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「東洋城・寅彦、そして、豊隆」(漱石没後~寅彦没まで)俳句・連句管見(その十)  [東洋城・寅日子(寅彦)・蓬里雨(豊隆)]

その十「大正十五年・昭和元年(一九二六)」

[東洋城・四十九歳。月一回、寅彦と会合して連句を作る。大正天皇崩御され「大正天皇と私」連載。叡山に登る。]

大正天皇の大喪.jpg

「1927年(昭和2年)、大正天皇の大喪」(「ウィキペディア」)

(「大正天皇と私」より六句)

冬ごもり何に泣きたる涙かな
人の子におはす涙や時鳥
維武揚る微臣秋天をうたふべく
いくさ船並ぶや海の原の秋
草も木もこがらし防げ君が為め(前書「謹祷」)
神去りましゝ夜の凍る大地かな(前書「百姓相泣」)

[寅彦=寅日子・四十九歳

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1月20日、東京帝国大学地震研究所所員に補せられる。理学部教授はそのまま。2月8日、航空学談話会で「流体の運動に関する二三の実験(第一報)」を発表。3月13日、数学物理学会で“On theEffects of Winds on Sea-Level”(with S. Yamaguti)を発表。4月3日、数学物理学会で“Reports onSome Experiments on Motions of Fluid, Made by Students”を発表。5月20日、長女森貞子に男子博芳が誕生。6月6日、母亀が本郷区曙町の家で死去(84歳)。6月12日、帝国学士院で“A Preliminary Noteon the Form and Stucture of Long Spark”(with U. Nakaya)および“Propagation of Combustion inGaseous Mixture”(with K. Yumoto)を発表。6月22日、地震研究所談話会で「砂の崩れ方の話」および「不規則な衝撃に依る振動体の振動」を発表。11月1日、航空学談話会で「水の運動に関する実験」(服部邦男と共著)を発表。12月21日、地震研究所談話会で「弾性波の実験(第一報)
」(坪井忠二と共著)を発表。談話「火災論の論議に就て」、『日本消防新聞』、1月。
「TRSO」、『潮音』、1〜5月。
「新三つ物」、『渋柿』、2〜6月。
「俳諧六つ物」、『渋柿』、2月。
「俳諧 二枚折」、『渋柿』、7月。
「俳諧 二つ折」、『渋柿』、9月。
「書簡」、『アララギ』、10月。
「俳諧 二枚屏風」、『渋柿』、12月。 ]

※「TRSO『潮音』、1〜5月」の、連句新形式の「トルソー」関連については、次のアドレスで触れている。

https://yahan.blog.ss-blog.jp/2023-11-06

(再掲)

[▽トルソー 首および四肢を欠く胴体だけの彫像
▽「澁柿」俳誌。大正四年(一九一五)二月創刊。主宰・松根東洋城(明治十一~昭和三九)。誌名は、大正天皇が俳句につきご下問、東洋城が奉答した句「渋柿のごときものにては候へど」による。昭和二七年東洋城隠退し野村喜舟が主宰となる。平成十七年十二月号で一千百号(連句協会報一六一号)。「渋柿はその芭蕉に於いてなされし如く連句を大切にす。之により多くの俳諧を闡明(せんめい)拡充し高揚す」

TORSO(大正十四年八月『渋柿』)

シヤコンヌや国は亡びし歌の秋     寅日子
  ラディオにたかる肌寒の群       ゝ
屋根裏は月さす窓の奢りにて      蓬里雨
  古里遠し母病むといふ文        ゝ
新しきシャツのボタンのふと取れし      子
  手函の底に枯るゝ白薔薇        ゝ
忘れにしあらねど恋はもの憂くて      雨
  春雨の夜を忍び音のセロ         子
見下ろせば暗き彼方は海に似て        雨   ]

※「新三つ物(渋柿』2〜6月)」周辺

「新三つ物」(大正十五年六月「渋柿」)

 吾が前を行く傀儡(クグツ)なりけり  東洋城
木枯の吼ゆる大路の黄昏に      寅日子
 板橋通ひガタ馬車に乗る      蓬里雨

 谷の深きに紅葉見るまで      寅日子
欄干に干す手拭の蝶々や       蓬里雨
 湯治の日記(ニキ)の古い三月    東洋城

色々と娘の上のさたをして      東洋城
 祭の寄附のいやもいはれず     寅日子
移り来て紅葉の色づく門構      蓬里雨

▽「新三つ物」=東洋城考案の「三つ物」(平句の三句形式)で、「三つ物/(三句)= 発句・脇・第三句の三句をいう。江戸時代から歳旦の祝詞として詠む習わしが生じ、明暦(一 六五五~五七)ごろから大流行となり、歳旦開きという行事までもが行われた。三句のう ち、月・花また神祇・釈経・恋など何を詠んでもよい。」の、それを柔軟にしたも。「発句・脇・第三」にとらわれず、平句(四句目以下の句)の「短句・長句・短句」など、「連句」の、謂わば、「トルソー」的な展開のもの(「俳諧 三つ物」=『東洋城全句集下巻』所収「大正十三年五月「渋柿」)。

※「俳諧六つ物(『渋柿』、2月)」周辺

 臼の上には薪割(リ)の斧        東洋城
蕃椒(バンショウ)吊り干す軒さゝくれて  蓬里雨(※蕃椒=「トウガラシ」)
 繭のあがつた噂している        寅日子
霧の中静に朝の江渡(ワタシ)して       城
 朱盆の様な日を仰ぎけり          雨
画廊から画廊は遠き馬車の上に        子

(以下、五連(「折・面」を省略)

▽「俳諧六つ物=東洋城考案の「新三つ物」(平句の三句形式)の「三句形式」を「六句形式」にしたもの。上記のものは、その「六つ物」を「歌仙」の「三十六句」形式(折・面=六×六)の六連(折・面)と続けている。

※「俳諧 二つ折(『渋柿』、9月)」・「俳諧 二枚折(『渋柿』、7月)」)・「俳諧 二枚屏風(『渋柿』、12月」)周辺

▽「俳諧 二つ折(『渋柿』、9月)」は、「六つ物」(六句形式)を「二つ折」(「表と裏」の十二句)」を基本とするもの。「俳諧 二枚折(『渋柿』、7月)」は、「俳諧 二つ折」(十二句)を二枚続けて、「(六句・六句)+(六句・六句)=二十四句」を基本とするもの。「俳諧 二枚屏風(『渋柿』、12月」)は、「俳諧 二つ折」(十二句)を二枚続けて、「(六句・六句)+(六句・六句)=二十四句」を、「二曲一双」屏風のように、「一枚目屏風(六句+六句)=右隻」と「二枚目屏風(六句+六句)=左隻」と、「対(主題)」の仕立てにする形式のもの。これは、「六曲一隻(六句+六句+六句+六句+六句+六句)」ものなど、様々なバリエーションのものがあろう。

https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01096/

二曲一双屏風.jpg

「二曲一双屏風」 (京都・建仁寺「風神雷神図」)

[豊隆(蓬里雨)・大正十三年(四十一歳)=東北大学教授となる。大正十五年(四十三歳)=芭蕉俳諧研究会を始める。五月合著『続々芭蕉俳句研究』出版。九月合訳ストリンドベリ全集『燕曲集』出版。]

 https://yahan.blog.ss-blog.jp/2023-10-24

(再掲)

[[豊隆=蓬里雨・三十五歳。大正9年( 1920 )海軍大学校嘱託教授となる。大正10年 (1921 )芭蕉研究会に参加。]

※大正七年(1918)当時の豊隆は、『漱石全集』に取り組んでいて、「東洋城・寅日子・蓬里雨」の三吟歌仙とかは、大正十五年(1926)の頃が初出で、この頃は、「俳句・俳諧(連句)」には食指は伸ばしていなかったように思われる。大正十年(1921)の「芭蕉研究会」に参加は、東洋城の「渋柿」などとの「芭蕉研究会」ではなく、下記のアドレスのものなどによると、「太田水穂(歌誌「潮音」主宰)・幸田露伴・沼波瓊音・安倍能成・阿部次郎・小宮豊隆・和辻哲郎」らによる研究会のようである。

https://jyunku.hatenablog.com/entry/20100925/p1

「「芭蕉研究会」は田端の太田水穂(本名・貞一)宅で行われ、当初の会員は、阿部(次郎)、太田のほか、沼波瓊音、安倍能成、幸田露伴で、大正10年に小宮豊隆や和辻哲郎が加わった。」

 この、阿部次郎・小宮豊隆らの「芭蕉研究会」の参加は、「大正15年( 1926) 芭蕉俳諧研究会を始める」と、「東北帝国大学」の「山田孝雄、村岡典嗣、岡崎義恵、太田正雄(木下杢太郎)」らの参加を得て、形を変えて継続されていくことになる。

https://www.library.tohoku.ac.jp/collection/collection/introduce.html  ]

※「東洋城・寅日子(寅彦)・蓬里雨(豊隆)」の三者の中で、「芭蕉とその俳諧(連句・俳句)」周辺について最も造詣が深かったのは、大正十年(一九二一)の「芭蕉研究会」(太田水穂「歌誌『潮音』主宰)・幸田露伴・阿部次郎などの研究会)、そして、大正十五年(一九二六)の「芭蕉俳諧研究会」(東北帝大の同僚有志=阿部次郎・岡崎義恵・山田孝雄などによる研究会)で研鑽を積んでいた「蓬里雨(豊隆)」ということになろう。
 その一端は、昭和十四年(一九三九)に刊行された『芭蕉俳諧論集』(小宮豊隆・横沢三郎編 岩波文庫)などで知ることができる。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1684194/1/1

[『芭蕉俳諧論集』(小宮豊隆・横沢三郎編 岩波文庫)(「国立国会図書館デジタルコレクション」)
(「芭蕉俳諧論集・目次」)

序/3  (昭和十四年三月二十一日 小宮豊隆)
凡例/7
一、 心/21
二、 「風雅」/26
三、 「不易流行」/28
四、 「虛實」/38
五、 「さび、しをり、ほそみ」/41
六、 俳諧一般/45
(イ) 本質論/45
(ロ) 「修行敎」/57
(ハ) 個人評/73
七、 發句/89
(イ) 風體論/89
(ロ) 句作論/92
(ハ) 句評/111
八、 連句/215
(イ) 附合論/215
(ロ) 附句評/225
九、 作法/255
一〇、 雜/275
索引
索引に就いて/283
語句索引/287
句索引/297       ]
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