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「南蛮屏風幻想」(リスボン・ファンタジー)その十二 [南蛮美術]

(その十一)「高山右近旧領土のの南蛮美術(キリシタン美術工芸品)」(その三)」周辺

茨城市立キリシタン遺物史料館.jpg

「天使讃仰図」の三絵図入りの「茨木市立キリシタン史料館」(「案内図」の部分拡大)
http://www.osaka-doukiren.jp/guidance/guidance04/2083

【 (天使讃仰図)→(「七秘跡」=「表紙」+「七秘跡」の八枚組み)
 銅版画、千提寺の東家1枚(②)、下音羽の大神家から5枚(①③④⑤⑦)発見された。 主禱文(主の祈り)と七つの秘跡がテーマとなっている銅版画です。①主禱には、「教会の七つの秘跡と七つの徳に対応する七つの請願」言葉がラテン語で書かれている。
 木炭紙風の洋紙に製版 印刷された銅版画
 東家 32.7cm×21.9cm(東家のものが中央部に天使が合掌する姿が描かれていたので天使讃仰図と言われている。(新村氏が名付けた))→ 下記の②
 大神家 31.3(31.2)×21.6(21.5)→下記の①③④⑤⑦
 (欠落) ⑥告解と⑧終油
 制作時期=1598年フランスのリヨンでマテウス・グロイテルという銅版画家が制作した8枚組の原図があるそうです。彼は1602年からイタリアのヴェローナに移り制作活動をした。大神家所蔵のものにヴェローナの刊行地名が印刷されているので、1602年以降の作品と考えられている。】(「大阪府茨木市千提寺・下音羽地区のキリシタン遺物」p12)

主禮・洗礼.jpg

「①主禱=表題 ②洗礼」(「大阪府茨木市千提寺・下音羽地区のキリシタン遺物」p12)

【① 主禱=表題(大神家所蔵)
キリストが人間に教えられた唯一の祈りである、「主の祈り」(主祷文)が、8枚全体の
テーマとなっていますが、この讃仰図はそのことを最初に示す図柄となっていると思います。上部に御父が描かれ、その御父を御子イエス・キリストと其の弟子達が見上げ、まさに「天にましますわれらの父よ」と呼びかけている様子が描かれています。キリスト教の神である「三位一体」の中心的な概念である「御父」を観念するためのものだと思います。
「ドチリイナ」では、神は父のように人間を大切にして下さる存在であることを想起し、希望に満ちた心でお願いするために、「父」と呼ぶのだと説明しています。恐らく、宇宙万物の創造主を父のイメージで、「御父」として捉え、神は私達人間を何時も気にかけ、愛してくださる、私達は神から愛されている存在であるというということを、祈りの最初に観念させるためのものだと思います。
次に「我らの父」とは、人はみな父の子で、互いを大切にすることを考えるためであり、「天にまします」とは、人の楽しみはすべて天にあり、この世に執着しないためであり、選ばれた善人達に天でお姿を見せらることであると説明しています。

②洗礼(東家所蔵)→第一の請願「み名が聖とされますように。SANCTIFICETVR NOMEN
TVVM」
 最初に御父を観念した後には、我らの願いをどのように御父にお願いしたらよいのかということが「七カ条」にわけて書かれています。これは今と全く同じで、今は最初の三つの願いは、御父の栄光が目的で、後の四つは私達の望みを神に申し上げる願いだと説明してい  ます。
「願わくば御名の尊まれんことを」とは神の名と栄光が世界に広まり、すべての人間の主である神とその御子イエス・キリストを理解し、尊敬することが出来ますようということであると説明しています。今の教義書では、全ての人が神の計画の実現に招かれ、御名はモーゼに告げられ、イエスによって啓示され、全ての人が御名を聖とすることを求めることであると説明しています。
人が神に願う最も大事なことは、神の御心が成就することだということを示しています。人の我欲をお願するのではないのです。この願いを「第一の請願」として祈ることは、新たに神の子として生まれ変わる「洗礼」の誓いの言葉を思い起こさせます。 】(「大阪府茨木市千提寺・下音羽地区のキリシタン遺物」p71-72)

堅信・叙階.jpg

「③ 堅信 ④品級(叙階)」(「大阪府茨木市千提寺・下音羽地区のキリシタン遺物」p12)

【③堅信(大神家所蔵)→第二の請願「み国が来ますように。ADVENIAT REGNVM TVVM」

 第二の願い、「御国のきたらんことを」とは、「我らが悪事や罪科から逃れ、ただ神と御子 イエス・キリストが、この世においては恩寵、後世においては栄光をもって、我らを自由に  してくださるようにと願うことである」と説明しています。
今はキリストの再臨と神の国の最終的到来に注目し、生きている今の時代に神の国の成長があるように祈ることだと説明しています。この教えに心をとめ、この図柄を味わうと、次のようなことを思い起こさせます。キリストの受難と復活を目の当たりにした弟子達が、聖霊の恵みよって強められ、神の国があることを知らせ、この世が少しでも神の国近付くようにするために、死を覚悟した宣教の旅、巡礼の旅に出ました。キリシタン時代のヨーロッパの巡礼は最後の審判を思いながら、御国に招かれることを望む、死を覚悟したものであったようです。
堅信の秘跡によって信仰を強められた私達も巡礼者のように御国があること、御国に招かれるように生きることが求められるのです。堅信の秘跡では「父の賜物である聖霊のしるしを受けなさい」と唱えられ、キリストの弟子、証人として生きることを約束するのです。まさに、これらのことに相応しい図柄である事に気付かされます。

④品級(叙階)(大神家所蔵)→第三の請願「みこころが天に行われるとおり地にも行われますように。FIAT VOLVUNTAS TVA SICVT IN/ COELO ET IN TERRA」

 第三の願い、「御旨の天に行わるるごとく地にも行われんことを」とは、「天において諸々の天使が神に従い、神のみ旨を実行するように、地上においても、すべての人間が神に従い、貴いみ旨のままに仕えることができますようにと願うことである」と説明されています。
 今は、神の救いの計画が地上でも実現するために、御子のご意志に私達の意志を一致させることを祈ることだと説明しています。品級とは今でいう「叙階」です。その役務としての祭司職の任務を果たすことができるための神の恩寵が与えられる秘跡です。按手によって聖務に必要な聖霊の恵みが与えられることが祈られます。永遠に消えない秘跡で、生涯独身を貫くことが求められます。
 このようなことを想起しながら図柄を味わうと、中央の十字架を持ち、ベールを被り修道服を着た天使は、役務としての祭司職の任務を果たす修道者の姿を象徴したもののように見えてきます。聖霊に強められ、キリストの十字架を担い、神の救いの計画が地上でも実現するためにその任務を果たすことができるように、司祭・修道者のために祈ることが求められています。 】(「大阪府茨木市千提寺・下音羽地区のキリシタン遺物」p71-72)

聖体・婚姻.jpg

「⑤聖体 ⑦婚姻)」(「大阪府茨木市千提寺・下音羽地区のキリシタン遺物」p12)

【⑤聖体(大神家所蔵)→第四の請願「わたしたちの日ごとの糧を今日もお与えください。 PANEM NOSTRVM QVOTIDIANV / DANOBIS HODIE」

 第四の願い、「われらの日用の糧を今日われらに与え給え」とは、「我らの魂のために毎日  の糧を与えてくださいと願うことである。それは具体的には、聖体を頂くという秘跡、恩寵、  善、その他霊的な賜物を頂くことである。また、この世での肉体の息災と生命を継いでいく  ために必要なことを与えてくださいと願ことであると説明されています。今のもほぼ同じです。
また、聖体の秘跡について、ミサの聖変化の意味などについて詳しく説明され、正しく  聖体拝領するには、告解、懺悔をし、前日の夜中から、飲み物、食べ物をとらず、湯水を  使わず、当日の朝十分な心の準備をすることを求めています。
このようなことを踏まえて、中央に描かれている動きのある天使は、何を象徴しているのか、どこか疲れた悲しげな表情、解れや裂け目が見える粗末な服装、腰に円形の皿のような  ものを紐でくくりつけ、左手に杖を持ち、何を見、何のために右手を差し伸べているのか、  気になります。皿は施しを受けるためのものか 単に貧しい人なのか それとも毎日の生活の糧は天から与えられる事を信じ、この世の物質的なことに思い煩うことなく、人の憐れみを乞いながら生きる放浪者か巡礼者か。何れにしても「日用の糧」を願う切実な思いが伝わってくる。全ての人に、特に貧しい人に必要な生活の糧と霊的な賜物が与えられるように
願うことを思い起こさせるものかもしれない。

⑦婚姻(大神家所蔵)→第六の請願

 第五の願い、「我らに負い目(罪)を持つ人を我らが赦すように、我らの負い目(罪)も赦して下さい」ということが書かれた「⑥告解」の秘跡の部分は、欠落しています。
 この部分について、「人よりかけられる恥辱、又は無礼その他を赦すように、我らが神に 対して犯す罪科、すなわち過ちも赦して下さいと願う」ことで、「隣人に対する恨みを捨て なければ、天におられる父は、その人の罪科を赦すことがない」と説明しています。
 この第五の願を受けて、第六の願、「われらを試みひき給わざれ」について、「試練にさらさないでくださいということで、その心は、この世では様々の試練に責められても、それらの試練に負けないように、神の恩寵をお願するということであると説明しています。
そして婚姻の秘跡について、「この秘跡は教会が教えるように、夫ないし妻を迎えること である。これによって一生を無事に過ごし、神の教えられる自然の法則の通り、子孫繁栄 のために、神が恩寵を与えられる秘跡である」と説明しています。
 この図柄をこのようなことを踏まえてみると、中央の天使は、実にふくよかで、子どもを孕んでいるように見えます。新しい生命を宿したお母さんを思い起こさせます。
 また、悪の誘惑に陥り、楽園を追放されたアダムとイブの物語が書かれていることは、 第五の願いに相応しいと思います。罪から遠ざけてくださいという願いにぴったりの 図柄だと思います。 】(「大阪府茨木市千提寺・下音羽地区のキリシタン遺物」p75-76)

⑥ 告解[欠落]→SED LIBERA NOS A MALO (われらを悪より救い給え)=第五の請願

パリ本《第五の祈願》.jpg

図6  パリ本《第五の祈願》

⑧ 終油[欠落]→ET DIMITTE NOBIS DEBITA NOSTRA SICT (われらが人に許す如
くわれらの罪を許し給え)=第七の請願

パリ本《第七の祈願》.jpg

図8  パリ本《第七の祈願》

(注一)「大阪府茨木市千提寺・下音羽地区のキリシタン遺物」の説明事項に、下記の「茨木市立文化財資料館蔵『七秘蹟と七美徳がある主の祈りの七祈願(いわゆる「天使讃仰図」)』について」(蜷川順子稿)の、「パリ本《第五の祈願=請願》と「パリ本《第七の祈願=請願》」を加えた。関連して、同稿の「第一の祈願(請願)~第四祈願(請願)と第六祈願(請願)」の「祈願(請願)文」も加えた。

(注二)「パリ本」とは、「パリ国立図書館蔵のマテウス・グロイター(MatthäusGreuter, 1564/66-1638)による8 枚組のリヨン版(以下、パリ本と略)」の略称である。

(追記)「茨木市立文化財資料館蔵『七秘蹟と七美徳がある主の祈りの七祈願(いわゆる「天使讃仰図」)』について」(蜷川順子稿)

パリ本『七秘蹟と七美徳がある主の祈りの七祈願』《表紙》.jpg

図1 パリ本『七秘蹟と七美徳がある主の祈りの七祈願』《表紙》

パリ本《第一の祈願》2.jpg

図2  パリ本《第一の祈願》

パリ本《第二の祈願》.jpg

図3  パリ本《第二の祈願》

パリ本《第三の祈願》.jpg

図4  パリ本《第三の祈願》

パリ本《第四の祈願》.jpg

図5  パリ本《第四の祈願》

図6 第五の祈願[図6 ] →上掲の「6パリ本《第五の祈願》」

パリ本《第六の祈願》.jpg

図7  パリ本《第六の祈願》
【(6) 第六の祈願[図7 ] SEXTA PETITIO 31.4 × 22.4 cm
 続く第六頁目には、ページの一番下に第六の祈願の文字があり、主の祈りの第六祈願「わたしたちを誘惑におちいらせず、ET NE NOS INDVCAS IN TENTATIONĒ[M]」の文字が、同じく天上から降り注ぐ光の源を弧状に囲むように浮かび上がる。ここでは、左下にも第六祈願の文字があり、右側に「賢明 婚姻の秘蹟IN PRVDENTIA / ad Sacramentum / MATRIMONI[U]」という美徳と秘蹟とが記されている。画面中央には髪を長く垂らした、無花果の葉で腰を覆った豊満な裸体の婚姻の擬人像が、両手を胸に当てて天を仰いでいる。この擬人像はエヴァでもあり、背景向かって左手で、食べることを禁じられていた知恵の木の実をヘビから受け取ってアダムに手渡すエヴァに呼応している。また向かって右手の、眠っていたアダムが目を覚まし、創造されたエヴァと引き合わされる場面は婚姻に対応する。
 擬人像はここでも、建物の入り口のようなところに立ち、左右にある角材にピンで留められた紙に、やはりやや長い銘文がある。向かって左には、「この祈願の女人の服装は、楽園で罪を犯した後のアダムとエヴァの服装を示している。楽園で最初の誘惑が生じ、その楽園でアダムとエヴァの結合が婚姻の秘蹟と認定されたのである。誘惑の初めの通常の形は
肉欲的なものであるが、それの治癒が婚姻の秘蹟なのである。Huius petitionis / habitus referthabitum / primorū[m] Parentū[m] in Pa= /radiso post com[m]ißum / peccatū[m], quia inPara= / diso fuit prima tēntatio, / et in Paradiso Sacramē[n]= / tum Matrimonij in Adæ /atque Euæ coniugio de= / signatū[m]. Tentatio= / num antē Vniuersalis= / sima carnalis,eiusque / remediū[m] sacramentū[m] / Matrimonij / Melioe~ nubereque vri.」と画面の説明が記されている。向かって右には「誘惑の手段となったのはヘビであり、ヘビは狡猾と知恵の象徴である。しかし女性は結婚の成果によってそのヘビの頭を打ち砕いたのである。「ヘビのように賢く、鳩のように素直になりなさい」18)「誘惑に陥らぬよう、目を覚まして祈っていなさい」(『マルコ』14 : 38 )Tentationis instru= / mē[n]tū[m] fuit Serpens qui et / calliditatis etetiam / prudentiæ simbolum / proprium est, cui[o us] caput / conterens Mulier, succes= /sione matrimoniali./ Estote prudentes vt Ser= / pentes et simplices vt / columbæ. / Vigilateet orate ne / intretis in tentatio= / nem. Marci 14」と書かれている。擬人像の下の装飾的なカルトゥーシュには、教会での婚姻の儀式の場面が描かれている。男女の結ばれた右手の上に司祭がその右手を置き、左手に広げた聖書をもっている。女性方、男性方にそれぞれ二人ずつ親族と思われる人がいる。左右に延びたカルトゥーシュの装飾には、左側にへびが、右側には賢明の象徴の鏡がある。】(「茨木市立文化財資料館蔵『七秘蹟と七美徳がある主の祈りの七祈願(いわゆる「天使讃仰図」)』について(蜷川順子稿)」p63-p64)

図8 パリ本《第七の祈願》 →「上掲の図8  パリ本《第七の祈願》」
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