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川原慶賀の世界(その十二) [川原慶賀の世界]

(その十二)「川原慶賀の長崎歳時記(その四)雛祭り(桃の節句)」周辺

『NIPPON』 第1冊図版(№177)「雛祭り(桃の節句)」(A図).gif

『NIPPON』 第1冊図版(№177)「雛祭り(桃の節句)」(A図) 福岡県立図書館/デジタルライブラリー
https://trc-adeac.trc.co.jp/Html/home/4000115100/topg/theme/siebold/nippon.html

ひな祭り(B図).gif

●作品名:ひな祭り(B図)
●Title:Girl's Festival, March
●分類/classification:年中行事、3月/Annual events
●形状・形態/form:紙本墨画、冊子/drawing on paper, album
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden

ひな祭り(C図).jpg

●作品名:ひな祭り(C図)
●Title:Girls' Festival, March
●分類/classification:年中行事・3月/Annual events
●形状・形態/form:絹本彩色、めくり/painting on silk, sheet
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden
http://www.nmhc.jp/keiga01/kawaharasite//target/kgdetail.php?id=1141&cfcid=142&search_div=kglist
「雛祭り」 絹本着色 26.8×36.6
Girls' Festival( March)
(『川原慶賀展―幕末の『日本』を伝えるシーボルトの絵師(「出品目録№8」)』)

「雛祭り」(D図).jpg

「雛祭り」(D図) 絹本着色 26.2×38.0 (「ブロムホフ・コレクション」)
Girls' Festival( March)
(『川原慶賀展―幕末の『日本』を伝えるシーボルトの絵師(「出品目録№7」)』)
(『鎖国の窓を開く:出島絵師 川原慶賀展(西武美術館)』所収「出品目録№21」)

『 この図(D図)は長崎における普通の家庭の雛祭りを写したものである。上段の天子様が紋付袴すがたであるし、現在の雛人形のように五人囃子、三人上戸などといった人形はないが、夜具や台所用具が飾られている。下段の人形は親族知音より贈られたものであろう。雛祭りの見物客に、
しるも知らぬも打むれたがひに雛ある家にいたりて見物す。其時菓子又は祝酒をだして飲しむ。よつて途中酩酊の子児輿にいりて行かふさま大ひに賑わし。
といっている。 』
(『鎖国の窓を開く:出島絵師 川原慶賀展(西武美術館)』所収「主要作品解説1」)

 上記の「雛祭り(ひな祭り)」の「B図」(紙本墨画)と「C図」(絹本着色画)は「シーボルト・コレクション」、そして「D図」は「ブロムホフ・コレクション」のものである。
 『NIPPON』 第1冊図版(№177)「雛祭り(桃の節句)」(A図)の「下絵」は、「B図」(紙本墨画)で、その「原画」が「C図」(絹本着色画)ということになる。
そして、大まかには、この「B図」も「C図」も「川原慶賀」作とされるが、厳密には、
この「C図」は「川原慶賀(又は「慶賀工房」)」作、この「B図」は「川原慶賀(又は「慶賀工房」)」(又は「石販挿絵画家=西洋の画家」)作と見解は分かれることであろう。
 それに対して、「ブロムホフ・コレクション」の、この「D図」は「川原慶賀」作で、この「D図」を原画にして、「C図」そして「B図」は制作されているものと解したい。

(参考)

https://note.com/mitonbi/n/nd19ac15e4197

野口文龍「長崎歳時記」全文訳

三月

一日
 家々では草餅をついた団子を菱形にして、お重に入れてお互いに配ります。お重の蓋には桃の花を挿すのがお決まりです。女の子のいる家では、ひな人形を並べます。飾りかたは、上中下の壇をしつらえて、この上に毛氈を敷き、前には赤いちりめん、またはカラフルな幕をかけ、真っ赤な「ふき」などで絞り上げます。紫宸殿の前の闘鶏や、公卿や殿上人たちが参内する様子などを模した飾りをしますが、みな一様ではありません。かたわらには箪笥や長持、ほかひ(?)、挟箱、つづら、黒棚、書棚、皮籠など、ここに書ききれないほどの家財を、思い思いに飾り付けます。下の壇には、大きな花甕に桃や桜、山吹などの咲き乱れたものを生けておきます。

三日
 諸役人は節を拝し、親類縁者の家も回ります。

 初めて女の子が生まれた家では、初節句といってみんな集まり、お雛様の前で酒を酌み交わし、お祝いします。この日は街中の女の子がおしゃれをして、知ってる人も知らない人も連れ立って、雛飾りのある家を見物して回ります。そのとき、お菓子やお酒を出して飲ませるので、酔っぱらって興奮した子供たちが道を行き交い、とても賑やかなのです。
 初節句の家には、親戚知人たちからも、お雛様や造り花などを贈ります。

四日
 この日もまだ「ひなめぐり」をする女の子たちがいます。また、男女が何人ずつも誘いあい、瞽女や座頭などを引き連れて、大浦の浜辺あたりで潮干狩りをするものもいます。
 大浦とは、大村領で、長崎の南西にあり、詩人などは大浦を「雄浦」と書いたりします。

五日
 家々では雛飾りを片付けます。

九日
 諏訪社の合殿の森崎権現の祭礼です。以前は能などがあって参詣者が群れをなしていたのですが、いつのころよりか、このお祭りは衰え、参詣するものもまれになりました。祭礼のあとには社壇で音楽が奏され、近ごろでは舞囃子などが催されます。

 この夜、金比羅山に参詣する者がたくさんいます。

十日
 金比羅山祭礼。町中からも接待所が設けられ、参詣の老若男女が連れ立って大勢集まります。麓の広場には、それぞれが毛氈を敷き並べ、弁当を持って来ては、大人も子供もハタ合戦です。
 この日は町のハタ屋たちもやってきて店を出し、ビードロヨマやハタを売っているので、身分の上下も関係なく勝負しては、お金を使います。ま、この土地の欠点ではありますな。

十五日
 諸役人たちは佳日を拝します。

十八日
 秋葉山の祭礼。秋葉山は長崎の東、中心部より半里ほどの所にあります。
 ここに時雨桜というものがあります。晴天の日でも、梢から水気を飛ばして、細雨が降っているように、着物を濡らすことから、とある詩人が名付けたのです。思うに、山の上から一脈の渓流の清水が流れていて、その流れの音が琴の音のようでもある土地の、いちばんきれいな場所だからでしょう。かつ、この祭りのころは、春の着物になるころでもあり、市中の男女、あるいは遊女たちは、それぞれにめいっぱいおしゃれをして参詣するのです。八月十八日にも祭礼があります。この地には天神があり、亀井天神と呼ばれています。

十八日
 浦上山王祭り。浦上村は長崎の北西にあります。むかしはここに山王社はありませんでした。寛永年間の島原一揆の際、松平伊豆侯がここを通って長崎に来られた時に、「江戸の坂本という所の地形によく似ているので、山王社を勧請したらいい」というお沙汰があり、その社を建て、地名も坂本となったのです。

十九日
 鳴滝の奥の七面山の祭礼。とりわけ、日蓮宗徒の参詣が多くあります。
 鳴滝は長崎の東。村に一脈の谷川があって、詩人たちは浣花谿などと呼んでいます。中程に大きな石があって、鳴滝の文字が彫られています。これは府尹(首長の中国風な言い方)牛込侯によるものだそうです。

二十一日
 香焼山、弘法大師の祭りということで、男女が船に乗って参詣します。この日多くは風や波が大きく、参詣の者はまれなのだが、年によって快晴の日であれば、老いも若きもそれぞれ船に乗って詣でるものがたくさんいたということです。
 香焼山は肥前領で、長崎の港の西三里ほどの場所にあり、もともとは「こうやぎ島」といって、人が住んでいる島です。

二十三日
 豊前坊祭礼。豊前坊は長崎の東にあって、彦山の隣です。八月二十三日にも祭礼があります。

潮干がり(E図).jpg

●作品名:潮干がり(E図)
●Title:Shell gathering at low tide, Spring, Summer
●分類/classification:年中行事、春、夏/Annual events
●形状・形態/form:絹本彩色、めくり/painting on silk, sheet
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 National Museum of Ethnology, Leiden

 この「潮干がり」(E図)は、上記の「野口文龍『長崎歳時記』全文訳」の、「四日 この日もまだ「ひなめぐり」をする女の子たちがいます。また、男女が何人ずつも誘いあい、瞽女や座頭などを引き連れて、大浦の浜辺あたりで潮干狩りをするものもいます。大浦とは、大村領で、長崎の南西にあり、詩人などは大浦を「雄浦」と書いたりします。」で、上記の「ひな祭り」(C図)と同じく、「シーボルト・コレクション」の一群の作品ということになる。
 これが、次のように、「年中行事」の「潮干狩り」(E図)から、「生業と道具」の「潮干狩り、ウニ採り」(F図)と、「シーボルト・コレクション」では変貌して行く。

潮干狩り、ウニ採り(F図).jpg

●作品名:潮干狩り、ウニ採り(F図)
●Title:Shell gathering at low tide
●分類/classification:生業と道具/Agriculture and Fishery, their tools
●形状・形態/form:絹本彩色、めくり/painting on silk, sheet
●所蔵館:ライデン国立民族学博物館 ational Museum of Ethnology, Leiden
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