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洛中洛外図・舟木本(岩佐又兵衛作)」周辺探索(その十八) [岩佐又兵衛]

(その十八) 京の遊里(「六条三筋町遊郭」と「三筋町遊郭に連なる鴨川沿岸」など)

三筋中の町の風流踊り.jpg

「六条三筋町・中の町遊郭街で踊る『風流踊り』一行」(「舟木本」右隻第六扇下部)→A-3図
https://emuseum.nich.go.jp/detail?content_base_id=100318&content_part_id=001&content_pict_id=045&langId=ja&

 前回(その十七)の「六条三筋町・中の町遊郭街で踊る『風流踊り』一行」(A-3図)の下段に、次の「下の町遊郭街」が描かれている。

六条三筋・下の町.jpg

「六条三筋町・下の町遊郭街の往来」→A-4図

 左端の男女は、「男が女を背後から抱きしめている」。中央の男女は、「男が女の手を引いての道行きである」。その右後ろでは、「男と女とが抱擁している」。その前方の男三人は「遊女評判記」を読んでいる。
 この図(A-4図)の下段に、次の図(A-5図)が描かれている。

六条三筋・下の町・裏窓.jpg

「六条三筋町・下の町遊郭街の裏窓」→A-5図

 右端の三人の女性は、左側の女性は鏡に向かって「化粧中」である。真ん中の女性は「着替え中」の感じである。そして、この右端の女性は、柄杓で水を汲んで「口・歯の清掃中」という雰囲気である。いずれにしろ、「六条三筋・下の町遊郭(廓)」の「遊妓・娼妓」の、表街(A-4図)の裏窓(楽屋の内輪)のスナップである。
 そして、この左端の下の、「湯浴みする女性」は、右側の、本番前の「化粧する女性」像に
に比して、謂わば、戦いが終わっての、あたかも「穢れを拭っている女性」というイメージなのかも知れない。

入浴する女.jpg

「六条三筋町・下の町遊郭街の裏窓・湯浴みする女」→A-6図

【 この屏風の風俗描写の眼目は……都市生活の享楽面に向けられた画家あるいは顧客の強い関心のほどであり、そこに演じられているさまざまな人間の滑稽劇に対する共感と揶揄のまなざしである。
三筋街遊郭を見よう。……洛中洛外図の画中の画中に遊郭の光景がこれほどあからさまに描かれたのは、おそらくこの「舟木屏風」を嚆矢とするだろう。往来で遊女と嫖客(ひょうきゃく) の侍たちが抱きあい、ふざけあっている。中ノ町では遊女たちが、花を手に手に風流踊りの最中である。扇や袖で顔を隠して、男たちがそれを見物する。……路上で髪を無造作に束ね、裾に風を入れる女たちの姿態は野太くたくましく、汗とほこりの臭いがそこから漂ってくるようなのは、画面の保存がいくぶん悪いせいでもあるまい。室内での遊女の化粧や行水姿ものぞき見できるようになっている。余談だが、この裸の行水姿は、改装のときの不注意にも下半身が切りとられてしまっている。《あぶな絵》の元祖となるところだったのに、残念だ。 】((『洛中洛外図・舟木本を読む(黒田日出男著・角川選書564)』所収「奇想の図譜・辻惟雄著・ちくま学芸文庫・P86-89」)

左隻・六条三筋中の町続き.jpg

「六条三筋町・中の町遊郭街」(「舟木本」左隻第一扇下部)→A-7図

この「六条三筋町・中の町遊郭街(左隻第一扇)」(A-7図)は、「右扇」の「六条三筋町・下の町遊郭街の往来」(A-4図)などに連なる「六条三筋町遊郭街(左扇)「左扇」に描かれているものなのである。
 すなわち、この「洛中洛外図舟木本屏風」は、この「六条三筋町遊郭街」で、その「右扇」(A-3図・A-4図・A-5図・A-6図)と「左扇」(A-7図)とがドッキングして描かれていることが、この男女の抱擁の姿態などから明瞭になってくる。
 この六条柳町(通称は六条三筋町)遊郭は、慶長七年(一六〇二)に、二条万里小路にあった「二条柳町遊郭」が、二条城の整備に伴って移転を強制されたもので、三筋町という呼称は、東西に走る「上の町」(楊梅通)、「中の町」(鍵屋町通)、下の町(的場通)の三筋であったことに由来している。
 東本願寺の北側に位置し、北は「北は五条、南は六条、東が室町通り、西が新町通り」の一角ということになる。
 この「右隻」と「左隻」とを合成すると、次の図のようになる。

六条三筋・右扇・左扇.jpg

「六条三筋町遊郭(右隻第六扇・左隻第一扇) →A-8図

この図(A-8図)の上段が「上の町」、中段が「中の町」、下段が「下の町」で、この「左隻第一扇」の「男女が抱擁している図」(A-7図)と「右隻第六扇」の「男女が抱擁している図」(A-4図)とがドッキングして「下の町」(的場通)の図と解したい。
 そして、その「上の町」・「中の町」・「下の町」のドッキングの目安は、ここに描かれている「金雲」の表現などに因って、それらを暗示的に表現しているものと解したい。
 その上で、この「右隻」(A-4図)と「左隻」(A-7図)との描写が、何処となく別人が描いているような雰囲気の印象を受けるのである。「右隻」(A-4図)が動的な手慣れた筆使いとすると、「左隻」(A-7図)は静的なやや生硬な筆使いというような感じなのである。
 これは、やはり、岩佐又兵衛一人の「個人的な作品」というよりも、何人かしての「岩佐又兵衛工房」的な「協同(共同)的な作品」と解したい。
 これらのことに関して、『洛中洛外図・舟木本を読む(黒田日出男著・角川選書564)』で紹介している次の論稿を紹介して置きたい。

【 「佐藤康宏『改訂版 日本美術史』の舟木屏風」
 岩佐又兵衛によって風俗画の性格は大きく変わり、浮世絵に直結する表現を見せる。旧蔵者の名前によって舟木本と呼ばれる「洛中洛外図」は、彼の初期の作品と考えられる。舟木本は一六一四年ころの京都の景観を描き、二条城と方広寺大仏殿とを左右隻に対峙させ、当時の微妙な政治状況を示唆する。洛中洛外図という室町時代以来の主題で表現を一新した舟木本は、日本の風俗画の歴史において分水嶺というべき位置にある。どの部分を取っても現実感に富む描写の中で興味深いのは、都市生活の享楽面に取材の力点を置いていることである。四条河原の芸能や六条柳町の遊里には特に溌剌とした描写を見せ、踊る遊女たち、往来で人目をはべからず抱き合う侍と遊女に、客や通行人の視線がじっと注がれているのが印象的である。表現のレヴェルでは、人が人を見つめる行為が作る熱気を都市の生命力の表現に生かした画だといえるとともに、女歌舞伎の流行と娼婦を一定の地域に集めて公許の遊里とする公娼制度の成立とが、現実にも絵画の中にも〈見世物としての女〉を生み出したことを、舟木本は鋭く報告してもいるのである。又兵衛が江戸時代に「浮世又兵衛」とか浮世絵の祖と呼ばれたのは、確かに理由のあることであった。

「佐藤康宏『岩佐又兵衛行状記《『岩佐又兵衛全集・研究偏』》』所収の「右隻と左隻の違い」
……右隻と左隻とで人物の描写を比較すると、右隻のシャープで明確な描写に対して左隻にゆるんだ描写が目立つ。左隻に描かれる人物が右隻のそれよりも頭が大きめに描かれ、表情など、よりわかりやすいけれども単調な描写になる傾向を持つ。右隻の方がよりすぐれた腕前の画家の手で一貫して仕上げられ、左隻には助手の手が多く入っていると見える。すなわち、右隻の方は主として又兵衛が描いたと考えられるが、彼がこの時点で工房制作を実践していたこともわかる。 】(『洛中洛外図・舟木本を読む(黒田日出男著・角川選書564)』P36-45)

東寺の老僧・若い女.jpg

「東寺の表(読経と信者)と裏窓(老僧と女)」(左隻第一・二扇の下部)→A-9図)

 「右隻」と「左隻」とをドッキングする場面の「六条三筋遊郭」(A-7図・A-8図)に続けて、「左隻」(第一・二扇)に「東寺・東本願寺」が描かれていて、その『東寺』の図の一部に、上記の「東寺の表(読経と信者)と裏窓(老僧と女)」(A-9図)が描かれている。この図の左上には、「読経している僧たち」で、その前方に「男女の信者たち」、そして、この左端の宿坊の一室で「老僧が若い女を背後から抱きしめている」。
 これは、「六条三筋町遊郭の裏窓」の「化粧中の女たち」(A-5図)と「湯浴みする女」(A-6図)と同じ筆法の「聖(聖なる東寺=信仰)」と「俗(聖者=老僧の本性剥き出しの若き女とのスナップ)」との、その対比の世界の描出ということになる。
 そして、この「聖と俗」との対比の世界は、次の「右隻」の「六条三筋遊郭」に続く東側の鴨川沿岸の次の図と連なっている。

六条三筋・東・田園・僧と尼.jpg

「六条三筋町東側の鴨川沿岸(農夫・薪を運ぶ牛車・僧と尼の密会)(右隻第四扇下部)→B-1図

 この図(B-1図)の下段の「僧と尼」とは、この図だけでは、「僧と尼との密会」というイメージは浮かんでこないが、これが、先の「東寺の表(読経と信者)と裏窓(老僧と女)」(A-9図)と併せ見て行くと、途端に、「聖と俗(聖職者たちの密会)」とのドラマの一コマというイメージが浮かんでくる。
 そして、それはまた、新たなる「聖と俗(聖職者と民衆(働く人々))」との対比というイメージに連なってくる。

六条三筋・東・聖と俗とのドラマ.jpg

「六条三筋町東側の鴨川沿岸(自然と人とのドラマ)(右隻第三・四扇下部)→B-2図

 この図(B-2図)の左端は、前図(B-1図)、そして、この右端は「鴨川を渡る牛車や人の群れ」、それに続く鴨川沿岸は『田打ち』など耕作図」、そして、「洛外(東山)から洛中(下京)へと向う道中図」ということになる。
 これらを全体(A-3図~A-9図、B-1図~B-2図)として、総括的に見て行くと、「自然と人そして歴史とのドラマ」という、壮大なイメージが湧いてくる。
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yahantei

 この「コメント」欄に、メモ的なデータを記したが、何やら横文字の「コメント」が来て、意味不明で削除したら、そのメモ的なデータも、一緒に消えてしまった。
 そこで、その旨の「コメント」欄のデータをアップしたら、これが全然反映されない。
 そこで、誤記・誤記入で「気になっている」所を訂正して置きたい。

「六条三筋町遊郭(右隻第六扇・左隻第一扇) →A-8図



この図(A-8図)の上段が「上の町」、中段が「中の町」、下段が「下の町」で、この「左隻第一扇」の「男女が抱擁している図」(A-7図)と「右隻第六扇」の「男女が抱擁している図」(A-4図)とがドッキングして「下の町」(的場通)の図と解したい。


この「下の町」(的場通)を「中の町」(鍵屋町通)と訂正して置きたい。

by yahantei (2021-10-19 15:53) 

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