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酒井抱一の「綺麗さび」の世界(九) [抱一の「綺麗さび」]

その九 「扇面雑画(六)・蕨と蒲公英図」(抱一筆)

扇面雑画・蕨蒲公英.jpg

酒井抱一筆「扇面雑画(六)・蕨と蒲公英図」(「扇面雑画(六十面)の一面」)
紙本着色・墨画 三六・五×六三・八㎝(各面) 東京国立博物館蔵

https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0093917

 文化十三年(一八一六)、光琳百回忌を修した翌年(抱一、五十六歳)の秋に制作した「柿図屏風」(メトロポリタン美術館蔵・二曲一隻)に続き、その冬に「四季花鳥図屏風」(陽明文庫蔵・六曲一双)が制作される。
 その右隻(第一扇~第三扇)に、「春草のさまざま、蕨や菫や蒲公英、土筆、桜草、蓮華層などをちりばめ、雌雄の雲雀が上下に呼応する」が描かれ、そこに、上記の「蕨と蒲公英」が登場する。

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2019-06-18

 そして、それは、文化十五年(改元して文政元年=一八一八、抱一、五十八歳、其一、二十三歳、鶯蒲、十一歳)春の「四季花鳥図巻」(東京国立博物館蔵)の冒頭にも登場して来る。しかし、その前年(文化十四年)六月に、抱一の片腕であった鈴木蠣潭が没している。
 この蠣潭が没し、庵居に「雨華庵」の額を掲げた年が、抱一の大きな節目の年で、その前年に制作された「四季花鳥図屏風」(東京国立博物館蔵)は、「抱一・蠣潭時代」の最後の年で、蠣潭が没して一年後の「四季花鳥図巻」(陽明文庫蔵)は、「抱一・其一時代」の幕開けの年ということになる。

https://yahan.blog.so-net.ne.jp/2019-05-12

(再掲)

花鳥巻春一.jpg

酒井抱一筆『四季花鳥図巻(上=春夏・下=秋冬)』「春(一)」東京国立博物館蔵
https://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0035812
【酒井抱一 四季花鳥図巻 二巻 文化十五年(一八一八) 東京国立博物館
「春夏の花鳥」「あきふゆのはなとり」の題箋に記され、二巻にわたり、四季の花鳥に描き連ねた華麗な図巻。琳派風の平面的な草花から極めて写実的に描かれる植物まで多様な表現を試みる。横長に巻き広げる巻物の特性を利用して、季節の移ろいを流れるように展開し、蔓や細かい枝を効果的に配す。燕や蝶、鈴虫など鳥や虫も描き込まれ、以前の琳派にはない新しい画風への取り組みが顕著に示されている。
絹本著色:二巻:上巻三一・二×七一二・五:下巻三一・二×七〇九・三: 文化十五年(一八一八): 東京国立博物館 】
(『酒井抱一と江戸琳派の全貌(松尾知子・岡野智子編)』所収「図版解説(一五六)(岡野智子稿)」)
上記の図は、右から「福寿草・すぎな(つくし)・薺・桜草・蕨・菫・蒲公英・木瓜」(『日本の美術№186酒井抱一(千澤梯治編)』)のようである。

 ここに、次の「作品解説」(中村渓男稿)も併記して置きたい。

【 現存する抱一の画巻中、最も精彩があり、最も長尺の美しい四季の花木、草花を春夏秋冬の順を追って横長に描いた図巻はまず他にないと断言できる。
よく琳派のこの種の草花図巻には草花のみであるのが普通であるが、この二巻は鳥類や虫類までが描きこまれていて、はなはだ画巻としての体裁が整えられているといえよう。それに各草花との連なりが、まことに自然に展開されて、何の不自然さも感じさせないのがその特色で、抱一作品中でも屈指の傑作の一つと数えられる。
 また各草花は実に写生的に描かれていて、その実体をよく知るに充分なほどである。さらに色彩的に濃厚であるのは、この琳派の特徴とはいえ、その流れの中にあって、実に要所要所に欲しい色彩が配されていて、少しも騒がしさを感じさせない。しかも大変装飾効果をあげている技能は、まさにこの画巻のために練に練った抱一の才覚のあらわれという以外何物があろうか。
 また軽妙な筆捌きによる抑揚のある描線、枝や蔓の先、葉先きの鋭いばかりに尖った筆のきかしどころ、或いは花弁にみる特徴、葉脈や花蕚にみせた小気味よいほどの筆の冴え、これらは抱一ならではの筆触の見事さを遺憾なく発揮されていて、まことに心憎い出来栄えではなかろうか。この画巻は他の抱一画のすべてを網羅した観があり、抱一画の缶詰のようである。
 しかも全巻を通じて、緩急のリズムを持たせる流れやきかしどころに、目のさめるような鮮やかな配色には、その根底に抱一の文学的素養がにじみ出ている。それは彼が俳諧の中でも其角派の俳人であった感覚が生かされているからであろう。それに彼自身が育った酒井家という家柄から来る品格の高さによるものと思われる。
 また下巻々末に年紀を伴った落款が書かれている。つまり「文化戌寅晩春、抱一暉真写之」とあって、文化十五年(一八一八)は四月二十二日に改元されて、文化元年となるが、江戸の膝元でまだ文化十五年の改元以前の年号を書しているから、恐らくその年の二月末頃描いたものと考えられる。彼の五十八歳の作ということになり、よほど抱一芸術を理解してくれた人からの依頼であろう。またその依頼主が絵手本として練習するための豪華な抱一画の典型を求めたものに違いない。晩年ながらその精髄を示した画境を物語る作品ということができよう。

(図中動植物名)
(上巻)福寿草 すぎな(土筆) なずな 紅白桜草 蕨 菫 蒲公英 木瓜 いたどり 母子草 雉(きじ) そら豆の花 蜆蝶(しじみちょう) 大根の花 あぶらな(菜の花) 紋白蝶(もんしろちょう) 枝垂桜 燕(つばめ) 連翹 白紫藤 足長蜂(あしながばち)
蜂の巣 こぶし 姫百合 大麦 罌粟 紫陽花 草紫陽花 河原松葉 鉄線蓮 芍薬 黒揚羽(くろうげは) 河骨 鷭(ばん) 燕子花 沢瀉 流水
(下巻)紅白萩 鈴虫(すずむし) 青鵐(あおじ) 満月 がんぴ 朝顔 綿とその花 蓼 木槿 鶏頭 槍鶏頭 葡萄 水引草 紅芙蓉 菊戴(きくいただき) かまきり 白菊 苅萱 公孫樹の葉 楓 嫁菜(野菊) 赤啄木鳥(あかげら) いしみかわ 櫨の葉 枯女郎花 蟻(あり) 榛 青木 蝉の抜け殻 あすなろ 蔦 かしわ きびたき 雪に枯尾花(芒) 雪に山帰来 雪中白梅 鶯(うぐいす) 菰被り水仙 

(落款・印章)
(上巻) 「抱一暉真」 「抱一」朱文重廓角丸方印
(下巻) 「文化戌寅晩春 抱一暉真写之」
     「雨華」朱文内鼎外方印 「文詮」朱文瓢印      】
(『抱一派花鳥画譜一(紫紅社)』所収「本文・図版解説(中村渓男稿)」)

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