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鶴下絵三十六歌仙和歌巻(光悦書・宗達画)」周辺(その二十九) [光悦・宗達・素庵]

(その二十九)「鶴下絵和歌巻」N図(2-7藤原朝忠)

鶴下絵和歌巻N図.jpg

小野小町 色見えで移ろふものは世の中の 人の心の花にぞありける(「撰」「俊」)
2-7中納言朝忠(藤原朝忠)
  万代(よろづよ)の初めと今日を祈り置きて 今行末は神ぞ知るらむ(「撰」「俊」)
(釈文)満代濃始と今日を以乃里を支天今行末盤神曾可曾へ無
藤原高光 かくばかり経がたく見ゆる世の中にうらやましくもすめる月かな(「撰」「俊」)

https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/asatada.html

   天暦御時、斎宮くだり侍りける時の長奉送使にてまかりかへらむとて
万代(よろづよ)のはじめと今日を祈りおきて今行末は神ぞ知るらむ(拾遺263)

【通釈】万代も続く御代の始まりとして、今日が佳き日であらんことを祈っておきましょう。そしてこれから後のことは、ただ神のみぞ知っておりましょうから、神意のままに委ねましょう。
【補記】拾遺集巻五、賀歌巻頭。村上天皇の天暦十一年(957)九月、楽子内親王(村上天皇第六皇女)の伊勢下向の時、長奉送使(斎宮群行の見送りをする勅使)として派遣され、帰京する時の歌。

藤原朝忠一.jpg

中納言朝忠/高倉大納言永慶:狩野安信/慶安元年(1648)  金刀比羅宮宝物館蔵
http://www.konpira.or.jp/museum/houmotsu/treasure_house_2015.html

   天暦御時歌合に
逢ふことのたえてしなくは中々に人をも身をも恨みざらまし(拾遺678)

【通釈】そもそも逢うということが全くないのならば、なまじっか、相手の無情も自分の
境遇も、恨んだりしなかっただろうに。
【語釈】◇逢ふこと 逢って情交を遂げること。◇たえて 下に打消の語を伴って「絶対(…ない)」「全然(…ない)」といった意味になる副詞としての用法。◇中々に むしろ。かえって。「中途半端になるよりは、いっそのこと…」といった気持をあらわす。◇人をも身をも 「人」は恋する相手。「身」は自分。◇うらみざらまし 恨みはしないだろう。「まし」は反実仮想の助動詞と呼ばれ、現実に反する仮定のもとで「こうなっただろう」と仮想する心をあらわす。
【補記】拾遺集の排列からすると恋の初期段階の歌で、上句は「そもそも逢うことが期待できないものであるなら」といった意味合いを帯びる。すなわち「未逢恋」の風情である。ところが『定家八代抄』では恋三の巻にあり、例えば藤原道雅の「今はただ思ひたえなんとばかりを…」などの後に置かれている。このことからすると、定家は「逢不逢恋」(一度逢ったのち何かの事情で逢えなくなった恋)の歌として読んでいたに違いない。宗祇抄をはじめ後世の主たる百人一首注釈書も同様の解釈を取る。

(参考メモ)「狩野安信」周辺

没年:貞享2.9.4(1685.10.1)
生年:慶長18.12.1(1614.1.10)
江戸前期の画家。通称右京進,号永真。狩野孝信の3男として京都に生まれ,宗家の貞信が早世したため,養子となり宗家を継ぐ。寛永年間(1624~44)江戸中橋に屋敷を拝領し,幕府御用絵師となり,中橋狩野家を開いた。江戸城や禁裏などの襖絵制作に参加。寛文2(1662)年法眼となる。兄探幽の画法を踏襲するが,技量は若干劣る。著書『画道要訣』(1680)では「学画」の奨励など狩野家の絵画制作に対する考えを示し,後代に影響を与えた。代表作は大徳寺玉林院の障壁画。「添状留帳」(東京芸大蔵)は鑑定控。<参考文献>田島志一編『東洋美術大観』5巻  (仲町啓子)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について

藤原朝忠二.jpg

『三十六歌仙』(藤原朝忠)本阿弥光悦書(国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288424

万代(よろづよ)のはじめと今日を祈りおきて今行末は神ぞ知るらむ(拾遺263)

(追記)「鹿下絵和歌巻断簡」の「MOA美術館蔵」の「線描画」周辺

鹿下絵和歌巻・光悦?.jpg

「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」(画)俵屋宗達(書)本阿弥光悦(MOA美術館蔵)
三三・五×四二七・五㎝

 この和歌巻断簡の絵図は、『新古今和歌集(巻四・秋歌上)』の下記(参考)の三六二番から三八九番までの二十八首のうちの、次の「曽祢好忠(三七一)・相模(三七二)」の二首が揮毫されているものである。


00371  曽祢好忠
秋風のよそにふきくるをとは山なにの草木かのとけかるへき
(釈文)安支可勢乃よ曽尓吹久類をとハ山何濃久左き可乃ど介可るべ幾
00372  相模
暁のつゆはなみたもとゝまらてうらむる風の声そのこれる
(釈文)暁濃露ハな見多もと々まら天うら無る可世濃聲曽乃こ連る

 この絵図について、「鹿は二、三頭を組み合わせて描く場合が多く、点在する鹿の群をいかに関係づけるかが画面展開上の課題となる。この場面では、視線の持つ力に注目し、後方を見遣る雌鹿によって、進行してきた画面の流れを受けている。この雌鹿は輪郭線で活かす彫塗りで描き、白描風に描く草を食む二頭を左右から包むように配する。いずれにも宗達特有の表現力豊かな線描が大きな効果をあげているが、ことに左右の二頭の優しい背中の線は、鹿のしなやかな姿態と動きをそのままに伝えている。宗達の金銀泥絵において、もっとも叙情性に富む作品である」(『水墨画の巨匠第六巻 宗達・光琳』所収「図版解説32(中部義隆稿)」)との評がある。
 その上で、この絵図について、「『相模』(第40図=左上の鹿の図)にみえる線描主体の一匹などを、光悦の加筆とみる興味深い説がある」(『日本の美術№460 光悦と本阿弥流の人々(河野元昭著)』所収「口絵第四・五図」解説)との指摘もある。

下記(参考)「鹿下絵新古今集和歌巻」の二十八首(その「三六二番から三八九番までの二十八首」)

362  西行法師
こゝろなき身にも哀はしられけりしきたつさはの秋のゆふくれ
363  藤原定家朝臣[詞書]西行法師すゝめて百首哥よませ侍りけるに
見わたせは花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋のゆふくれ
364  藤原雅経 [詞書]五十首哥たてまつりし時
たへてやはおもひありともいかゝせんむくらのやとの秋のゆふくれ
365  宮内卿 [詞書]秋のうたとてよみ侍ける
おもふことさしてそれとはなきものを秋のゆふへを心にそとふ
366  鴨長明
秋風のいたりいたらぬ袖はあらしたゝわれからのつゆのゆふくれ
367  西行法師
おほつかな秋はいかなるゆへのあれはすゝろにものゝかなしかるらん
368 式子内親王
それなからむかしにもあらぬ秋風にいとゝなかめをしつのをたまき
369  藤原長能 [詞書]題しらす
ひくらしのなくゆふくれそうかりけるいつもつきせぬ思なれとも
370  和泉式部
秋くれはときはの山の松風もうつるはかりに身にそしみける
371  曽祢好忠
秋風のよそにふきくるをとは山なにの草木かのとけかるへき
372  相模
暁のつゆはなみたもとゝまらてうらむる風の声そのこれる
373  藤原基俊 [詞書]法性寺入道前関白太政大臣家の哥合に野風
たかまとのゝちのしのはらすゑさはきそゝやこからしけふゝきぬなり
374  右衛門督通具 [詞書]千五百番哥合に
ふかくさのさとの月かけさひしさもすみこしまゝのゝへの秋風
375  皇太后宮大夫俊成女
[詞書]五十首哥たてまつりし時杜間月といふことを
おほあらきのもりの木のまをもりかねて人たのめなる秋のよの月
376  藤原家隆朝臣 [詞書]守覚法親王五十首哥よませ侍けるに
ありあけの月まつやとは(は=の)袖のうへに人たのめなるよゐのいなつま
377  藤原有家朝臣 [詞書]摂政太政大臣家百首哥合に
風わたるあさちかすゑのつゆにたにやとりもはてぬよゐのいなつま
378  左衛門督通光 詞書]みなせにて十首哥たてまつりし時
むさし野やゆけとも秋のはてそなきいかなる風かすゑにふくらん
379  前大僧正慈円 [詞書]百首哥たてまつりし時月哥
いつまてかなみたくもらて月は見し秋まちえても秋そこひしき
380  式子内親王
なかめわひぬ秋よりほかのやともかな野にも山にも月やすむらん
381  円融院御哥 [詞書]題しらす
月かけのはつ秋風とふけゆけは心つくしにものをこそおもへ
382  三条院御哥
あしひきの山のあなたにすむ人はまたてや秋の月をみるらん
383  堀河院御哥 [詞書]雲間微月といふ事を
しきしまやたかまと山のくもまより光さしそふゆみはりの月
384  堀河右大臣 [詞書]題しらす
人よりも心のかきりなかめつる月はたれともわかしものゆへ
385  橘為仲朝臣
あやなくもくもらぬよゐをいとふかなしのふのさとの秋のよの月
386  法性寺入道前関白太政大臣
風ふけはたまちるはきのしたつゆにはかなくやとる野辺の月かな
387  従三位頼政
こよひたれすゝふく風を身にしめてよしのゝたけの月をみるらん
388  大宰大弐重家 [詞書]法性寺入道前関白太政大臣家に月哥あまたよみ侍けるに
月みれはおもひそあへぬ山たかみいつれのとしの雪にかあるらん
389  藤原家隆朝臣 [詞書]和哥所哥合に湖辺月といふことを
にほのうみや月の光のうつろへはなみの花にも秋はみえけり
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