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「南蛮屏風幻想」(リスボン・ファンタジー)その五 [南蛮美術]

(その五)「洋人奏楽図屏風」と「泰西風俗図屏風」そして「婦女弾琴図(伝信方筆)」周辺

洋人奏楽図屏風(右隻).jpg
洋人奏楽図屏風(左隻).jpg
上図:「洋人奏楽図屏風・右隻」(六曲一双・重要文化財・永青文庫蔵)各120・5×308・3
→ A-1図
下図:「洋人奏楽図屏風・左隻」(六曲一双・重要文化財・永青文庫蔵 各120・5×308・3
→ A-2図
https://www.eiseibunko.com/end_exhibition/2014.html

【 平成23年から始まった重要文化財「洋人奏楽図屏風」の修復が完了し、初めて公開いたします。大航海時代、日本にキリスト教がもたらされ、宣教師たちが各地にセミナリオを建てました。そこで洋画教育を受けた日本人が描いたとされるこの屏風は、日本絵画史のなかでも異彩を放ち、また桃山文化を形成する作品のひとつです。その修復過程を詳しく説明し、右隻と左隻を前期・後期に分けて展示します。キリスト教に帰依した細川ガラシャや高山右近の書状、ローマ字印を用いた細川忠興の書状、さらにザビエルの著書や当時の世界地図なども併せて展示し、日本から見た西欧、西欧から見た日本をご紹介します。キリスト教以外にも、大航海時代の産物である鉄砲の名品、東南アジア各国から輸入された香木、香道具、茶道具の数々も展示します。絢爛豪華なだけではない、大名細川家の目を通した桃山の世界をお楽しみいただければ幸いです。 】

【 優美な西洋の貴族たちの語らいにこめられた教訓
 広く視界が開けた水辺の自然景のなかに美しい衣装をまとった西洋の貴族たちを描く。牧歌的な光景は金色の雲がつくりだす装飾的な効果とあいまって楽園のような雰囲気をかもし出す。右隻右側には、1588年に刊行されたマルタン・デ・フォス原画の銅版画集『孤独な生活の勝利』「隠者パテルヌス」から図像を借りた「愛の神殿」が見える。これや合奏する女性・休息する騎士たちを世俗の歓楽のシンボルとすると、デ・フォス原画の『キリストの血』から図像を借用した同左端の葡萄搾りの場面は「聖」を象徴すると読み取れ、聖俗の対比を通して教訓的なメッセージを示す手法がとられていると理解される。イエズス会セミナリヨで制作された洋風画の代表作の一つ。(鷲頭桂稿) 】
(『大航海時代の日本美術 Japanese art in the age of discoveries(九州国立博物館編)』)

洋人奏楽図屏風(MOA美術館蔵).jpg
上図:「洋人奏楽図屏風・右隻」(六曲一双・重要文化財・MOA美術館蔵)各93・1×302・4 → B-1図
下図:「洋人奏楽図屏風・左隻」(六曲一双・重要文化財・MOA美術館蔵 各93・1×302・4 → B-2図
https://www.moaart.or.jp/collections/039/

【 桃山時代、キリスト教の伝来とともに、当時宣教師たちによって運営されたコレジオやセミナリオなどの学校では、信徒子弟への体系的な教育が行われ、セミナリオでは絵画教育も行われていた。ヨーロッパ絵画の主題や技術が、主に聖画や銅版画を中心に教授されたらしく、この屏風も、キリスト教の布教効果をあげるべく、洋画教育を施された日本人によって描かれたものであろう。港の見える丘陵で音楽を楽しみ、読書や雑談をする洋人の光景を描いたもので、羊のいる樹木、愛の神殿、城郭などは、いずれも西洋中世銅版画に描かれた題材である。しかし、日本の顔料を胡桃(くるみ)油か荏油(じんゆ)に溶いて油絵の効果を出し、以前の日本画には見られない陰影のある立体表現など、外来技法習得の跡が見られ、日本絵画史上特異な画風として注目される。 】

泰西風俗図屏風(全福岡市美術館蔵).jpg
上図:「泰西風俗図屏風・右隻」(六曲一双・重要文化財・福岡市美術館蔵)各97×255
→ C-1図
下図:「泰西風俗図屏風・左隻」(六曲一双・重要文化財・福岡市美術館蔵 各97×255
→ C-2図
https://artsandculture.google.com/asset/genre-scenes-of-westerners-important-cultural-property-unknown/aQGHULD8orlPBQ?hl=ja

【 伝統的な日本の絵画に西洋的な陰影法や遠近法を導入した「近世初期洋風画」と呼ばれる絵画は、桃山時代にイエズス会がキリスト教の普及を目的として制作させたことに始まります。本図は、一見、西洋の風俗画のようでありながら、背後にはキリスト教的主題が隠されています。同時に、日本の伝統的な四季図屏風の形式を踏襲してもいます。向かって右隻には、楽器を演奏する婦人たちや水辺で憩う人物や釣り人を表わした、春から夏にかけての場面が描かれています。左隻では、聖母子を想わせる母と子の姿や収穫する人々、雪山を背に巡礼する人々を描いた、秋から冬の場面へと展開します。右隻には、享楽的に生きる人々を、左隻には、キリストの教えに則った敬虔な生き方をする人々を対比的に描いて、キリスト教の教えを説いた近世初期洋風画の代表的作例です。 】

泰西風俗図屏風(水車のある風俗図.jpg
「泰西風俗図屏風」(六曲一隻・個人蔵) 縦101.7 横262.2  → D図
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/566872

【 田園風景のなかに西洋風の人物を描く初期洋風画。技法的には、絵具の濃淡で立体感を表わし、樹木・人物には影を付け、全体的に輪郭線に頼らず、色面とハイライトでモチーフを描写するなど、17世紀のイエズス会による西洋絵画教育の影響をうかがわせる。本作品は、10件ほどしか現存しない大画面構成の初期洋風画屏風の一例で、そのなかでも特に優れた描写と良好な保存状態をもつ優品である。なかでも本図の画風は、黒田家旧蔵本(現・福岡市美術館本、重要文化財)に描写が酷似している。近世初期に来日したヨーロッパ人との交流を通して、日本で隆盛した「南蛮美術」の大作である。下村観山旧蔵品。 】

 上記の「洋人奏楽図屏風」(A-1・2図)は、「細川藤孝(幽斎)→忠興(三斎)=玉子(ガラシャ)・興元・幸隆・加賀( 木下延俊正室)」などに連なる「肥後細川家」伝来の「永青文庫」所蔵のものである。
 そして、その「永青文庫」所蔵のものと瓜二つの「MOA美術館」所蔵の「洋人奏楽図屏風」(B-1・2図)は、「松平家旧蔵品」(『THE NANBAN ART OF JAPAN《西洋との出会い・キリシタン絵画と南蛮屏風》(国立国際美術館・1986)』所収「作品解説41」)との由来のあるもので、この「松平家」は、徳川家康の六男(庶子)の「松平忠輝」(長沢松平氏・越後国高田藩主、妻の五郎八姫はキリシタであったともいわれている)などに由来があるものかも知れない。
 次の「泰西風俗図屏風(福岡市美術館蔵)」の「C-1・2図」は、「ドン・シメオン」の洗礼名を有する、戦国の三英傑(信長・秀吉・家康)に重用され、筑前国福岡藩主として君臨した「黒田孝高」(官兵衛・如水)の「黒田家」に由来があるものである。
 続く、「D図」の「泰西風俗図屏風」は、「水車のある西洋風俗図」との別名を有するもので(『THE NANBAN ART OF JAPAN《西洋との出会い・キリシタン絵画と南蛮屏風》(国立国際美術館・1986)』所収「作品解説44」)、下村観山旧蔵品のものである。この作品も、「C-1・2図」の「黒田家」旧蔵品と同じく、当時の、キリシタン大名の誰かの旧蔵品の一つと解しても、許容範囲内のものと解したい。
 そして、これらの作品(「A-1・2図」「B-1・2図」「C-1・2図」「D図」)の背後には、下記の「婦女弾琴図」(伝信方筆・一幅・大和文華館蔵)などに、深い関わりのある作品群と理解をいたしたい。

婦女弾琴図・jpg.jpg

「婦女弾琴図」(伝信方筆・一幅・大和文華館蔵)縦55.5 横37.3 → E図
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/43/fbb20be2bd40a863ef34d4dbf1532281.jpg

【 謎の画家「信方(のぶかた)」による初期洋風画の佳品
 手元に視線を落としながらヴィエラ・ダ・マノを弾く女性を描く。色の明暗とハイライトによって巧みに表現された緋色の衣のドレープも美しい。その姿は、小さくふっくらした唇や筋の通った鼻梁など顔貌的な特徴もふくめて「洋人奏楽図屏風」(A-1・2図)の女性像と似通う。そればかりか制昨年、制作地も隔たった「キリスト教説話図屏風」(下記・F図)にも、類型から派生したと思われる人物像が見出せる点は興味深い。本図左下にはヨーロッパの紋章に似た印章が押されている。それは信方と呼ばれる画家が用いたねので、初期洋風画の作品のなかで筆者を知る手がかりのある作品として極めて希少である。信方は「日蓮上人像」(兵庫・青蓮寺)などの仏教的主題も描いており、セミナリヨで学びながら後に棄教した人物とする説もある。(鷲頭桂稿) 】
(『大航海時代の日本美術 Japanese art in the age of discoveries(九州国立博物館編)』)

キリスト教説話図屛風.jpg
「キリスト教説話図屏風」(八曲一双・マカオ・ポルトガル東方基金/オリエント美術館蔵)
各扇:縦240・0×横54・5 各画:縦140・0×横454・5 → F図
(『大航海時代の日本美術 Japanese art in the age of discoveries(九州国立博物館編)』所収「作品解説122」)
https://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_s49.html

 なお、この「信方」関連については、下記アドレスの「所謂信方筆西洋風俗図に就て(西村貞稿)」が参考となる。

file:///C:/Users/User/Downloads/039_23_Nishimura_Redacted.pdf
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