焉」の「本所京東福寺」に注目したい。
 この応挙筆の「十六羅漢図」は、京都東福寺の「渡唐之十六羅漢」の、応挙が「古画」の模写絵に没頭していた頃の、その応挙の古画の模写絵の真骨頂を示すものの一つの証しであろう。
 そして、応挙と「京東福寺」との関係は、大乗寺の密蔵・密英上人もさることながら、上記の応挙年譜の「円満院門主祐常」(近江円満院三十七世、関白二条吉忠の三男、母は栄子内親王。法諱は祐常、号は月渚・素円・由清)が大きく関与していることであろう。
 その、応挙のスタート地点を証しする、応挙三十代の、「十六羅漢図」の全貌と共に、その最晩年の亡くなる年、寛政七年(一七九五)正月作の「鍾馗図」が、大乗寺に残されている。

応挙・関雨図.jpg

応挙筆 掛軸 紙本墨画淡彩 寛政七年(一七九五)正月

補記一 大乗寺蔵の「円山応挙作品一覧と文書」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_01.html

補記二 大乗寺蔵の「円山応瑞作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_02.html

補記三 大乗寺蔵の「木下応受作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_03.html

補記四 大乗寺蔵の「源琦作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_04.html

補記五 大乗寺蔵の「長澤芦雪作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_05.html

補記六 大乗寺蔵の「山本守礼作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_06.html

補記七 大乗寺蔵の「亀岡規礼作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_07.html

補記八 大乗寺蔵の「奥文鳴作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_08.html

補記九 大乗寺蔵の「源正勤(注・奥文鳴の別号?)作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_09.html

補記十 大乗寺蔵の「山口素絢作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_10.html

補記十一 大乗寺蔵の「森徹山作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_11.html

補記十二 大乗寺蔵の「秀雪亭作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_12.html

補記十三 大乗寺蔵の「山本鶴嶺作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_13.html

補記十四 大乗寺蔵の「呉春作品一覧」について

http://museum.daijyoji.or.jp/04sakka/04_14.html



コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。