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源氏物語画帖「その四十一 幻」(光吉筆:京博本)周辺 [源氏物語画帖]

41 幻(長次郎筆)=(詞)冷泉為頼(一五九二~一六二七)    源氏52歳の一年間

長次郎・幻.jpg

源氏物語絵色紙帖  幻  画・長次郎
https://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/db/index.html

冷泉為頼・幻.jpg

源氏物語絵色紙帖  幻 詞・冷泉為頼
https://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/db/index.html

(「冷泉為頼」書の「詞」)

https://matuyonosuke.hatenablog.com/entry/2019/04/12/%E5%A4%95%E9%9C

死出の山越えにし人を慕ふとて跡を見つつもなほ惑ふかな
さぶらふ人びともまほにはえ引き広げねどそれとほのぼの見ゆるに心惑ひどもおろかならずこの世ながら遠からぬ御別れのほどをいみじと思しけるままに書いたまへる言の葉げにその折よりもせきあへぬ悲しさやらむかたなしいとうたて今ひときはの御心惑ひも女々しく人悪るくなりぬべければよくも見たまはでこまやかに書きたまへるかたはらに
   かきつめて見るもかひなし藻塩草 同じ雲居の煙とをなれ
と書きつけて皆焼かせたまふ
(第三章 光る源氏の物語 紫の上追悼の秋冬の物語 第三段 源氏、手紙を焼く)

(周辺メモ)

http://www.genji-monogatari.net/

第四十一帖 幻
 第一章 光る源氏の物語 紫の上追悼の春の物語
  第一段 紫の上のいない春を迎える
  第二段 雪の朝帰りの思い出
  第三段 中納言の君らを相手に述懐
  第四段 源氏、面会謝絶して独居
  第五段 春深まりゆく寂しさ
  第六段 女三の宮の方に出かける
  第七段 明石の御方に立ち寄る
  第八段 明石の御方に悲しみを語る
 第二章 光る源氏の物語 紫の上追悼の夏の物語
  第一段 花散里や中将の君らと和歌を詠み交わす
  第二段 五月雨の夜、夕霧来訪
  第三段 ほととぎすの鳴き声に故人を偲ぶ
  第四段 蛍の飛ぶ姿に故人を偲ぶ
 第三章 光る源氏の物語 紫の上追悼の秋冬の物語
  第一段 紫の上の一周忌法要
  第二段 源氏、出家を決意
  第三段 源氏、手紙を焼く
  第四段 源氏、出家の準備

(「三藐院ファンタジー」その三十一)

冷泉為頼書状.jpg

「冷泉為頼筆書状」(慶應義塾ミュージアム・コモンズ(センチュリー赤尾コレクション)

https://objecthub.keio.ac.jp/object/479

【冷泉為頼〈れいぜいためより・1592-1627〉は、江戸初期の公卿・歌人。権大納言為満〈ためみつ・1559-1619〉の子。36歳で従三位・非参議に叙任したが、その年のうちに若くして没した。これは為頼自筆の書状。宛名の「御霊別法印」は、御霊社別当法印(ごりょうしゃべっとうほういん)の略である。御霊社とは御霊会(死者の怨霊を慰めるための祭)を行なう社の意。京都・八坂神社(むかしは祇園社といった)の盛大な御霊会(祇園会)は有名。御霊別法印はその祇園社供僧の筆頭の別当のことを指す。長年、子どもに恵まれなかった為頼に、待望の一子が誕生した際、この別当法印に命名方を依頼した手紙である。為頼の子、為治(ためはる)は寛永3年〈1626〉に生まれ、虎熊丸と名付けられた。この手紙は、その年の9月17日に書かれたもの。為頼36歳、亡くなる前年にあたる。典型的な定家流。家祖の書法を見事に踏襲している。「重ねての貴札、本望に存じ候。息子名の事、本卦訟の卦とやらん申し候。則ち、松寿丸と付け申し候。則ち、我等名を千寿と申し候。千年松と申す故、随分、作分出来候かと存じ候。然れ共、我等子に不縁故、今まで出来せず候間、虎熊丸と神前にて御付候て給うべく候。殊に貴公繁昌の御方に候へば、一段と目出度く候。名は二ツも三ツ、付く物と申候間、必ず必ず、明日、虎熊丸目出度く候。恐々謹言。猶々、明日は神前にて御付け頼み申し候。以上。九月十七日為頼(花押)御霊別法印冷貴報」

(釈文)

猶々明日ハ神前にて御付頼申候 以上重而貴札本望存候むすこ名之事本卦訟之卦とやらん申候則松(せう)寿(じゅ)丸と付申候則我等名ヲ千寿と申候千年松と申故随分作分出来候かと存候然共我等子ニ不縁故今まて不出来候間虎熊丸と神前にて御付(候)て可給候殊ニ貴公繁昌之御方ニ候へ者一段と目出度候名ハ二ツも三ツ付物と申候間必々明日虎熊丸目出度候恐々謹言九月十七日為頼(花押)御霊 別法印 冷 貴報       】

(参考)

家職一覧.jpg

http://kakei-joukaku.la.coocan.jp/Japan/kuge/kuge_h.htm

※ 西園寺家   → 琵琶
※ 花山院    → 笛
※ 飛鳥井    → 歌道・蹴鞠
※ 烏丸     → 歌道
※ 冷泉(上冷泉)→ 歌道・蹴鞠
※ 日野     → 儒道・歌道 

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http://e-trans.d2.r-cms.jp/topics_detail31/id=3813

源氏物語と「幻」(川村清夫稿)

【 「幻」の帖は、光源氏が登場する最後の帖である。光源氏は、最愛の妻だった紫上を失った翌年に出家を決意、身辺整理をはじめた。その中でも、光源氏が須磨に隠棲していた時に紫上が送ってくれた手紙は、彼女との思い出がこもっていて、始末するのをためらう。それでも光源氏は意を決して、紫上の手紙を火にくべて燃やしてしまうのである。

(大島本原文)
「死出の山越えにし人を慕ふとて
跡を見つつもなほ惑ふかな」

さぶらふ人びとも、まほにはえ引き広げねど、それとほのぼの見ゆるに、心惑ひどもおろかならず、この世ながら遠からぬ御別れのほどを、いみじと思しけるままに書いたまへる言の葉、げにその折よりもせきあへぬ悲しさ、やらむかたなし。いとうたて、今ひときはの御心惑ひも、女々しく人悪るくなりぬべければ、よく見たまはで、こまやかに書きたまへるかたはらに、

「かきつめて見るもかひなし藻塩草
同じ雲居の煙とをなれ」

と書きつけて、皆焼かせたまふ。

(渋谷現代語訳)
「死出の山を越えてしまった人を恋い慕って行こうとして
その跡を見ながらもやはり悲しみにくれまどうことだ」

伺候する女房たちも、まともには広げられないが、その筆跡とわずかに分かるので、心動かされることも並々でない。この世にありながらそう遠くでなかったお別れの間中を、ひどく悲しいとお思いのままお書きになった和歌、なるほどその時よりも堪えがたい悲しみは、慰めようもない。まことに情けなく、もう一段とお心まどいも、女々しく体裁悪くなってしまいそうなので、よくも御覧にならず、心をこめてお書きになっている側に、

「かき集めて見るのも甲斐がない、この手紙も
本人と同じく雲居の煙となりなさい」

と書きつけて、みなお焼かせになる。

(ウェイリー英訳)
“So long my heart for her that past the Hill of Death is gone, not even upon the tracks she left can I endure to gaze.”

The ladies did not, of course, unfold the pages that that were handed to them; but they caught sight of a phrase here and there – sufficient to tell them what the letters were; and it was with a pang that they now destroyed them. They remembered several of those letters being written. And if then, when she and Genji were separated only by a few miles and there was every prospect of their soon meeting again. Murasaki’s misery had been such as they well remembered, could they wonder that now the sight of them was more than he could bear?
He took one from the bundle, and without stopping to read it, he wrote in the margin:

“Go, useless leaves, well steeped in brine, to join the smoke that through the pathways of the sky trailed from her smouldering pyre”;

And forthwith he had the whole lot burnt.

(サイデンステッカー英訳)
“I seek to follow the tracks of a lady now gone
to another world. Alas, I lose my way.”

Not wanting to display his weakness, he pushed them aside.
The women were permitted glimpses of this and that letter, and the little they saw was enough to bring the old grief back anew. Murasaki’s sorrow at being those few miles from him now seemed to remove all bounds to their own sorrow. Seeking to control a flow of tears that must seem hopelessly exaggerated. Genji glanced at one of the more affectionate notes and wrote in the margin:

“I gather sea grassed no more, nor look upon them.
Now they are smoke, to join her in distant heavens.”

And so he consigned them to flames.

 光源氏の紫上への追慕の情がこもった和歌に関しては、ウェイリー訳は文学的だが冗漫で、サイデンステッカー訳は簡潔だがそっけない。光源氏が書きつけた和歌については、「藻塩草」を渋谷が無視して訳さなかったのに対して、ウェイリーはuseless leaves, well steeped in brine、サイデンステッカーはsea grassedと、原文に忠実な翻訳をしている。

「幻」の帖の次の「雲隠」の帖は、光源氏の出家と死を描いているはずであるが、本文は存在しない。光源氏の物語は、「幻」の帖で終止符を打ったのである。 】
by お名前(必須) (2021-07-26 08:04) 

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