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川原慶賀の世界(その八) [川原慶賀の世界]

(その八)「川原慶賀の動植物画」(シーボルト・フイッセル:コレクション)周辺

川原慶賀の植物画.png

上図(左から「ムクゲ」「クチナシ」「ナノハナ」「カキツバタ」「スイカ」)
下図(左から「タンポポ」「フクジュソウ」「ケシ」「キリ」「サツキ」)
川原慶賀筆 ライデン国立民族学博物館

http://www.nmhc.jp/keiga01/kawaharasite/target/kgdetail.php?id=762&cfcid=115&search_div=kglist

●作品名:ムクゲ
●学名/Scientific name:Hibiscus syriacus
●分類/classification:植物/Plants>アオイ科/Malvaceae
●形状・形態/form:紙本彩色、冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden

●作品名:クチナシ
●Title:Common Gardenia
●学名/Scientific name:Gardenia augusta
●分類/classification:植物/Plants>アカネ科/Rubiaceae
●形状・形態/form:紙本彩色、冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden

●作品名:ナノハナ
●Title:Rapeseed
●学名/Scientific name:B.rapa var.nippo-oleifera
●分類/classification:植物/Plants>アブラナ科/Brassicaceae
●形状・形態/form:紙本彩色、冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden

●作品名:カキツバタ
●学名/Scientific name:Iris laevigata
●分類/classification:植物/Plants>アヤメ科/Iridaceae
●形状・形態/form:紙本彩色、大型冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:スイカ
●Title:Water melon
●学名/Scientific name:Citrullus lanatu
●分類/classification:植物/Plants>ウリ科/Cucurbitaceae
●形状・形態/form:紙本彩色、冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden

●作品名:タンポポ
●Title:Dandelion
●学名/Scientific name:Taraxacum
●分類/classification:植物/Plants>キク科/Asteraceae
●形状・形態/form:紙本彩色、大型冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:フクジュソウ
●Title:Far East Amur adonis
●学名/Scientific name:Adonis amurensis
●分類/classification:植物/Plants>キンポウゲ科/Ranunculaceae
●形状・形態/form:紙本彩色、大型冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:ケシ
●Title:Opium poppy
●学名/Scientific name:Papaver somniferum
●分類/classification:植物/Plants>ケシ科/Papaveraceae
●形状・形態/form:紙本彩色、大型冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:キリ
●Title:Empress Tree, Princess Tree, Foxglove Tree
●学名/Scientific name:Paulownia tomentosa
●分類/classification:植物/Plants>ゴマノハグサ科/Scrophulariaceae
●形状・形態/form:紙本彩色、大型冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:サツキ
●学名/Scientific name:Rhododendron indicum
●分類/classification:植物/Plants>ツツジ科/Ericaceae
●形状・形態/form:紙本彩色、冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden

 これらの「植物図譜」に関して、『鎖国の窓を開く:出島絵師 川原慶賀展(西武美術館)』では、次のように解説している。
≪ 慶賀の植物図は5冊のアルバムに収められ、全部で340種を数えることができる。直接的には『日本植物誌』に用いられていないが、シーボルトを満足させた慶賀の植物観察図の力量をうかがうことができる。≫(『同書(主要作品解説)』)

川原慶賀の動物画.png

上図(魚介)(左から「クジラ」「ニホンアシカ」「サケ」「ギンサメ」)
中図(魚介・鳥類)(左から「モクズガニ」「カメ」「ライチョウ」「ミヤコドリ」)
下図(動物)「左から「ウマ」「ウシ」「イヌ」「ネコ」「サル」)

●作品名:クジラ
●Title:Whale
●分類/classification:ほ乳類/Animals, Mammals>クジラ目/Cetacea
●形状・形態/form:紙本彩色、めくり/painting on paper, sheet
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:ニホンアシカ
●Title:Japanese Sea Lion
●学名/Scientific name:Zalophus californianus japonicus
●分類/classification:ほ乳類/Animals, Mammals>アシカ科/Otariidae
●形状・形態/form:紙本彩色、めくり/painting on paper, sheet
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:サケ
●Title:Impossibe to identify species or genus
●分類/classification:魚類/Animals, Fishes>サケ目/Cetacea
●形状・形態/form:紙本彩色、大型冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:モクズガニ
●学名/Scientific name:Eriocheir japonicus
●学名(シーボルト命名)/Scientific name(by von Siebold):Grapsus (Eriocheir)
●分類/classification:節足動物/Animals, Arthropods>エビ目/Decapoda
●形状・形態/form:紙本彩色、めくり/painting on paper, sheet
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:カメ(イシガメ)、クサガメ
●学名/Scientific name:Chinemys reevesii
●分類/classification:は虫類/Animals, Reptiles>イシガメ科/Geoemydidae
●形状・形態/form:紙本彩色、めくり/painting on paper, sheet
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:ライチョウ
●Title:Ptarmigan
●学名/Scientific name:Lagopus mutus
●分類/classification:鳥類/Animal,Birds>キジ目/Galliformes
●形状・形態/form:紙本彩色、冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden

●作品名:阿州産 ミヤコドリ
●Title:Eurasian Oystercatcher
●学名/Scientific name:Haematopus ostralegus
●分類/classification:鳥類/Animal,Birds>チドリ目/Charadriiformes
●形状・形態/form:紙本彩色、冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden

●作品名:オウマ
●Title:Horse
●分類/classification:ほ乳類/Animals, Mammals>ウマ科/Equidae
●形状・形態/form:紙本彩色、大型冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:オウシ
●Title:Bull
●分類/classification:ほ乳類/Animals, Mammals>ウシ科/Bovidae
●形状・形態/form:紙本彩色、めくり/painting on paper, sheet
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:オイヌ
●Title:Male dog
●分類/classification:ほ乳類/Animals, Mammals>イヌ科/Canidae
●形状・形態/form:紙本彩色、大型冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:オネコ
●Title:Male cat
●分類/classification:ほ乳類/Animals, Mammals>ネコ科/Felidae
●形状・形態/form:紙本彩色、大型冊子/painting on paper, album
●所蔵館:ライデン国立自然史博物館 National Museum of Natural History

●作品名:サル
●Title:Monkey
●分類/classification:動物、ほ乳類/Animals, Mammals>オナガザル科/Cercopithecidae
●形状・形態/form:絹本彩色、めくり/painting on silk, sheet
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden

≪ 「魚介」
魚の図は、2冊のアルバムと1枚の紙片に四種類に描かれたものが23枚所蔵されている。このような魚図の大部分は同じライデンの国立自然科学博物館の所蔵に帰しており、これらの図の一部はすでに『シーボルトと日本動物誌』(L.B.Holthuis ・酒井恒共著、1970年、学術出版刊)で紹介されている。これらの図がいかなる事情でしかも慶賀の手で描かれたかについては、シーボルトが日本を去るにあたって、彼の助手ビュルガー(ビュルゲル)に与えた指示(『前掲書301頁)によって分かる。その手紙の文面はシーボルトが慶賀の写実力をいかに高く評価していたかを証しするものであり、本展出品の諸図(上記が一例))もその一端を示すものである。なお、魚名を墨で仮名書きした和紙が各図に貼付されているが、これも慶賀自身の手になるものと推定されている。(兼重護) ≫(『鎖国の窓を開く:出島絵師 川原慶賀展(西武美術館)』所収「主要作品解説」)

≪ 「鳥」
 鳥の図はすべてフイッセル・コレクションに属している。絹(紙? 27.5t×42㎝)に描かれ、慶賀の朱印が押されている。鳥類は、鑑賞的傾向が強く、いわゆる花鳥画的趣を呈している。鳥籠の中の鳥図が5点含まれているが、これらは細かい線と入念な彩色により、写実的に写しており、これらが実物の観察に基づいて描かれたであろうことを示している。≫(『鎖国の窓を開く:出島絵師 川原慶賀展(西武美術館)』所収「主要作品解説」)

≪ 「動物図譜」
 C&I Honicの透かしのあるオランダ製(ホーニック社製)の紙に著色したもの、横約110㎝、縦約64㎝ の大きな紙も二つ折にして両面(すなわち4頁分)に各頁6頭の動物を描いている(総頭48頭)、日本語めの獣名は貼りこんでものと書きこんだものと両用あるが、ローマ字は全て書きこみで、Oeso(ウソ)、Moesina(ムジナ)など表記されている。≫
(『川原慶賀展―幕末の『日本』を伝えるシーボルトの絵師(「主要作品解説」)』)

(参考)

https://yahan.blog.ss-blog.jp/2022-07-07

≪「シーボルト・コレクションにおける川原慶賀の動植物画と風俗画」(「野藤妙」稿・国際シンポジウム報告書「シーボルトが紹介したかった日本」所収)

はじめに(抜粋)

 川原慶賀(1786?-1860?)は江戸時代後期の長崎の絵師であり、登与助と呼ばれていた。遅くとも文化年間には出島に出入りが許可されており1、出島で勤務していたオランダ商館員の求めに応じて日本の動植物や風俗、風景などの作品を描いた。慶賀の作品を収集したオランダ商館員としては、ヤン・コック・ブロムホフ(Jan Cock Blomhoff)、ヨハン・フレデリック・ファン・オーフェルメール・フィッセル(Johan Frederik vanOvermeer Fisscher)、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(Philipp Franz vonSiebold)の3名が知られている。
 現存する慶賀の作品の中には、精密な動植物画の他、水墨画や南蘋風の掛け軸などもあり、慶賀がいろいろな技法を用いて作品を描くことができたことがわかる。町絵師である以上、依頼主の注文に応じた作品を描かなければならなかったため、さまざまな技法で描くことができる必要があった。したがって、慶賀の作品を研究する際には、まず依頼主が何を求めていたかを考察しなければならない。それゆえに、本稿ではシーボルトが何を要求したかという点から慶賀が数多く描いた動植物画と風俗画を検討していきたい。

1.シーボルトにおける絵画の重要性(略)
2.慶賀の動植物画(部分抜粋)

 シーボルトの著作の図版は、標本や、日本人の絵師の原画、カレル・ヒュベルト・ドゥ・フィレニューフェ(Carel Hubert de Villeneuve)による原画の他、和本の挿絵などを元に作成された。来日期間中にシーボルトは日本人絵師に描かせるだけでは日本研究を進めるのが難しいと考えた。そこでオランダ東インド総督へ画家の派遣を要請し、1825年にフィレニューフェが来日することとなった。またこの時に、研究の助手としてハインリッヒ・ビュルガー(Heinrich Bürger)も来日した。
 シーボルトは1828年に帰国する予定であったがいわゆるシーボルト事件が起こったため、結局1830年に帰国した。シーボルトが日本を離れた後も、後任のビュルガーは標本等の発送を行い、シーボルトの日本研究に助力した。ブランデンシュタイン城に現存している1831年12月1日に書かれた書簡4は、出島にいるビュルガーからライデンにいるシーボルトへ出されたものである。
 (中略)
 慶賀やフィレニューフェの現存する絵を併せて検討すると、それぞれの描く対象が異なっており、大まかな役割分担がなされていたことが推測される。この役割分担は、シーボルトがオランダ東インド総督に行った報告に添付された「1823年から1828年の間に日本で作成された記述類一覧」中の「絵図」項目の

39 日本人の肖像12点:デ・フィレニューフェ氏制作
40 日本のもっとも注意すべき若干の哺乳動物図:デ・フィレニューフェ氏制作
41 若干の爬虫類および哺乳動物の骨格図:デ・フィレニューフェ氏
42 若干の魚類および海中棲息生物の写生:日本人絵師登与助制作
43  日本植物、あるいは約60個の注目すべき日本植物図:日本人絵師登与助制作。輸送と荷卸しはデ・フィレニューフェ氏による
という記述とも合致する。

 (中略)

 シーボルトは、慶賀が動植物画を描く場合、その動植物が分類学上どのように分類されるのかがわかるように、正確に特徴をとらえ、生きているそのままの色を表現することを求めた。慶賀はこの要求に沿って、例えば海老などの甲殻類の殻の凹凸を表現するために細かく描くなどして、シーボルトの要求に応えるように努力した。先行研究でも言及されている通り、シーボルト・コレクションの慶賀の動物画と、シーボルト以前に来日したブロムホフ・コレクションの動物画とを比べると、死ぬと縮んでしまう魚の背びれや尾ひれがピンと張って描かれるようになり、鱗の数なども正確に描かれ、図鑑の挿絵として使えるように技術が向上していることがわかる。
 慶賀の絵の上達は、植物画においても同様に見られる。シーボルト・コレクションの慶賀の植物画を、ブロムホフ・コレクションと比較すると、ブロムホフ・コレクションでは、植物が色鮮やかに描かれているが、花や葉の形を見ると正確さに欠けている。シーボルト・コレクションでは、色に濃淡があり、繊細に塗られているほか、植物の解剖図が描かれている。  
 シーボルトがヨーロッパの植物学の分野において本を出版しようとするとき、ブロムホフ・コレクションのような絵では不十分である。植物の同定をするためには、花や葉の形が正確に描かれていることはもちろん、解剖図が描かれている必要があった。慶賀はシーボルトやフィレニューフェから指導を受け、その結果、図鑑の挿絵として活用できるような絵を描けるようになった。

3.慶賀の風俗画(部分抜粋)

 シーボルト・コレクションの風俗画のほとんどはオランダ政府によって購入され、ライデン国立民族学博物館に所蔵されている。慶賀が描いた風俗画の画題の中でも、人が生まれ結婚し、死去するまでを23場面で描いた《人の一生》という画題の作品群に注目する。
《人の一生》について、ここでは簡潔に結果を述べたい《人の一生》は、5セット現存している。シーボルト以前に来日したフィッセルが3セット、シーボルトが1セット持ち帰っており、その他に収集者が不明のものがもう1セットある。
 フィッセルが収集し、現在ライデン国立民族学博物館に所蔵されている《人の一生》を①とする。1832年にオランダ国王ウィレム1世によって購入されたフィッセル・コレクションの中にこの作品も含まれていた。絹に描かれており、サイズは、30㎝×45㎝程度である。この①の最大の特徴は慶賀の落款が押されている点である。落款は縦横1㎝×1㎝程度の大きさで、黒枠の内側や外側などに見られ、多くは右下に押されている。
  (中略)
 シーボルト・コレクションの風俗画で慶賀の落款が押されているものは、60㎝×80㎝程度の比較的大判の絵や掛け軸、さらには朝鮮の人々を描いた絵などのブロムホフやフィッセルのコレクションには含まれていない絵である。一方、慶賀の落款が押されていないものは、ブロムホフやフィッセルとの画題の重複が見られるものが多い。そのような作品の中には、《人の一生》のように、慶賀が直接描くのではなく、同じ工房で働く他の絵師たちによって作成された作品も含まれている。

おわりに

 本稿では、シーボルトが収集した慶賀の動物画と風俗画を併せて検討を行った。動物画に関しては、慶賀に描かせるようにとビュルガーに指示しており、ビュルガーもシーボルトの忠告を守り慶賀に描かせている。そうさせたのは、標本にすると失われてしまう動物の色をきちんと表現させることが重要であったからである。慶賀はシーボルトの要求に、精密な絵を描くことで応えた。その一方で、風俗画に関しては、ブロムホフ、フィッセルとの画題の重複が見られ、そのような作品の中には細部の正確さに欠けるものも含まれている。
 『日本植物誌』や『日本動物誌』の図版は一流の画家が作成しているのに対し『日本』の図版では費用の問題もあり、二流の画家を使っていることが先行研究によって指摘されている。このことからも、動植物画と風俗画ではシーボルトの意図が異なっていたことが推測される。注文主であるシーボルトが絵を重視していた植物、動物に慶賀も力点を置いていたと言えよう。風俗画については、シーボルトは、どう描かれているかということ以上に何が描かれているか、つまり細部の正確さよりも内容が重要で、動植物画ほどの精密さは求めていなかったと考えられる。シーボルトから大量の絵を注文された慶賀は、自分にしか描くことのできない動植物画を自ら描き、同じ画題の風俗画については、他の絵師などにトレースさせた絵を提供した。≫
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