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夏目漱石の「俳句と書画」(その五) [「子規と漱石」の世界]

その五 「愚陀仏庵」での漱石と子規(周辺)

松山中学第二回卒業生紀念写真.jpg

「松山中学第二回卒業生紀念写真」(愛媛県尋常中学校卒業生と/ 1896.4(明治29)/ (「夏目漱石デジタルコレクション」)
{https://www.kanabun.or.jp/souseki/list.html
前から三列目の左から二人目=夏目漱石(三十歳)

松山中・解説文.jpg

「同上・解説文」
最前列右から三人目(漱石の主治医となった「真鍋嘉一郎」)
同右から二人目(三菱商事会長・三菱本社理事長を歴任した「船田一雄」)
前から二列目の右から四人目(『坊ちゃん』の「赤シャツ」のモデルとされている校長の「横地石太郎」)


夏目漱石年譜(「東北大学附属図書館 夏目漱石ライブラリ」) (抜粋)

https://www.library.tohoku.ac.jp/collection/collection/soseki/nenpu.html

【明治28(1895)  4月 愛媛県尋常中学校嘱託教員に任命される。生徒には 真鍋嘉一郎 松根豊次郎(東洋城)ら
6月 転居し「愚陀仏庵」と名付ける
8月-10月 正岡子規が同宿しほぼ毎晩運座をおこなう
12月 中根鏡と見合いをし婚約が成立する

明治29(1896)  4月 熊本県第五高等学校に赴任する 『フランスの革命』 『ハムレット』 『オセロ』を講義する
6月 鏡との結婚式を挙げる 】

漱石の「愚陀仏庵」での句(明治二十八年・一八九五)

55 将軍の古塚あれて草の花(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=草の花(秋)。※明治二十八年八月二十七日から約五十日間、子規は松山市二番町の漱石の下宿(愚陀仏庵)に仮寓した。子規の元には地元の俳句グループ松風会の会員などが訪れ、連夜にわたる句会が開かれることになり漱石もそれに加わった。そこで詠まれた句は、松風会のリーダー柳原極堂(当時は碌堂)のかかわる『海南新聞』(中略)に発表された。(中略) 漱石の句については、この句が九月三日に掲載されたのを皮切りに、翌年五月二十四日まで一〇二句が載った。◇『海南新聞』。 ≫(『漱石全集第十七巻・坪内稔典注解』)

56 鐘つけば銀杏ちるなり建長寺(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=銀杏ちる(秋)。(中略) 子規の「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」の成立に影響した句と考えられる。(中略)  ◇『海南新聞』。 ≫(『同上』)

57 白露や芙蓉したたる音すなり(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=白露(秋)。◇『海南新聞』。 ≫(『同上』)

58 長き夜を唯蝋燭の流れけり(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=長き夜(秋)。◇『海南新聞』。 ≫(『同上』)

59 乗りながら馬の糞する野菊哉(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=野菊(秋)。◇『海南新聞』。 ≫(『同上』)

60 馬に二人霧をいでたり鈴のおと(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=霧(秋)。◇『海南新聞』。 ≫(『同上』)

(61~72=略 )

漱石の「子規へ送りたる句稿(一・三十二句)」

73 蘭の香や門を出づれば日の御旗(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=蘭の香(秋)。(中略) この句稿を送った九月二十三日は、秋季皇霊祭(旧制の祭日)。この104までの三十二句を収める句稿は、漱石が子規に送った一連の句稿のうち、今日知られる最初のもの。子規は十月中旬に愚陀仏庵を出て東京へ戻ったが、漱石は東京の子規に続々と句稿を送り、その批評を求めた。その句稿は現在「三十五」までが知られている。(後略) ≫(『同上』)

(74~108=略)

愚陀仏庵.jpg

松山・愚陀仏庵(上野家の離れ)裏二階(「夏目漱石デジタルコレクション」)
https://www.kanabun.or.jp/souseki/list.html

愚陀仏庵・解説文.jpg

「同上・解説文」

「子規を送る 五句」

109 疾く帰れ母一人ます菊の庵(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=菊(秋)。※「一人ます」は、一人がいらっしゃる。◇十月十二日、松山の花廼舎で開かれた子規の「留送別会」での子規送別の句。子規は上京すべく十九日に松山(三津港)を出港する。(後略) ≫(『漱石全集第十七巻・坪内稔典注解』)

110 秋の雲只むらむらと別れ哉(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=秋の雲。(後略) ≫(「同上」)

111 見つつ行け旅に病むとも秋の不二(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=秋(雑)。(後略) ≫(「同上」)

112 この夕べ野分に向て別れけり(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=野分。(後略) ≫(「同上」)

113 お立ちやるかお立ちやれ新酒菊の花(漱石・29歳「明治28年(1895)」)
≪ 季=新酒・菊(秋)。※「お立ちやるかお立ちやれ」は、「出発なさるか、出発なさい」の意味の松山方言。 (後略) ≫(「同上」)

「漱石短冊」切手.jpg

「送子規/お立ちやるか/お立ちやれ新酒/菊の花/漱石」(「漱石短冊」切手)
https://ameblo.jp/hula-ranchan/image-11393051037-12263191894.html


(追記)夏目漱石俳句集(その二)<制作年順> 明治28年(53~516)

https://sosekihaikushu.seesaa.net/article/200911article_4.html

明治28年(1895年)

53 夜三更僧去つて梅の月夜かな
54 ゆく水の朝な夕なに忙しき
55 将軍の古塚あれて草の花
56 鐘つけば銀杏ちるなり建長寺
57 白露や芙蓉したたる音すなり
58 長き夜を唯蝋燭の流れけり
59 乗りながら馬の糞する野菊哉
60 馬に二人霧をいでたり鈴のおと
61 泥亀のながれ出でたり落し水
62 うてや砧これは都の詩人なり
63 明けやすき七日の夜を朝寝かな
64 秋の蝉死に度くもなき声音かな
65 柳ちるかたかは町や水のおと
66 風ふけば糸瓜をなぐるふくべ哉
67 爺と婆さびしき秋の彼岸かな
68 稲妻やをりをり見ゆる滝の底
69 親一人子一人盆のあはれなり
70 夕月や野川をわたる人はたれ
71 蓑虫のなくや長夜のあけかねて
72 便船や夜を行く雁のあとや先

73 蘭の香や門を出づれば日の御旗 (「子規へ送りたる句稿一・三十二句)
74 芭蕉破れて塀破れて旗翩々たり (同上)
75 朝寒に樒売り来る男かな    (同上)
76 朝貌や垣根に捨てし黍のから  (同上)
77 柳ちる紺屋の門の小川かな (同上)
78 見上ぐれば城屹として秋の空  (同上)
79 烏瓜塀に売家の札はりたり   (同上)
80 縄簾裏をのぞけば木槿かな   (同上)
81 崖下に紫苑咲きけり石の間   (同上)
82 独りわびて僧何占ふ秋の暮   (同上)
83 痩馬の尻こそはゆし秋の蠅   (同上)
84 鶏頭や秋田漠々家二三     (同上) 
85 秋の山南を向いて寺二つ    (同上)
86 汽車去つて稲の波うつ畑かな  (同上)
87 鶏頭の黄色は淋し常楽寺    (同上)
88 杉木立中に古りたり秋の寺   (同上)
89 尼二人梶の七葉に何を書く   (同上)
90 聨古りて山門閉ぢぬ芋の蔓   (同上)
91 渋柿や寺の後の芋畠      (同上)
92 肌寒や羅漢思ひ思ひに坐す   (同上)
93 秋の空名もなき山の愈高し   (同上)
94 曼珠沙花門前の秋風紅一点   (同上)
95 黄檗の僧今やなし千秋寺    (同上)
96 三方は竹緑なり秋の水     (同上)
97 藪影や魚も動かず秋の水    (同上)
98 山四方中を十里の稲莚<    (同上)
99 一里行けば一里吹くなり稲の風 (同上)
100 色鳥や天高くして山小なり  (同上)
101 大藪や数を尽して蜻蛉とぶ  (同上)
102 秋の山後ろは大海ならんかし (同上)
103 土佐で見ば猶近からん秋の山 (同上)
104 帰燕いづくにか帰る草茫々  (同上)
105 春三日よしのゝ桜一重なり  (同上)
106 驀地に凩ふくや鳰の湖    (同上)
107 わがやどの柿熟したり鳥来たり(同上)
108 掛稲やしぶがき垂るる門構  (同上)
109 疾く帰れ母一人ます菊の庵  (同上)
110 秋の雲只むらむらと別れ哉  (同上)
111 見つゝ行け旅に病むとも秋の不二(同上)
112 この夕野分に向て分れけり   (同上)
113 お立ちやるかお立ちやれ新酒菊の花(同上)

114 凩に裸で御はす仁王哉      (「子規へ送りたる句稿二・四十六句)
115 吹き上げて塔より上の落葉かな  (同上)
116 五重の塔吹き上げられて落葉かな (同上)
117 滝壺に寄りもつかれぬ落葉かな  (同上)
118 半途より滝吹き返す落葉かな   (同上)
119 男滝女滝上よ下よと木の葉かな  (同上)
120 時雨るゝや右手なる一の台場より (同上)
121 洞門に颯と舞ひ込む木の葉かな  (同上)
122 御手洗や去ればこゝにも石蕗の花 (同上)
123 寒菊やこゝをあるけと三俵    (同上)
124 冬の山人通ふとも見えざりき   (同上)
125 此枯野あはれ出よかし狐だに   (同上)
126 閼伽桶や水仙折れて薄氷     (同上)
127 凩に鯨潮吹く平戸かな      (同上)
128 勢ひひく逆櫓は五丁鯨舟     (同上)
129 枯柳芽ばるべしども見えぬ哉   (同上)
130 茶の花や白きが故に翁の像    (同上)
131 山茶花の折らねば折らで散りに鳧 (同上)
132 時雨るゝや泥猫眠る経の上    (同上)
133 凩や弦のきれたる弓のそり    (同上)
134 飲む事一斗白菊折つて舞はん哉  (同上)
135 憂ひあらば此酒に酔へ菊の主   (同上)
136 黄菊白菊酒中の天地貧ならず   (同上)
137 菊の香や晋の高士は酒が好き   (同上)
138 兵ものに酒ふるまはん菊の花   (同上)
139 紅葉散るちりゝちりゝとちゞくれて(同上)
140 簫吹くは大納言なり月の宴    (同上)
141 紅葉をば禁裏へ参る琵琶法師   (同上)
142 紅葉ちる竹縁ぬれて五六枚    (同上)
143 麓にも秋立ちにけり滝の音    (同上)
144 うそ寒や灯火ゆるぐ滝の音    (同上)
145 宿かりて宮司が庭の紅葉かな   (同上)
146 むら紅葉是より滝へ十五丁    (同上)
147 雲処々岩に喰ひ込む紅葉哉    (同上)
148 見ゆる限り月の下なり海と山   (同上)
149 時鳥あれに見ゆるが知恩院    (同上)
150 名は桜物の見事に散る事よ    (同上)
151 巡礼と野辺につれ立つ日永哉   (同上)
152 反橋に梅の花こそ畏しこけれ   (同上)
153 初夢や金も拾はず死にもせず   (同上)
154 柿売るや隣の家は紙を漉く    (同上)
155 蘆の花夫より川は曲りけり    (同上)
156 春の川故ある人を脊負ひけり   (同上)
157 草山の重なり合へる小春哉    (同上)
158 時雨るゝや聞としもなく寺の屋根 (同上)
159 憂き事を紙衣にかこつ一人哉   (同上)

160 日の入や秋風遠く鳴て来る   
161 はらはらとせう事なしに萩の露

子規へ送りたる句稿三.jpg

(「子規へ送りたる句稿三」)(「夏目漱石デジタルコレクション」)
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子規へ送りたる句稿三・読み下し文一.jpg
子規へ送りたる句稿三・読み下し文二.jpg

(「子規へ送りたる句稿三(読み下し文)」)(「夏目漱石デジタルコレクション」)
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162 煩悩は百八減つて今朝の春  (「子規へ送りたる句稿三・四十二句)
163 ちとやすめ張子の虎も春の雨 (同上)
164 恋猫や主人は心地例ならず  (同上)
165 見返れば又一ゆるぎ柳かな  (同上)
166 不立文字白梅一木咲きにけり (同上)
167 春風や女の馬子の何歌ふ   (同上)
168 春の夜の若衆にくしや伊達小袖(同上)
169 春の川橋を渡れば柳哉    (同上)
170 うねうねと心安さよ春の水  (同上)

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171 思ふ事只一筋に乙鳥かな   (同上)
172 鶯や隣の娘何故のぞく    (同上)
173 行く春を鉄牛ひとり堅いぞや (同上)
174 春の雨鶯も来よ夜着の中   (同上)
175 春の雨晴れんとしては烟る哉 (同上)
176 咲たりな花山続き水続き   (同上)
177 桜ちる南八男児死せんのみ  (同上)
178 鵜飼名を勘作と申し哀れ也  (同上)
179 時鳥たつた一声須磨明石   (同上)
180 五反帆の真上なり初時鳥   (同上)
181 裏河岸の杉の香ひや時鳥   (同上)
182 猫も聞け杓子も是へ時鳥   (同上)
183 湖や湯元へ三里時鳥     (同上)
184 時鳥折しも月のあらはるゝ  (同上)
185 五月雨ぞ何処まで行ても時鳥 (同上)
186 時鳥名乗れ彼山此峠     (同上)
187 夏痩の此頃蚊にもせゝられず (同上)
188 棚経や若い程猶哀れ也    (同上)
189 御死にたか今少ししたら蓮の花(同上)
190 百年目にも参うず程蓮の飯  (同上)
191 蜻蛉や杭を離るゝ事二寸   (同上)
192 轡虫すはやと絶ぬ笛の音   (同上)
193 谷深し出る時秋の空小し   (同上)
194 雁ぢやとて鳴ぬものかは妻ぢやもの(同上)
195 鶏頭に太鼓敲くや本門寺   (同上)
196 朝寒の鳥居をくゞる一人哉   (同上)
197 稲刈りてあないたはしの案山子かも(同上)
198 時雨るや裏山続き薬師堂    (同上)
199 時雨るや油揚烟る縄簾     (同上)
200 海鼠哉よも一つにては候まじ  (同上)
201 淋しいな妻ありてこそ冬籠   (同上)
202 弁慶に五条の月の寒さ哉    (同上)
203 行春や候二十続きけり     (同上)

子規へ送りたる句稿四.jpg

(「子規へ送りたる句稿四」)(「夏目漱石デジタルコレクション」)
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子規へ送りたる句稿四・読み下し文一三.jpg
子規へ送りたる句稿四・読み下し文二.jpg

(「子規へ送りたる句稿四(読み下し文)」)(「夏目漱石デジタルコレクション」)
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204 誰が家ぞ白菊ばかり乱るゝは (「子規へ送りたる句稿四・五十句)
205 渋柿の下に稲こく夫婦かな (同上)
206 茸狩や鳥居の赤き小松山  (同上)
207 秋風や坂を上れば山見ゆる (同上)
208 花芒小便すれば馬逸す   (同上)
209 鎌倉堂野分の中に傾けり  (同上)
210 山四方菊ちらほらの小村哉 (同上) 
211 二三本竹の中也櫨紅葉   (同上) 
212 秋の山静かに雲の通りけり (同上)
213 谷川の左右に細き刈田哉  (同上)
214 瀬の音や渋鮎淵を出で兼る (同上) 
215 赤い哉仁右衛門が脊戸の蕃椒(同上)
216 芋洗ふ女の白き山家かな  (同上)
217 鶏鳴くや小村小村の秋の雨 (同上)
218 掛稲や塀の白きは庄屋らし (同上)
219 四里あまり野分に吹かれ参りたり(同上)
220 新酒売る家ありて茸の名所哉  (同上)
221 秋雨に行燈暗き山家かな  (同上)
222 孀の家独り宿かる夜寒かな (同上)
223 客人を書院に寐かす夜寒哉 (同上)
224 乱菊の宿わびしくも小雨ふる(同上)
225 木枕の堅きに我は夜寒哉  (同上)
226 秋雨に明日思はるゝ旅寐哉 (同上)
227 世は秋となりしにやこの蓑と笠(同上)
228 山の雨案内の恨む紅葉かな (同上)
229 鎌さして案内の出たり滝紅葉(同上)
230 朝寒や雲消て行く少しづゝ (同上) 
231 絶壁や紅葉するべき蔦もなし (同上)
232 山紅葉雨の中行く瀑見かな (同上)
233 うそ寒し瀑は間近と覚えたり(同上)
234 山鳴るや瀑とうとうと秋の風(同上)
235 満山の雨を落すや秋の滝  (同上)
236 大岩や二つとなつて秋の滝 (同上)
237 水烟る瀑の底より嵐かな (同上)
238 白滝や黒き岩間の蔦紅葉 (同上)
239 瀑五段一段毎の紅葉かな (同上)
240 荒滝や野分を斫て捲き落す(同上)
241 秋の山いでや動けと瀑の音  (同上)
242 瀑暗し上を日の照るむら紅葉 (同上)
243 むら紅葉日脚もさゝぬ瀑の色 (同上)
244 雲来り雲去る瀑の紅葉かな  (同上)
245 瀑半分半分をかくす紅葉かな (同上)
246 霧晴るゝ瀑は次第に現はるゝ (同上)
247 大滝を北へ落すや秋の山   (同上)
248 秋風や真北へ瀑を吹き落す  (同上)
249 絶頂や余り尖りて秋の滝   (同上)
250 旅の旅宿に帰れば天長節   (同上)
251 君が代や夜を長々と瀑の夢  (同上)
252 長き夜を我のみ滝の噂さ哉  (同上)
253 唐黍を干すや谷間の一軒家  (同上)

254 いたづらに菊咲きつらん故郷は (「子規へ送りたる句稿五・十八句)
255 名月や故郷遠き影法師    (同上)
256 去ん候是は名もなき菊作り  (同上)
257 野分吹く瀑砕け散る脚下より (同上)
258 滝遠近谷も尾上も野分哉   (同上)
259 凩や滝に当つて引き返す   (同上)
260 炭売の後をこゝまで参りけり (同上)
261 去ればにや男心と秋の空   (同上)
262 春王の正月蟹の軍さ哉    (同上)
263 待て座頭風呂敷かさん霰ふる (同上)
264 一木二木はや紅葉るやこの鳥居(同上)
265 三十六峰我も我もと時雨けり (同上)
266 初時雨五山の交る交る哉   (同上)
267 菊提て乳母在所より参りけり (同上)
268 酒に女御意に召さずば花に月 (同上)
269 菊の香や故郷遠き国ながら  (同上)
270 秋の暮関所へかゝる虚無僧あり (同上)
271 八寸の菊作る僧あり山の寺   (同上)

子規へ送りたる句稿六.jpg

(「子規へ送りたる句稿六」)(「夏目漱石デジタルコレクション」)
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子規へ送りたる句稿六・読み下し文.jpg

(「子規へ送りたる句稿六(読み下し文)」)(「夏目漱石デジタルコレクション」)
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272 喰積やこゝを先途と悪太郎 (「子規へ送りたる句稿六・四十七句)
273 婆様の御寺へ一人桜かな(「同上」)
274 雛に似た夫婦もあらん初桜(「同上」)
275 裏返す縞のずぼんや春暮るゝ(「同上」)
276 普陀落や憐み給へ花の旅(「同上」)
277 土筆人なき舟の流れけり(「同上」)
278 白魚に己れ恥ぢずや川蒸気(「同上」)
279 白魚や美しき子の触れて見る(「同上」)
280 女郎共推参なるぞ梅の花(「同上」)

https://sosekihaikushu.seesaa.net/article/200911article_6.html

281 朝桜誰ぞや絽鞘の落しざし(「同上」)
282 其夜又朧なりけり須磨の巻(「同上」)
283 亡き母の思はるゝ哉衣がへ(「同上」)
284 便なしや母なき人の衣がへ(「同上」)
285 卯の花に深編笠の隠れけり(「同上」)
286 卯の花や盆に奉捨をのせて出る(「同上」)
287 細き手の卯の花ごしや豆腐売(「同上」)
288 時鳥物其物には候はず(「同上」)
289 時鳥弓杖ついて源三位(「同上」)
290 罌粟の花左様に散るは慮外なり(「同上」)
291 願かけて観音様へ紅の花(「同上」)
292 塵埃り晏子の御者の暑哉(「同上」)
293 銀燭にから紅ひの牡丹哉(「同上」)
294 旅に病んで菊恵まるゝ夕哉(「同上」)
295 行秋や消えなんとして残る雪(「同上」)
296 二十九年骨に徹する秋や此風(「同上」)
297 我病めり山茶花活けよ枕元(「同上」)
298 号外の鈴ふり立る時雨哉(「同上」)
299 病む人に鳥鳴き立る小春哉(「同上」)
300 廓燃無聖達磨の像や水仙花(「同上」)
301 大雪や壮夫羆を護て帰る(「同上」)
302 星一つ見えて寐られぬ霜夜哉(「同上」)
303 霜の朝袂時計のとまりけり(「同上」)
304 木枯の今や吹くとも散る葉なし(「同上」)
305 塵も積れ払子ふらりと冬籠り(「同上」)
306 人か魚か黙然として冬籠り(「同上」)
307 四壁立つらんぷ許りの寒哉(「同上」)
308 疝気持臀安からぬ寒哉(「同上」)
309 凩の上に物なき月夜哉(「同上」)
310 緑竹の猗々たり霏々と雪が降る(「同上」)
311 凩や真赤になつて仁王尊(「同上」)
312 初雪や庫裏は真鴨をたゝく音(「同上」)
313 我を馬に乗せて悲しき枯野哉(「同上」)
314 土佐坊の生擒れけり冬の月(「同上」)
315 ほろ武者の影や白浜月の駒(「同上」)
316 月に射ん的は栴檀弦走り(「同上」)
317 市中は人様々の師走哉(「同上」)
318 何となく寒いと我は思ふのみ(「同上」)

319 我脊戸の蜜柑も今や神無月  (「子規へ送りたる句稿七・六十九句)
320 達磨忌や達磨に似たる顔は誰(「同上」)
321 芭蕉忌や茶の花折つて奉る(「同上」)
322 本堂へ橋をかけたり石蕗の花(「同上」)
323 乳兄弟名乗り合たる榾火哉(「同上」)
324 かくて世を我から古りし紙衣哉(「同上」)
325 我死なば紙衣を誰に譲るべき(「同上」)
326 橋立の一筋長き小春かな(「同上」)
327 武蔵下総山なき国の小春哉(「同上」)
328 初雪や小路へ入る納豆売(「同上」)
329 御手洗を敲いて砕く氷かな(「同上」)
330 寒き夜や馬は頻りに羽目を蹴る(「同上」)
331 来ぬ殿に寐覚物うけ火燵かな(「同上」)
332 酒菰の泥に氷るや石蕗の花(「同上」)
333 古綿衣虱の多き小春哉(「同上」)
334 すさましや釣鐘撲つて飛ぶ霰(「同上」)
335 昨日しぐれ今日又しぐれ行く木曾路(「同上」)
336 鷹狩や時雨にあひし鷹のつら(「同上」)
337 辻の月座頭を照らす寒さ哉(「同上」)
338 枯柳緑なる頃妹逝けり(「同上」)
339 枯蓮を被むつて浮きし小鴨哉(「同上」)
340 京や如何に里は雪積む峰もあり(「同上」)
341 女の子発句を習ふ小春哉(「同上」)
342 ほのめかすその上如何に帰花(「同上」)
343 恋をする猫もあるべし帰花(「同上」)
344 一輪は命短かし帰花(「同上」)
345 吾も亦衣更へて見ん帰花(「同上」)
346 太刀一つ屑屋に売らん年の暮(「同上」)
347 志はかくあらましを年の暮(「同上」)
348 長松は蕎麦が好きなり煤払(「同上」)
349 むつかしや何もなき家の煤払(「同上」)
350 煤払承塵の槍を拭ひけり(「同上」)
351 懇ろに雑炊たくや小夜時雨(「同上」)
352 里神楽寒さにふるふ馬鹿の面(「同上」)
353 夜や更ん庭燎に寒き古社(「同上」)
354 客僧の獅噛付たる火鉢哉(「同上」)
355 冬の日や茶色の裏は紺の山(「同上」)
356 冬枯や夕陽多き黄檗寺(「同上」)
357 あまた度馬の嘶く吹雪哉(「同上」)
358 嵐して鷹のそれたる枯野哉(「同上」)
359 あら鷹の鶴蹴落すや雪の原(「同上」)
360 竹藪に雉子鳴き立つる鷹野哉(「同上」)
361 なき母の忌日と知るや網代守(「同上」)
362 静かなる殺生なるらし網代守(「同上」)
363 くさめして風引きつらん網代守(「同上」)
364 焚火して居眠りけりな網代守(「同上」)
365 賭にせん命は五文河豚汁(「同上」)
366 河豚汁や死んだ夢見る夜もあり(「同上」)
367 夕日寒く紫の雲崩れけり(「同上」)
368 亡骸に冷え尽したる煖甫哉(「同上」)
369 あんかうや孕み女の釣るし斬り(「同上」)
370 あんかうは釣るす魚なり縄簾(「同上」)
371 此頃は女にもあり薬喰(「同上」)
372 薬喰夫より餅に取りかゝる(「同上」)
373 落付や疝気も一夜薬喰(「同上」)
374 乾鮭と並ぶや壁の棕櫚箒(「同上」)
375 魚河岸や乾鮭洗ふ水の音(「同上」)
376 本来の面目如何雪達磨(「同上」)
377 仲仙道夜汽車に上る寒さ哉(「同上」)
378 西行の白状したる寒さ哉(「同上」)
379 温泉をぬるみ出るに出られぬ寒さ哉(「同上」)
380 本堂は十八間の寒さ哉(「同上」)
381 愚陀仏は主人の名なり冬籠(「同上」)
382 情けにはごと味噌贈れ冬籠(「同上」)
383 冬籠り小猫も無事で罷りある(「同上」)
384 すべりよさに頭出るなり紙衾(「同上」)
385 両肩を襦袢につゝむ衾哉(「同上」)
386 合の宿御白い臭き衾哉(「同上」)
387 水仙に緞子は晴れの衾哉(「同上」)
388 土堤一里常盤木もなしに冬木立(「同上」)

389 定に入る僧まだ死なず冬の月 (「子規へ送りたる句稿八・四十一句)
390 幼帝の御運も今や冬の月  (「同上」)

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391 寒月やから堀端のうどん売 (「同上」)
392 寒月や薙刀かざす荒法師(「同上」)
393 寒垢離や王事もろきなしと聞きつれど(「同上」)
394 絵にかくや昔男の節季候 (「同上」)
395 水仙は屋根の上なり煤払 (「同上」)
396 寐て聞くやぺたりぺたりと餅の音(「同上」)
397 餅搗や小首かたげし鶏の面(「同上」)
398 衣脱だ帝もあるに火燵哉(「同上」)
399 君が代や年々に減る厄払(「同上」)
400 勢ひやひしめく江戸の年の市(「同上」)
401 是見よと松提げ帰る年の市(「同上」)
402 行年や刹那を急ぐ水の音(「同上」)
403 行年や実盛ならぬ白髪武者(「同上」)
404 春待つや云へらく無事は是貴人(「同上」)
405 年忘れ腹は中々切りにくき(「同上」)
406 屑買に此髭売らん大晦日(「同上」)
407 穢多寺へ嫁ぐ憐れや年の暮(「同上」)
408 白馬遅々たり冬の日薄き砂堤(「同上」)
409 山陰に熊笹寒し水の音(「同上」)
410 初冬や竹切る山の鉈の音(「同上」)
411 冬枯れて山の一角竹青し(「同上」)
412 炭焼の斧振り上ぐる嵐哉(「同上」)
413 冬木立寺に蛇骨を伝へけり(「同上」)
414 碧譚に木の葉の沈む寒哉(「同上」)
415 岩にたゞ果敢なき蠣の思ひ哉(「同上」)
416 炭竈に葛這ひ上る枯れながら(「同上」)
417 炭売の鷹括し来る城下哉(「同上」)
418 一時雨此山門に偈をかゝん(「同上」)
419 五六寸去年と今年の落葉哉(「同上」)
420 水仙白く古道顔色を照らしけり(「同上」)
421 冬籠り黄表紙あるは赤表紙(「同上」)
422 禅寺や丹田からき納豆汁(「同上」)
423 東西南北より吹雪哉(「同上」)
424 家も捨て世も捨てけるに吹雪哉(「同上」)
425 つめたくも南蛮鉄の具足哉(「同上」)
426 山寺に太刀を頂く時雨哉(「同上」)
427 塚一つ大根畠の広さ哉(「同上」)
428 応永の昔しなりけり塚の霜(「同上」)
429 蛇を斬つた岩と聞けば淵寒し(「同上」)

430 飯櫃を蒲団につゝむ孀哉 (「子規へ送りたる句稿九・六十一句)
431 焼芋を頭巾に受くる和尚哉 (「同上」)
432 盗人の眼ばかり光る頭巾哉 (「同上」)
433 辻番の捕へて見たる頭巾哉 (「同上」)
434 頭巾きてゆり落しけり竹の雪 (「同上」)
435 さめやらで追手のかゝる蒲団哉(「同上」)
436 毛蒲団に君は目出度寐顔かな (「同上」)
437 薄き事十年あはれ三布蒲団 (「同上」)
438 片々や犬盗みたるわらじ足袋 (「同上」)
439 羽二重の足袋めしますや嫁が君 (「同上」)
440 雪の日や火燵をすべる土佐日記 (「同上」)
441 応々と取次に出ぬ火燵哉 (「同上」)
442 埋火や南京茶碗塩煎餅  (「同上」)
443 埋火に鼠の糞の落ちにけり (「同上」)
444 暁の埋火消ゆる寒さ哉 (「同上」)
445 門閉ぢぬ客なき寺の冬構 (「同上」)
446 冬籠米搗く音の幽かなり (「同上」)
447 砂浜や心元なき冬構  (「同上」)
448 銅瓶に菊枯るゝ夜の寒哉(「同上」)
449 五つ紋それはいかめし桐火桶(「同上」)
450 冷たくてやがて恐ろし瀬戸火鉢(「同上」)
451 親展の状燃え上る火鉢哉(「同上」)
452 黙然と火鉢の灰をならしけり(「同上」)
453 なき母の湯婆やさめて十二年(「同上」)
454 湯婆とは倅のつけし名なるべし(「同上」)
455 風吹くや下京辺のわたぼうし(「同上」)
456 清水や石段上る綿帽子(「同上」)
457 綿帽子面は成程白からず(「同上」)
458 炉開きや仏間に隣る四畳半(「同上」)
459 炉開きに道也の釜を贈りけり(「同上」)
460 口切や南天の実の赤き頃(「同上」)
461 口切にこはけしからぬ放屁哉(「同上」)
462 吾妹子を客に口切る夕哉(「同上」)
463 花嫁の喰はぬといひし亥の子哉(「同上」)
464 到来の亥の子を見れば黄な粉なり(「同上」)
465 水臭し時雨に濡れし亥の子餅(「同上」)
466 枯ながら蔦の氷れる岩哉(「同上」)
467 湖は氷の上の焚火哉(「同上」)
468 痩馬に山路危き氷哉(「同上」)
469 筆の毛の水一滴を氷りけり(「同上」)
470 井戸縄の氷りて切れし朝哉(「同上」)
471 雁の拍子ぬけたる氷哉(「同上」)
472 枯蘆の廿日流れぬ氷哉(「同上」)
473 水仙の葉はつれなくも氷哉(「同上」)
474 凩に牛怒りたる縄手哉(「同上」)
475 冬ざれや青きもの只菜大根(「同上」)
476 山路来て馬やり過す小春哉(「同上」)
477 橋朽ちて冬川枯るゝ月夜哉(「同上」)
478 蒲殿の愈悲し枯尾花(「同上」)
479 凩や冠者の墓撲つ落松葉(「同上」)
480 山寺や冬の日残る海の上(「同上」)
481 古池や首塚ありて時雨ふる(「同上」)
482 穴蛇の穴を出でたる小春哉(「同上」)
483 空木の根あらはなり冬の川(「同上」)
484 納豆を檀家へ配る師走哉(「同上」)
485 親の名に納豆売る児の憐れさよ(「同上」)
486 からつくや風に吹かれし納豆売(「同上」)
487 榾の火や昨日碓氷を越え申した(「同上」)
488 梁山泊毛脛の多き榾火哉(「同上」)
489 裏表濡れた衣干す榾火哉(「同上」)
490 積雪や血痕絶えて虎の穴 (「同上」)

491 鶯の大木に来て初音かな
492 雛殿も語らせ給へ宵の雨
493 陽炎の落ちつきかねて草の上
494 馬の息山吹散つて馬士も無し
495 辻駕籠に朱鞘の出たる柳哉
496 春の雨あるは順礼古手買
497 尼寺や彼岸桜は散りやすき
498 叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉
499 馬子歌や小夜の中山さみだるゝ
500 あら滝や満山の若葉皆震ふ
501 夕立や蟹はひ上る簀子椽
502 明け易き夜ぢやもの御前時鳥
503 尼寺や芥子ほろほろと普門品
504 影参差松三本の月夜哉
505 野分して朝鳥早く立ちけらし
506 曼珠沙花あつけらかんと道の端
507 史官啓す雀蛤とはなりにけり
508 行年や仏ももとは凡夫なり
509 大粒な霰にあひぬうつの山
510 十月のしぐれて文も参らせず
511 いそがしや霰ふる夜の鉢叩
512 十月の月ややうやう凄くなる
513 山茶花の垣一重なり法華寺
514 行く年や膝と膝とをつき合せ
515 雪深し出家を宿し参らする
    寄虚子
516 詩神とは朧夜に出る化ものか
≪ 季=朧夜(春)。※漱石は虚子の「松山的ならぬ淡泊なる処、のんきなる処、気の利かぬ処」などを愛した(子規宛書簡)。(後略)  ≫(『漱石全集第十七巻・坪内稔典注解』)
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