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源氏物語画帖「その三十五 若葉(下)」(光吉筆:京博本)周辺 [源氏物語画帖]

35 若菜(下) (光吉筆)=(詞)中院通村(一五八七~一六五三)     源氏41歳春-47歳冬 

光吉・若菜下.jpg

源氏物語絵色紙帖  若菜下  画・土佐光吉
https://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/db/index.html

通村・若菜下.jpg

源氏物語絵色紙帖  若菜下 詞・中院通村
https://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/db/index.html

(「中院通村」書の「詞」)

https://matuyonosuke.hatenablog.com/entry/2019/04/05/%E8%8B%A5%E8%8F%9C%EF%BC%88%E4%B8%8B%EF%BC%89_%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%80%90%E6%BA%90%E6%B0%8F%E7%89%A9%E8%AA%9E_%E7%AC%AC%E4%B8%89%E5%8D%81%E4%BA%94%E5%B8%96%E3%80%91

端近く寄り臥したまへるに、来て、ねうねうと、いとらうたげに鳴けば、かき撫でて、うたても、すすむかな、と、ほほ笑まる。
   恋ひわぶる人のかたみと手ならせば なれよ何とて鳴く音なるらむ
(第一章 柏木の物語 第二段 柏木、女三の宮の猫を預る)

1.2.16 端近く寄り臥したまへるに、来て、「 ねう、ねう」と、いとらうたげに鳴けば、かき撫でて、「 うたても、すすむかな」と、ほほ笑まる。
(端近くに寄り臥していらっしゃると、やって来て、「ねよう、ねよう」と、とてもかわいらしげに鳴くので、撫でて、「いやに、積極的だな」と、思わず苦笑される。)
1.2.17 恋ひわぶる人のかたみと手ならせば  なれよ何とて鳴く音なるらむ
(恋いわびている人のよすがと思ってかわいがっていると、どういうつもりでそんな鳴き声を立てるのか)

(周辺メモ)

http://www.genji-monogatari.net/

第三十五帖 若菜下
 第一章 柏木の物語 女三の宮の結婚後
  第一段 六条院の競射
  第二段 柏木、女三の宮の猫を預る
(「阿野実顕」書の「詞」)  →  1.2.16 1.2.17 
第三段 柏木、真木柱姫君には無関心
  第四段 真木柱、兵部卿宮と結婚
  第五段 兵部卿宮と真木柱の不幸な結婚生活
 第二章 光る源氏の物語 住吉参詣
  第一段 冷泉帝の退位
  第二段 六条院の女方の動静
  第三段 源氏、住吉に参詣
  第四段 住吉参詣の一行
  第五段 住吉社頭の東遊び
  第六段 源氏、往時を回想
  第七段 終夜、神楽を奏す
  第八段 明石一族の幸い
 第三章 朱雀院の物語 朱雀院の五十賀の計画
  第一段 女三の宮と紫の上
  第二段 花散里と玉鬘
  第三段 朱雀院の五十の賀の計画
  第四段 女三の宮に琴を伝授
  第五段 明石女御、懐妊して里下り
  第六段 朱雀院の御賀を二月十日過ぎと決定
 第四章 光る源氏の物語 六条院の女楽
  第一段 六条院の女楽
  第二段 孫君たちと夕霧を召す
  第三段 夕霧、箏を調絃す
  第四段 女四人による合奏
  第五段 女四人を花に喩える
  第六段 夕霧の感想
 第五章 光る源氏の物語 源氏の音楽論
  第一段 音楽の春秋論
  第二段 琴の論
  第三段 源氏、葛城を謡う
  第四段 女楽終了、禄を賜う
  第五段 夕霧、わが妻を比較して思う
 第六章 紫の上の物語 出家願望と発病
  第一段 源氏、紫の上と語る
  第二段 紫の上、三十七歳の厄年
  第三段 源氏、半生を語る
  第四段 源氏、関わった女方を語る
  第五段 紫の上、発病す
  第六段 朱雀院の五十賀、延期される
  第七段 紫の上、二条院に転地療養
  第八段 明石女御、看護のため里下り
 第七章 柏木の物語 女三の宮密通の物語
  第一段 柏木、女二の宮と結婚
  第二段 柏木、小侍従を語らう
  第三段 小侍従、手引きを承諾
  第四段 小侍従、柏木を導き入れる
  第五段 柏木、女三の宮をかき抱く
  第六段 柏木、猫の夢を見る
  第七段 きぬぎぬの別れ
  第八段 柏木と女三の宮の罪の恐れ
  第九段 柏木と女二の宮の夫婦仲
 第八章 紫の上の物語 死と蘇生
  第一段 紫の上、絶命す
  第二段 六条御息所の死霊出現
  第三段 紫の上、死去の噂流れる
  第四段 紫の上、蘇生後に五戒を受く
  第五段 紫の上、小康を得る
第九章 女三の宮の物語 懐妊と密通の露見
  第一段 女三の宮懐妊す
  第二段 源氏、紫の上と和歌を唱和す
  第三段 源氏、女三の宮を見舞う
  第四段 源氏、女三の宮と和歌を唱和す
  第五段 源氏、柏木の手紙を発見
  第六段 小侍従、女三の宮を責める
  第七段 源氏、手紙を読み返す
  第八段 源氏、妻の密通を思う
 第十章 光る源氏の物語 密通露見後
  第一段 紫の上、女三の宮を気づかう
  第二段 柏木と女三の宮、密通露見におののく
  第三段 源氏、女三の宮の幼さを非難
  第四段 源氏、玉鬘の賢さを思う
  第五段 朧月夜、出家す
  第六段 源氏、朧月夜と朝顔を語る
 第十一章 朱雀院の物語 五十賀の延引
  第一段 女二の宮、院の五十の賀を祝う
  第二段 朱雀院、女三の宮へ手紙
  第三段 源氏、女三の宮を諭す
  第四段 朱雀院の御賀、十二月に延引
  第五段 源氏、柏木を六条院に召す
  第六段 源氏、柏木と対面す
  第七段 柏木と御賀について打ち合わせる
 第十二章 柏木の物語 源氏から睨まれる
  第一段 御賀の試楽の当日
  第二段 源氏、柏木に皮肉を言う
  第三段 柏木、女二の宮邸を出る
  第四段 柏木の病、さらに重くなる

http://e-trans.d2.r-cms.jp/topics_detail31/id=3732

「柏木と女三宮の密通に対する光源氏(「若菜下」)」(川村清夫稿)

【 光源氏は、朱雀帝から娘の女三宮を正妻として結婚させられたが、彼女は紫上にくらべ伴侶として未熟であった。六条院の蹴鞠の会で、女三宮は屋内から蹴鞠を見ていたが、飼っていた唐猫が走り出し、つないでおいた綱が御簾に引っかかって引き開けてしまい、蹴鞠をしていた柏木衛門督(太政大臣の子息)は女三宮の姿を見てしまった。柏木は女三宮に一目ぼれして、彼女の侍女の小侍従の手引きで彼女の部屋に押し入って情交をとげてしまった。女三宮は妊娠して、光源氏は柏木から彼女への恋文を見つけて、密通に気づいた。六条院にて行われた、朱雀帝の50歳の誕生日を祝う式典の予行演習である試楽の場で、同席した光源氏は柏木に痛烈な皮肉を言って、柏木は罪悪感もあいまって病床に伏してしまうのである。

 それでは、光源氏が柏木に皮肉を言う場面を、明融臨模本の原文、渋谷栄一の現代語訳、ウェイリーとサイデンステッカーの英訳の順に見てみよう。

(明融臨模本原文)
主人の院、「過ぐる齢に添へては、酔ひ泣きこそとどめがたきわざなりけれ。衛門督、心とどめてほほ笑まるる。いと心恥づかしや。さりとも、今しばしならむ。さかさまに行かぬ年月よ。老いはえ逃れぬわざなり」
とて、うち見やりたまふに、人よりけにまめだち屈じて、まことに心地もいと悩ましければ、いみじきことも目もとまらぬ心地する人をしも、さしわきて、空酔ひをしつつかくのたまふ。戯れのやうなれど、いとど胸つぶれて、盃のめぐり来るも頭いたくおぼゆれば、けしきばかりにて紛らはすを、御覧じ咎めて、持たせながらたびたび強ひたまへば、はしたなくて、もてわづらふさま、なべての人に似ずをかし。

(渋谷現代語訳)
ご主人の院は、「寄る年波とともに、酔泣きの癖は止められないものだな。衛門督が目を止めてほほ笑んでいるのは、まことに恥ずかしくなるよ。そうは言っても、もう暫くの間だろう。さかさまには進まない年月さ。老いは逃れることのできないものだよ」
と言って、ちらっと御覧やりなさると、誰よりも一段とかしこまって塞ぎ込んで、真実に気分もたいそう悪いので、試楽の素晴らしさも目に入らない気分でいる人をつかまえて、わざと名指しで酔ったふりをしながらこのようにおっしゃる。冗談のようであるが、ますます胸が痛くなって、杯が回って来るのも頭が痛く思われるので、真似事だけでごまかすのを、お見咎めなさって、杯をお持ちになりながら何度もお勧めなさるので、いたたまれない思いで、困っている様子、普通の人と違って優雅である。

(ウェイリー英訳)
“All right, Kashiwagi, don’t look so contemptuous!” Genji shouted across to him. “Just wait a few years, and you’ll find a little wine will make your tears flow quite as fast as ours!” Kashiwagi made no reply, and and Genji, looking at him more attentively, saw that he was not only (alone among the whole company) entirely sober, but also extremely depressed. Surely, thought Kashiwagi, everyone can see that I am far too ill to take part in such a scene as this. How inconsiderate of Genji (who was certainly not nearly so drunk as he pretended) to call attention to him by shouting across the room in that way!no doubt it was meant as a joke; but Kashiwagi found it quite impossible to be amused. He had a violent headache, and each time the flagon came round he merely pretended to drink out of it. Genji presently noticed this, and sending it back, pressed him again and again to take his share.

(サイデンステッカー英訳)
“An old man does find it harder and harder to hold back drunken tears,” said Genji. He looked at Kashiwagi. “And just see our young guardman here, smiling a superior smile to make us feel uncomfortable. Well, he has only to wait a little longer. The current of the years runs only in one direction, and old age lies downstream.”
Pretending to be drunken than he was, Genji had singled out the soberer of his guests. Kashiwagi was genuinely ill and quite indifferent to the festivities. Though Genji’s manner was jocular each of his words seemed to Kashiwagi a sharper blow than the one before. His head was aching. Genji saw that he was only pretending to drink and made him empty the wine cup under his own careful supervision each time it came around Kashiwagi was the handsomest of them even in his hour of distress.

 ウェイリー訳は原文を改作しており、翻訳とは言えない。サイデンステッカー訳の方が原文に忠実である。「衛門督、心とどめてほほ笑まるる。いと心恥づかしや」をウェイリーはAll right, Kashiwagi, don’t look so contemptuous!に変えているのに対して、サイデンステッカーはAnd just see our young guardman here, smiling a superior smile to make us feel uncomfortable.と、より正確に訳している。「さかさまに行かぬ年月よ。老いはえ逃れぬわざなり」も、ウェイリーはyou’ll find a little wine will make your tears flow quite as fast as ours.と訳したのに対して、サイデンステッカーはThe current of the years runs only in one direction, and old age lies downstream.と、原文により忠実に訳している。またウェイリーは、Genji shouted across to himと書いているが、原文では源氏は柏木に対して叫んでいないし、2人の距離が遠いようにも書いていない。

 「柏木」の帖で女三宮は薫を出産して、光源氏は、かつて藤壺女御と密通して冷泉帝が生まれた過去を思い出し、因果応報の条理を思い知るのである。 】


(「三藐院ファンタジー」その二十五)

中院通村・消息.jpg

「中院通村筆消息」(慶應義塾ミュージアム・コモンズ(センチュリー赤尾コレクション)
https://objecthub.keio.ac.jp/object/316

【中院通村〈なかのいんみちむら・1588-1653〉は、江戸初期の公卿。権中納言通勝〈みちかつ・1556-1610〉の子。母は細川幽斎〈ほそかわゆうさい・1534-1610〉の養女。初名は通貫(みちつら)、後十輪院(のちのじゅうりんいん)と号した。忠誠剛直な性格で、後水尾天皇〈ごみずのおてんのう・1596-1680〉の信頼を得たという。寛永6年〈1629〉の明正天皇〈めいしょうてんのう・1623-96〉への譲位事件の際、幕府より武家伝奏としての責任を追求され解官、江戸幽閉の身となった。が、のちに天海僧正〈てんかい・1536-1643〉の奔走によって特赦を受けて復帰、寛永8年〈1631〉正二位・内大臣となる。とくに和歌をよくし、『御十輪院集』(2巻)がある。書においては早くから世尊寺流の名手として聞こえたが、のちには通村を祖とする中院流が立てられ、多くの追随者を生んだ。また、古筆の鑑定にも優れた才能を発揮した。「関戸本古今集」の巻末識語をはじめ、『中院通村日記』『隔蓂記(かくめいき)』などにも、かれの鑑定記録が散見される。これは、数多くの歌の揮毫依頼(色紙・短冊のたぐいか)にもかかわらず、健筆(清書)をふるってもらったことへの礼手紙。中の一点につき気になるところがあるので訂正して再度の執筆を申し入れる、という。相手は、能書の家系「清水谷」。通村の活躍期から勘案すると、一時途絶えていた清水谷を相続した清水谷実任〈しみずだにさねとう・1587-1664〉と推定される。かれは、光悦流の能書阿野実顕〈あのさねあき・1581-1645〉の弟。書流系図「古筆流儀分(こひつりゅうぎわけ)」では、実任も光悦流にその名が掲げられるが、伝存の遺墨から見るかぎり、実任の書は中院流に近い書風を示している。「歌数多申し入れ候処、健筆を染められ候。過分の至りに存じ候。一首不審の事候。重ねて申し入れ候。御労煩察し存じ候。余は面談の次と存じ候。恐々謹言。二月九日(花押)/清水谷殿(花押)」

(釈文)

歌数多申入候処被 染健筆候過分之至存候一首不審之事候重而可申入候御労煩察存候餘者面談之次存候恐々謹言二月九日(花押)清水谷殿(花押)      】

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