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芦雪あれこれ(牧童吹笛図) [芦雪]

(その十一) 牧童水笛図

吹笛図.jpg

「牧童水笛図」(芦雪指画)一幅 紙本墨画 建仁寺・久昌院蔵
一四一・八×一三九・〇cm

 この図の左上に、「平安 芦雪指画」とある。これも、草堂寺の「栽松・焚経図屏風」(二曲一双・紙本墨画)と同じく、芦雪の「指頭画」ということになる。
 この「牧童水笛図」は、平成二十六年(二〇一四)三月二十六日から五月十八日まで、東京国立博物館で開催された「栄西と建仁寺」展で公開されていた。
「建仁寺ゆかりの名宝」ということで、「俵屋宗達筆『風神雷神図屏風』(国宝)」「海北友松筆『雲龍図』(重要文化財)」「「長谷川等伯筆『竹林七賢図屏風』」等の目玉作品の他に、「伊藤若冲『「雪梅雄鶏図」」「曽我蕭白筆『山水図』」そして、この「芦雪筆『牧童吹笛図』」などが喧伝されていた。
 図録などでは、サイズが書いてあっても、その大きさがなかなか実感出来ないが、展示中のスナップ写真などを見ると、図録のものとは、また違った印象を受ける。
 この作品については、『別冊太陽181 長沢芦雪(狩野博幸監修)』の中の「芦雪画の魅力(七即筆)(八自由の絵画)狩野博幸稿」で、「この作品との出会い・印象・席画・十八世紀の京都の自由の絵画」などについて記述しているので、以下に、その要点を抽出して置きたい。
 また、「栄西と建仁寺」展での、この作品の展示に関するものが(東京国立博物館の「取材レポート」)公開されていたので、下記に掲げて置きたい。

吹笛図1.jpg

「栄西と建仁寺」展(東京国立博物館)の「取材レポート」

【「七 即筆」
(前略)
京都の国立博物館に勤めるようになって暫くしてから、建仁寺の宝物係のお坊さまがある絵を持って来た。それが芦雪の指頭画の傑作と今日では評価されている「牧童吹笛図」であった。
 初めてその絵を目にしたときの感慨は、でかい絵だなあということであった。しかし、よく見れば、何やら硬い筆致で、「平安芦雪指画」と書されていることに気づく。つまり、この絵はいわゆる筆ではなく指や爪に墨をとって描いた指頭画だったのである。
 今は有名になったこの作品を初めて目にしたとき、正直いって面食らったことは事実である。おそらく、画面の中で墨垂直に流れていることからも、この絵があらかじめ立てられた画面に画家が墨をつけたことが知られる。
 もっとはっきりいえば、この絵は用意されたたぶん衝立(その大きさから、まず間違いない)に、直接に指や爪、手の平を駆使して描きあげたものであったろう。
 款記に「平安」とあることも旅先でのことも推測される。
(略)
「席画」ということばがある。様々な宴席に呼ばれた画家がそこで注文を受けて即席に絵を描くことが「席画」である。
 墨はともかくとしても、限られた絵具を用いて下図を描くことなく作品を創る。
(略)
 そして、急に求められる「席画」で優れたバフォーマンスをしめすことのできる画家こそが、実のところ真の画力をもった者であることをいっておかなければならない。
(後略)
「八 自由の絵画
 十八世紀の京都の画家の作品を見ていて気づくことは、長沢芦雪は当然のこと、曽我蕭白や伊藤若冲あるいは与謝蕪村や池大雅に至るまで、心を豊かに拡げておとがいを解(ほどか)せる作品を数多く制作していることである。
(略)
 徳川家が選んだ朱子学でがんじ絡めに圧(お)さえつけられた江戸に対し、十八世紀半ば頃から京都芸苑には老荘思想が大いに喜ばれた。老荘思想をひとことで述べることは慎まなければならないが、少なくとも朱子学が強要する堅固な社会的秩序に対して、おおらかな世界観が呈出されているように感じられたことは確認しておいてよい。
 なぜなら、ものごとを自由に見ることの素晴らしさを、京都の十八世紀は、その生み出す作品がしめしつづけたからである。
 絵を、しゃっちょこばって鑑賞する必要などないのだとする見方である。
(略)
 「自由」という言葉を表現芸術に初めて用いたのは井原西鶴であった。かれは格調を喪うことを恐れた貞門俳諧に対し、談林俳諧師として、
われらの俳諧は、
  自由にもとづく俳諧、
であると規定した(『大矢数』)。
 十八世紀の京都の新しい文苑は、まさしくこの「自由」に魅せられた人びとによって支えられた。
(略)
 この本に収められた芦雪の作品は、画家の自由な表現意欲にまみれているだろう。それを許しているのは、この時代の京阪地方の文化的雰囲気にほかならない。その文化的雰囲気を知って初めて、芦雪という画家のレゾン・デートル(存在理由)にあらためて目を瞠(みは)ることになる。  】
『別冊太陽181 長沢芦雪(狩野博幸監修)』所収「芦雪画の魅力(七即筆)(八自由の絵画)狩野博幸稿」
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