SSブログ

洛中洛外図・舟木本(岩佐又兵衛作)」周辺探索(その二十五) [岩佐又兵衛]

(その二十五) 「舟木本の中心軸と『九か所の若松』」周辺など

舟木本中心軸と九か所の若松.jpg

「舟木本の中心軸と『九箇所の若松』」→ 「舟木本中心軸その一図(右隻・左隻)」

【 舟木屏風を座って見る  
 ところで、屏風は座って見るものだ。ちょうど視線の高さに、横の中心軸はある。見る者の視線の位置は、屏風の真ん中より少し下にあり、そこに描かれている事物が、屏風の中心的な表現になる。また、屏風の真ん中より↑に描かれている事物は顔を上に向けて見上げることになる。画家は、当然、それを意識して構図を考えている。
 そう思って、左右両隻を眺めと、この二条=五条通は、舟木屏風の真ん中より少し下を横に延びていることがわかるだろう。つまり、二条=五条通が、舟木屏風の横方向の中心軸をなしており、一双の表現を横につないでいるのである。
 すなわち、二条城から東に延びる二条通が、二つの小さな屈折を経て五条通となり、五条大橋を渡って方広寺大仏殿へと至る。二条通と五条通がつながるという現実にはありえない線が、舟木屏風の中心軸をなしている。この中心軸線上に描かれた事物に、舟木屏風の一番重要な表現がある可能性が高い。 】(『洛中洛外図・舟木本を読む(黒田日出男著)p182-183』)

この舟木屏風の「中心軸線上に描かれた事物」は、上記の「舟木本中心軸その一図(右隻・左隻)」ですると次のとおりとなる。

(右隻)第一扇から第六扇

第一扇(豊国定舞台)→第二扇(方広寺大仏殿)→第三扇~第五扇(五条大橋)→第六扇(五条大橋西詰・五条寺町「扇屋」)

(左隻)第一扇から第六扇

第一扇(五条通)→第二扇(五条通「扇屋」)→第三扇(「五条通」と「二条通との連結地点)→第四扇(二条通)→第五扇(二条通「雪輪笹竹紋」屋敷)→第六扇(二条城と京都所司代)

そして、「九か所の若松』は、次のとおりとなる。

(右隻)第一扇から第六扇

第一扇(豊国定舞台)→ 九 豊国定舞台の作り物の若松(右隻第一扇) 
第六扇(五条大橋西詰・五条寺町「扇屋」)
   → 七 本因坊算砂が囲碁の対極をしている若松(右隻第六扇)
八 五条橋西詰の暖簾に「寶」と「光」とある店舗の若松(右隻第六扇)
第五・六扇(六条三筋町)→ 
→ 五 六条柳町(三筋町)遊里の若松(左隻第一扇~右隻第五・六扇) 

(左隻)第一扇から第六扇

第一扇(五条通)
→ 五 六条柳町(三筋町)遊里の若松(右隻第一扇)
      四 祇園御旅所の右側、当麻寺の隣にある遊女屋の若松(左隻第一扇)
第二扇(五条通「扇屋」)
    → 三 平家琵琶の検校の屋敷の若松(左隻第二扇)
第三扇(「五条通」と「二条通との連結地点)
    → 二 六角堂と唐崎神社の若松(左隻第三扇) 
第四・五扇(二条通「雪輪笹竹紋」屋敷)
    → 一 長暖簾に「雪輪笹紋」のある店舗のウラ庭の若松(左隻第四・五扇) 

 これらの「舟木本の中心軸と『九か所の若松』周辺」を、「舟木屏風を座って見る」という視点で図示すると次のとおりとなる。

(右隻)

舟木本中心軸(右隻).jpg

「舟木本の中心軸と『九か所の若松』周辺」(右隻)→「舟木本中心軸その二図(右隻)」

(左隻)

舟木本中心軸・左隻.jpg

「舟木本の中心軸と『九か所の若松』周辺」(左隻)→「舟木本中心軸その三図(左隻)」

 この「舟木本中心軸その二図(右隻)」と「舟木本中心軸その三図(左隻)」との、「赤色」の表示は、上記の「九か所の若松」の表示である。そして、「黄色」の表示の、中心を「右隻」から「左隻」の両隻を貫通する線上の事物とその周辺の事物の説明図である。(↑と↓)の表示は、「舟木屏風を座って見る」の視点からすると「視野外」ということになる。
 そして、「空色」表示の「後妻(うわなり)打ち」は、これまでに取り上げていなくて、「舟木本」を読み解くための、重要なキィポイントの一つと思われるので、次回以降に詳説して行きたい。

後妻打ち.jpg

「二条城堀角の『後妻(うわなり)打ち』」(「舟木本」左隻第三・四扇)→「舟木本中心軸その四図(左隻・中心軸視野外)」

【 後妻(うわなり)打ち   
 主として平安時代の末から戦国時代頃まで行われた習俗で,離縁になった前妻 (こなみ) が後妻 (うわなり) にいやがらせをする行動をいう。女性が別れた夫の寵愛をほしいままにしている新しい妻をねたむあまり,憤慨してその同志的な婦人らとともに後妻のところへ押寄せていくこと。一方,後妻のほうでも,その仲間の女性たちを集めて応戦した。武器としてはほうきやすりこぎなどの家庭用の道具が用いられた。(出典 ブリタニカ国際大百科事典)

1 本妻が後妻(うわなり)を嫉妬して打ちたたくこと。
「あらあさましや六条御息所(ろくでうのみやすどころ)ほどの御身にて、—の御振る舞ひ」〈謡・葵上〉
2 室町時代、離縁になった先妻が後妻をねたんで、親しい女たちと隊を組み、後妻の家に行って乱暴を働く風習。相当打ち。騒動打ち。
(出典 小学館デジタル大辞泉)   】

https://www.nohgaku.or.jp/guide/commentary_aoinoue

「葵上(あおいのうえ)」

前場
 六条御息所の生霊の登場
 六条御息所の生霊が激高する枕の段 → 後妻打ち
 間狂言〜従者が横川の小聖を迎えにいく

後場
 鬼女と小聖が争う見どころ・祈り → 下の場面(この場面に「若松」が背景となる)

葵上・後妻打ち.jpg

https://www.the-noh.com/jp/plays/data/program_026.html

鉄輪・後妻打ち.jpg

「鉄輪(かなわ)」

http://www.syuneikai.net/kanawa.htm

【詞章】(後シテ登場以降の抜粋の仕舞の部分。)

「悪しかれと思わぬ山の.峰にだに。思わぬ山の峰にだに。人の嘆きは生うなるに。いわんや年月。思いに沈む怨みの数。つもって執心の。鬼となるもことわりや。いでいで命を取らん。いでいで命を取らんと.しもっを振り上げうわなりの。髪を手にから巻いて。打つや宇都の山の。夢うつつとも分かざる浮き世に。因果はめぐりあいたり。今さらさこそ.悔しかるらめ。さて懲りよ思い知れ。ことさら怨めしき。ことさら怨めしき。あだし男を取って行かんと。臥したる枕に立ち寄り見れば。恐ろしやみてぐらに。三十番神ましまして。魍魎鬼神はけがらわしや。出でよ出でよと責めたもうぞや。腹立ちや思う夫をば。取らであまさえ神々の。責めを蒙る悪鬼の神通通力自在の勢い絶えて。力もたよたよと。足弱車のめぐり逢うべき。時節を待つべしや。まずこの度は帰るべしと。いう声ばかりはさだかに聞こえ。いう声ばかり.聞こえて姿は。目に見えぬ鬼とぞ.なりにける。」
nice!(1)  コメント(1) 
共通テーマ:アート

nice! 1

コメント 1

yahantei

「二条城堀角の『後妻(うわなり)打ち』」(「舟木本」左隻第三・四扇)→「舟木本中心軸その四図(左隻・中心軸視野外)」は、「舟木本」の、その右隻・左隻に描かれている画面の中でも、何とも異様な場面で、これまで、素通りをしてきたところであった。
 前に取り上げた『人間文化研究機構連携展示『都市を描く―京都と江戸―』「(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構』発行)に接して、そこで、その展示に深い関わりのある、『洛中洛外図屏風 つくられた〈京都〉を読み解く(小島道裕著)・ 歴史文化ライブラリー422 』に接して、そこで、明確に、この「舟木本」の「発注者」は、「松平忠直を候補の一人としてもよいのではないだろうか。」、そして、その理由の一つとして、この「後妻打ち」の場面をとり上げていることには、大きな示唆を受けた。



【では「舟木本」で、なぜよりによって二条城のそばにこんな暴力的場面を描くのだろうか。二条城は言うまでもなく徳川家の象徴であり、それは徳川家の内部事情に由来していると考えられないだろうか。というのは、松平忠直の父で、福井藩=越前松平家の初代となった結城秀康は、秀忠の兄でありながら、妾であった母が正妻築山殿の迫害を受け冷遇されたという背景があるからである。そのような将軍家に対する複雑な感情が、先妻が後妻を打擲(ちょうちゃく)するという、後妻打ちにやつした場面として描かれているのではないだろうか。松平忠直は、大阪の陣でも活躍しながら恩賞に不満を抱いていたと伝えられ、徳川方でありながら、京都の統治者である将軍家に対しては必ずしも好意的でない。そのような立場と感情が、大仏近くの乱闘場面と対になる暴力場面という形でここに表現されていると考えられないであろうか。】(p181)



しかし、「制外の家」の、将軍家の「徳川(秀忠)」が別格視している、娘婿の「越前松平家宗家」の、その「藩主・松平忠直」が、未だ、四十歳にも満たない、京都の、未だ無名に近い一介の町絵師の「岩佐又兵衛」に、この「舟木本」のような大作を注文し、そして、あれこれと、例えば、この「後妻打ち」などを注文するなどということは、どう転んで見ても、土台、有り得ないことであろう。
 この「松平忠直」側と「岩佐又兵衛」側とを結びつけた(仲介した)、それらの人物像ということになると、それは、おそらく、この「舟木本」の何処かに、陰に陽に、「何かしらの残像」を残しているに違いない。



そこら辺になると、これは、そして、これまた、「三藐院ファンタジー」ということになる。






by yahantei (2021-12-01 16:44) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。