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洛中洛外図・舟木本(岩佐又兵衛作)」周辺探索(その三十) [岩佐又兵衛]

(その三十) 「舟木本」と「歴博D本」との周辺(その四)

歴博D本・六条三筋町jpg.jpg

「歴博D本:六条三筋町・東寺・西本願寺・東本願寺」図(「左隻・説明入り画像版」第五・六扇下部)→「歴博D本:六条三筋町」図


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「舟木本: 六条三筋町・東寺・西本願寺・東本願寺」図(「右隻」第一・二・三扇下部)→「舟木本:六条三筋町」図

 「洛中洛外図屏風」の、「歴博D本」と「舟木本」とは、上記のとおり、方位的に比較すると、全く、似ても非なるものであるが(「歴博D本」は右=北、「舟木本」は「上」=北で、それぞれ「距離間」を異にする)、その細部を見て行くと、これは、紛れもなく、「舟木本」が、その先行的な作品の「歴博D本」を換骨奪胎して、そして、そのエキスのようなポイントを実に巧みにアレンジしていることが、この両図(「歴博D本:六条三筋町」図と「舟木本:六条三筋町」図)を見比べただけでも、その一端が見え隠れしてくる。
 実際の「京都市街図」と「舟木本」との関係とは、下記の「京都市街図と洛中洛外図(舟木本)」(『洛中洛外図・舟木本を読む(黒田日出男著)』所収P80)のように、「舟木屏風の構図」は、賀茂川の角度を約二十五度に傾け、左隻には下京、右隻には賀茂川から東山一帯をかけて描く「下京・東山遊楽図屏風」というネーミングが相応しいような構図なのである(『洛中洛外図・舟木本を読む(黒田日出男著)』)。

京都市街図と舟木本.jpg 

「京都市街図と洛中洛外図(舟木本)」(『洛中洛外図・舟木本を読む(黒田日出男著)』所収P80)→「京都市街図と舟木本」図

 「歴博D本:六条三筋町」図と「舟木本:六条三筋町」図とを交互に見ていて、つくづく度肝を抜かれるのは、「歴博D本:六条三筋町」図の、左端の最上部の「東寺」が、何と、「舟木本:六条三筋町」図では、『東本願寺』と「西本願寺」との間におさめるという、これぞ、この筆者の「岩佐又兵衛」の「離れ業」の妙手であろう。
 その「岩佐又兵衛」の「離れ業」の妙手の種明かしは、上記の「京都市街図と舟木本」図
(『洛中洛外図・舟木本を読む(黒田日出男著)』所収P80)に要約されている。
 この「京都市街図と舟木本」図の、実際の「京都市街図」の、京都駅の左(西)の下(南)に表示されているのが「東寺」で、その「東寺」が、上部(北)の「京都御所」と「二条城」の下部(南)まで引き上げられており、その「東寺」は、「西本願寺」と「東本願寺」とに挟まれて描かれている。
 そして、その「東寺」と「東本願寺」の右(東)の下部(北)に、本来、「東本願寺」の上部(北)に位置する「六条柳町(六条三筋町)」が、実に、その「舟木本」の「左隻」(下京)と「右隻」(東山一体)とをドッキングするように、その両隻の結合する下部に描かれている。

舟木本・六条柳町(右隻・左隻)=合成図.jpg

「舟木本・六条柳町(「右隻」第五・六扇と「左隻」第一扇の合成図)」→「舟木本・六条柳町(右隻・左隻合成図)」

 この「舟木本・六条柳町(右隻・左隻合成図)」の、「舟木本・六条柳町(「右隻」第五・六扇図)」は、下記のとおりである。

舟木本・六条柳町(右隻).jpg

「舟木本・六条柳町(「右隻」第五・六扇図)」

 この「六条柳町(六条三筋町)」は、「北は五条から南は六条、東は室町から西は西洞院にあった遊里、六条柳町ともいわれ、慶長七年(一六〇二)、二条万里小路(二条柳町)から、この地に移され、上・中・下の三筋町と西洞院から成り、寛永七年(一六四〇)、島原に移されるまで、この地にあった。」(『近世風俗地譜四・洛中洛外二』P96)

この「舟木本・六条柳町(「左隻」第一扇図)」は、次のとおりである。


舟木本・六条柳町(左隻).jpg


「舟木本・六条柳町(「左隻」第一扇図)」

 この「六条柳町(六条三筋町)」については、下記のアドレスの「消えた六条三筋町」が参考となる。

http://xymtex.com/kyomeguri/kyomeguri-jintan6.pdf

 この岩佐又兵衛が描いた「舟木本」の「六条柳町(六条三筋町)」の原型(モデル図)は、下記の「歴博D本:六条三筋町」図(拡大図)にある。

歴博D本・六条三筋町.jpg

「歴博D本・六条柳町(「左隻」第五扇図)」(拡大図)

 この「歴博D本・六条柳町(「左隻」第五扇図)」(拡大図)は、「舟木本・六条柳町(「左隻」第一扇図)」に比して、単なる、洛中(下京)の一角に、慶長七年(一六〇二)の、二条城の整備、或いは、御所に近いなどという理由で、二条柳町にあった遊郭地を六条柳町(六条三筋町)へ強制移転させられた頃の、その街角の一角という雰囲気である。
 これが、「舟木本・六条柳町(「左隻」第一扇図)」になると、その左に描かれている「東本願寺」の「『憂き世からの救いの祈りの世界』=信仰=『聖』なる世界」から、「『浮き世を肯定する享楽の世界』=遊里=『遊』の世界」の、「浮世の世界」(『浮世物語(浅井了意著)』の「当座にやらして、月、雪、花、紅葉にうちむかひ、歌をうたひ、酒のみ、浮きに浮いてなぐさみ、手前のすり切り(無一文)も苦にならず、沈み入らぬこころだての、水に流るる瓢箪(ひょうたん)のごとくなる」)の世界が現出してくることになる。
 岩佐又兵衛が「浮世絵の元祖」といわれる所以は、実に、この「洛中洛外図屏風・舟木本」の、この「舟木本」の「右隻」と「左隻」と、その下部(底辺)でドッキング(結合)して支えている、この「舟木本・六条柳町(右隻・左隻合成図)」・「舟木本・六条柳町(「右隻」第五・六扇図)」・「舟木本・六条柳町(「左隻」第一扇図)」の、ここに描かれている、様々な「男女の交歓図」の、その生き生きとした活写の中に由来している。
 これらのことに関しては、下記のアドレスの「浮世絵の構造(小林忠稿)」が参考となる。

https://www.gakushuin.ac.jp/univ/g-hum/art/web_library/author/kobayashi/structure_of_ukiyoe/index.html

 さらに、「舟木本・六条柳町(「左隻」第一扇図)の「東本願寺(聖)=憂き世」と「六条柳町(遊)=浮き世」とが、その上部(北側)に描かれている「五条通と往来する人々(俗)=現世」が、ここに、「憂き世(聖)=浮き世(楽)=現世(俗)」の、ここでも、三位一体の世界が現出してくる。
 これらの「舟木本・六条柳町(六条三筋町)」関連については、下記のアドレスで、その一端を触れている。

https://yahan.blog.ss-blog.jp/2021-10-11

https://yahan.blog.ss-blog.jp/2021-10-17

https://yahan.blog.ss-blog.jp/2021-10-24

 ここでは、その中の、下記のアドレスの、『洛中洛外図・舟木本を読む(黒田日出男著・角川選書564)』で紹介している次の論稿などを再掲して置きたい。

https://yahan.blog.ss-blog.jp/2021-10-17

(再掲)

【 「佐藤康宏『改訂版 日本美術史』の舟木屏風」
 岩佐又兵衛によって風俗画の性格は大きく変わり、浮世絵に直結する表現を見せる。旧蔵者の名前によって舟木本と呼ばれる「洛中洛外図」は、彼の初期の作品と考えられる。舟木本は一六一四年ころの京都の景観を描き、二条城と方広寺大仏殿とを左右隻に対峙させ、当時の微妙な政治状況を示唆する。洛中洛外図という室町時代以来の主題で表現を一新した舟木本は、日本の風俗画の歴史において分水嶺というべき位置にある。どの部分を取っても現実感に富む描写の中で興味深いのは、都市生活の享楽面に取材の力点を置いていることである。四条河原の芸能や六条柳町の遊里には特に溌剌とした描写を見せ、踊る遊女たち、往来で人目をはべからず抱き合う侍と遊女に、客や通行人の視線がじっと注がれているのが印象的である。表現のレヴェルでは、人が人を見つめる行為が作る熱気を都市の生命力の表現に生かした画だといえるとともに、女歌舞伎の流行と娼婦を一定の地域に集めて公許の遊里とする公娼制度の成立とが、現実にも絵画の中にも〈見世物としての女〉を生み出したことを、舟木本は鋭く報告してもいるのである。又兵衛が江戸時代に「浮世又兵衛」とか浮世絵の祖と呼ばれたのは、確かに理由のあることであった。

「佐藤康宏『岩佐又兵衛行状記《『岩佐又兵衛全集・研究偏』》』所収の「右隻と左隻の違い」
……右隻と左隻とで人物の描写を比較すると、右隻のシャープで明確な描写に対して左隻にゆるんだ描写が目立つ。左隻に描かれる人物が右隻のそれよりも頭が大きめに描かれ、表情など、よりわかりやすいけれども単調な描写になる傾向を持つ。右隻の方がよりすぐれた腕前の画家の手で一貫して仕上げられ、左隻には助手の手が多く入っていると見える。すなわち、右隻の方は主として又兵衛が描いたと考えられるが、彼がこの時点で工房制作を実践していたこともわかる。 】(『洛中洛外図・舟木本を読む(黒田日出男著・角川選書564)』P36-45)

東寺の老僧・若い女.jpg

「東寺の表(読経と信者)と裏窓(老僧と女)」(左隻第一・二扇の下部)→A-9図)

 「右隻」と「左隻」とをドッキングする場面の「六条三筋遊郭」(A-7図・A-8図)に続けて、「左隻」(第一・二扇)に「東寺・東本願寺」が描かれていて、その『東寺』の図の一部に、上記の「東寺の表(読経と信者)と裏窓(老僧と女)」(A-9図)が描かれている。この図の左上には、「読経している僧たち」で、その前方に「男女の信者たち」、そして、この左端の宿坊の一室で「老僧が若い女を背後から抱きしめている」。
 これは、「六条三筋町遊郭の裏窓」の「化粧中の女たち」(A-5図)と「湯浴みする女」(A-6図)と同じ筆法の「聖(聖なる東寺=信仰)」と「俗(聖者=老僧の本性剥き出しの若き女とのスナップ)」との、その対比の世界の描出ということになる。
 そして、この「聖と俗」との対比の世界は、次の「右隻」の「六条三筋遊郭」に続く東側の鴨川沿岸の次の図と連なっている。

六条三筋・東・田園・僧と尼.jpg

「六条三筋町東側の鴨川沿岸(農夫・薪を運ぶ牛車・僧と尼の密会)(右隻第四扇下部)→B-1図

 この図(B-1図)の下段の「僧と尼」とは、この図だけでは、「僧と尼との密会」というイメージは浮かんでこないが、これが、先の「東寺の表(読経と信者)と裏窓(老僧と女)」(A-9図)と併せ見て行くと、途端に、「聖と俗(聖職者たちの密会)」とのドラマの一コマというイメージが浮かんでくる。
 そして、それはまた、新たなる「聖と俗(聖職者と民衆(働く人々))」との対比というイメージに連なってくる。

六条三筋・東・聖と俗とのドラマ.jpg

「六条三筋町東側の鴨川沿岸(自然と人とのドラマ)(右隻第三・四扇下部)→B-2図

 この図(B-2図)の左端は、前図(B-1図)、そして、この右端は「鴨川を渡る牛車や人の群れ」、それに続く鴨川沿岸は『田打ち』など耕作図」、そして、「洛外(東山)から洛中(下京)へと向う道中図」ということになる。
 これらを全体(A-3図~A-9図、B-1図~B-2図)として、総括的に見て行くと、「自然と人そして歴史とのドラマ」という、壮大なイメージが湧いてくる。

(追記) 仮名草子『露殿物語』と「六条柳町(六条三筋町)」などについて

【 仮名草子『露殿物語』には、江戸時代初頭の三筋町風景が活写されている。三筋町の両端には木戸門が設けられ、左の木戸門の傍らには髪結床(かみゆいどこ)が見られる。また中央の三階蔵が描かれているのは、象徴的である。(『洛中洛外図屏風』岡山美術館蔵) 】
(『近世風俗図譜四 洛中洛外二』P100)

 この仮名草子『露殿物語』関連については、下記のアドレスの「露殿物語をめぐって(青山忠一稿)」が参考となる。
 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kinseibungei/14/0/14_2/_pdf

 そこで、この『露殿物語』の作者について、「烏丸光広・中院通村・近衛信尋」の三人について言及している。この「烏丸光広」は、仮名草子『竹斎』・『仁勢物語』の作者にも擬せられており、『めざまし草』の「跋文」に署名を残しているなど、この「仮名草子」の世界でも、主要な人物の一人で、その「仮名草子」と、この「洛中洛外図屏風・舟木本」の関連については、これは素通りすることは出来ないであろう。


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yahantei

 「歴博D本」と「舟木本」とを交互に見ていくと、慶長期から元和期にかけての、京都の「洛中洛外図」の、その全貌の一端が、その姿を見せてくる。
 「歴博D本」の類作というのは、何種類かあるらしく(『人間文化研究機構連携展示 都市を描く―京都と江戸―』P222)、岩佐又兵衛が、この「舟木本」を制作するにあたって、この「歴博D本」をモデル化したかどうかは定かではないが、この種の「洛中洛外図」の「屏風絵」あるいは「襖絵」を、常時、目にしながら、それらを絶妙にアレンジして制作していたのではないかいうことが、例えば、前回の、「二条城と京都所司代」周辺、そして、今回の「六条柳町(三筋町)」周辺を探索していて、そんな雰囲気が濃厚に伝わってくる。。
それよりも、例えば、この「歴博D本」を制作した絵師と、「舟木本」を制作した「岩佐又兵衛」とは、例えば、同じ「工房」の、例えば、岩佐又兵衛の師の一人と目せられている「狩野内膳」の、その「工房」の、いわゆる、「兄弟絵師」という関係にあったのではないかというイメージすら抱かせる雰囲気をも感ずるのである。
 それと、もう一つ、この「狩野内膳工房」いうのは、当時の「仮名草子」(「易しい仮名文字で書かれた大衆小説」の類い)の『竹斎』(江戸初期の仮名草子。二巻。烏丸光広の作とする説もあるが,伊勢松坂生れの江戸の医師磯田道冶とする説が有力)に出てくる、「五条は扇の俵屋」の、その「俵屋」と関係があると目せられている、いわゆる、「琳派」の祖師の一人と目せられている、謎に満ちみちた、「法橋」の位をも得た「俵屋宗達」という絵師と、例えば、その工房と、何らかのルートで結ばれているような、そんな雰囲気も漂わせている。

by yahantei (2021-12-24 17:37) 

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