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酒井抱一の「綺麗さび」の世界(十七) [抱一の「綺麗さび」]

その十七「彼岸桜図(十二ヶ月図扇・二月)」(其一筆)

彼岸桜.jpg

鈴木其一筆「彼岸桜図」(十二ヶ月図扇・二月)」各一九・二×五一・五㎝ 
太田記念美術館蔵 → A図
【 彼岸桜(二月)
彼岸桜は少し寒さがやわらいでくる三月中旬、春の彼岸の頃から他の桜の品種に先がけて咲く、上部から垂れ下がる幾本もの枝には、蕾から開花したものまで無数の花が付く。(赤木美智稿) 】
【 十二ヶ月図扇 十二本
「十二ヶ月図扇」は、季節の草花や年中行事を描いた十二本で一揃の作品、骨の材料が同じですべてに署名「噲々其一」、印章「元長」(朱文方印)がある。「噲々其一」とする名乗りから、制作は天保四~十四年(一八三三~四三)頃と推定される。いずれも扇形の絵の周辺に若干の余白があるが、この余白がデザイン的な効果を考えてのものなのか、下書きから扇へ仕立てる際に生じた祖語であるのかは判然としない。なお、各月の画題は箱に附された付箋に依拠するが、付箋がいつ頃のものかは不明。箱書表には、「鈴木其一筆/□□十二ヶ月扇子 十二本入」、「箱書裏には「此扇子東京朝吹氏嘗什/大正九年四月大村梅軒氏/紹介を以て譲受之」とする墨書がある。蓋裏の墨書から、大正九年(一九二〇)四月に実業家の大村梅軒(白木屋呉服商十代目大村彦太郎)の紹介で、鴻池家が東京の朝吹氏から譲り受けたと推測される。朝吹氏とあることから、三井財閥系の実業家で古美術の蒐集家でもあった朝吹英二の旧蔵品であった可能性が考えられる。なお、英二氏はこの扇の移動に先立つ同七年に他界している。大正期の古美術を介した上流階級の人々の交流、其一作品の受容の一端をうかがうことができ興味深い。 】(『鴻池コレクション扇絵名品展(図録)』)

 ちなみに、この「十二ヶ月図扇」(其一筆)の、十二本の画題は次のとおりである。

【一月 若松福寿草 二月 彼岸桜 三月 曲水 四月 難波薔薇 五月 鍾馗 六月 凌霄顆(のうぜんか) 七月 花扇 八月 月宮殿 九月 菊慈童 十月 桜花帰り咲 十一月 雪中鴉 十二月 追儺式   】(『鴻池コレクション扇絵名品展(図録)』)

 上記の「彼岸桜図」(其一筆)は、その解説にあるとおり「蕾から開花したものまで無数の花が付く」、なかなかに見応えのあるものである。この「彼岸桜」は、「枝垂れ桜・糸桜」の別称でもある。抱一の絵手本の『鶯邨画譜』に「糸桜と短冊図」が収載されている。

糸桜.jpg

抱一画集『鶯邨画譜』所収「糸桜と短冊図」(「早稲田大学図書館」蔵) → B図

(再掲)

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2018-09-10

 抱一の「糸桜と短冊図」は、その短冊に書かれている「墨子悲絲 そめやすき人の心やいとざくら」の句にウェートがあるようにも思える。

【墨子は白い糸を見て泣いたという。黄にも黒にもどんな色にも染められるが、一旦染まってしまえばずっとその色になってしまう。このことを高誘は、「楊子・墨子はともに、その根本は一つでありながら、後に姿かたちが変わってしまうことを哀れんでいる」という。 】

 抱一の「糸桜」は、まだ「蕾」のままの糸桜である。それに比して、其一の「彼岸桜」は、「蕾から開花したものまでの無数の彼岸桜」である。

桜楓図屏風・右.jpg

酒井抱一筆「桜・楓図屏風」の右隻(「桜図屏風」)デンバー美術館蔵  → C図
六曲一双 紙本金地著色 (各隻)一七五・三×三四・〇㎝
落款(右隻)「雨庵抱一筆」 印章(各隻)「文詮」朱文円印 「抱弌」朱文方印

 これも、前回に続いての、「桜・楓図屏風」(デンバー美術館蔵)の右隻(「桜図屏風」)の桜である。この桜は、「彼岸桜・糸桜・枝垂れ桜」ではない。これは、緑色の新芽とともに、薄紅色で大形の一重(又は二重)の花が開く「大島桜」か「江戸彼岸桜」(「大島桜」と「彼岸桜」の雑種)のようである。
 これを「江戸彼岸桜」(C図)とすると、其一筆「彼岸桜」(A図)と抱一筆「糸桜」(B図)は、抱一・其一の「江戸琳派」に敬意を表して、「江戸彼岸糸桜」との名称を施しても違和感はなかろう。
 その上で、この「江戸彼岸桜」(C図)を見ていくと、その背後の芽吹いている「糸柳(枝垂れ柳)」の若緑が絶妙である。ここにも、春(二月)の、江戸彼岸桜(薄紅色と白色)と江戸糸柳(新芽の若緑色)との「二極構造」(『対』の取り合わせ)の対比が感知される。
 それだけではなく、冒頭の其一筆の「彼岸桜図」(江戸彼岸糸桜図)は、この抱一の「江戸彼岸桜」と「江戸糸柳」を背景(媒介)にしての、抱一の継承者・其一の趣向を凝らした「江戸彼岸糸桜図」と解することも出来よう。
 抱一が憧憬して止まなかった宝井其角の継承者の一人である菊后亭秋色(きくごていしゅうしき)に、「江戸彼岸糸桜(枝垂れ桜)」を詠んだ一句がある。

 井戸ばたの桜あぶなし酒の酔   秋色 

 講談「秋色桜」については、次のアドレスに詳しい。

http://koudanfan.web.fc2.com/arasuji/03-04_shuushiki.htm

 抱一の無二の知友・大田南畝に、「詠秋色桜(秋色桜を詠む)」の詩(漢詩)がある。

  詠秋色桜(秋色桜ヲ詠ム)
曾識芳名黄四娘  曾テ芳名ヲ識ル黄四娘(コウシジョ)
猶餘千朶媚斜陽  猶千朶(センダ)ヲ餘シテ斜陽ニ媚ブ
至今春色如秋色  今ニ至ルモ春色秋色ノ如シ
佳句長傳錦繍章  佳句長ク伝フ錦繍(キンシュウ)ノ章

 さらに、東叡山寛永寺で詠んだ南畝の「東叡山看楓(東叡山に楓を看る)」の詩もある。

  東叡山看楓(東叡山ニ楓ヲ看ル)
松外霜楓玉殿陲  松外ノ霜楓玉殿ノ陲(ホトリ)
赤霞城映碧瑠璃  赤霞(セキカ)城は碧瑠璃ニ映ズ
紺園舊属梁園地  紺園舊(モト)梁園ノ地ニ屬ス
不便行人折一枝  行人ヲシテ一枝ヲ折(オラ)不(シメズ)

桜楓図屏風・左.jpg

酒井抱一筆「桜・楓図屏風」の左隻(「楓図屏風」)デンバー美術館蔵 → D図
六曲一双 紙本金地著色 (各隻)一七五・三×三四・〇㎝
落款(左隻)「抱一筆」 印章(各隻)「文詮」朱文円印 「抱弌」朱文方印

この「楓図」もまた、抱一・其一らの住んでいた雨華庵の近くの、東叡山寛永寺近辺の楓なのかも知れない。

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