SSブログ

鶴下絵三十六歌仙和歌巻(光悦書・宗達画)」周辺(その三十六) [光悦・宗達・素庵]

(その三十六)「鶴下絵和歌巻」P図(2-14 清原元輔)

鶴下絵和歌巻p図.jpg

2-14 清原元輔 契りなき互(かたみ)に袖を絞りつつ 末の松山波越さじとは(「俊」)
(釈文)ち支里幾那可多見尓袖をし保利徒々須衛乃松山波こ左じとハ
藤原元真 あらたまの年を送りて降る雪に 春とも見えぬ今日の空かな(「俊」)
藤原仲文 有明の月の光を待つほどに 我が世のいたく更けにけるかも(「撰」「俊」)
https://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/meihin/kinsei/item02.html

https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/motosuke.html

   心かはりて侍りける女に、人にかはりて
ちぎりきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波こさじとは(後拾遺770)

【通釈】約束しましたね。互いに涙で濡れた袖をしぼりながら、末の松山を決して波が越さないように、行末までも心変わりすることは絶対あるまいと。
【語釈】◇ちぎりきな 「ちぎり」は夫婦の約束を交わすこと。「き」はいわゆる過去回想の助動詞「し」の連体形、「な」は相手に確認を求める心をあらわす助詞。◇かたみに 互いに。◇末の松山 古今集巻二十に「みちのくうた」として「君をおきてあだし心を我がもたば末の松山波も越えなん」があることから陸奥国の名所歌枕とされている。比定地としては多賀城付近とする説などがある。◇浪こさじとは 末の松山を波の越すことがないように、心の変わることはあるまいと。初句「契りきな」に返して言う。

清原元輔一.jpg

清原元輔/実相院門跡大僧正義尊:狩野安信/慶安元年(1648)  金刀比羅宮宝物館蔵
http://www.konpira.or.jp/museum/houmotsu/treasure_house_2015.html

https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/motosuke.html

   しのびて懸想し侍りける女のもとにつかはしける
音なしの河とぞつひにながれける言はで物おもふ人の涙は(拾遺750)

【通釈】音無の川となって、とうとう流れてしまった。口に出して言わずに恋の悩みをかかえている人の涙は。
【語釈】◇音なしの河 紀伊国の歌枕。恋心を声に出して言わなかったことを暗に含める。◇ながれける 「泣かれける」が掛かる。◇人 詠み手自身を暗に指す。

清原元輔二.jpg

『三十六歌仙』(清原元輔)本阿弥光悦書(国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288424

ちぎりきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波こさじとは(後拾遺770)

(追記)「鹿下絵和歌巻断簡」の「シアトル美術館蔵」周辺(その十)

鹿下絵・シアトル十.jpg

「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」(シアトル美術館蔵その十)
http://art.seattleartmuseum.org/objects/14261/poem-scroll-with-deer?ctx=947bccb0-1f22-40c6-acef-ab7c81a74c67&idx=1

 上記の絵図の和歌(「その十」の「前半一行目から八行目まで」は次の一首である。

385  橘為仲朝臣
あやなくもくもらぬよゐをいとふかなしのふのさとの秋のよの月
(釈文)安や那久天具もらぬよひをいとふ哉し乃ぶ濃里能秋乃夜濃月
https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tamenaka.html

   題しらず
あやなくもくもらぬ宵をいとふかな信夫(しのぶ)の里の秋の夜の月(新古385)

【通釈】我ながらおかしなことだ。雲ひとつない宵を厭うなんて。秋の夜、信夫の里の月を眺めながら…。
【語釈】◇あやなくも 「あやなし」は道理に外れた・不合理な。◇信夫の里 旧陸奥国信夫郡。いまの福島市あたり。信夫山がある。「しのぶ(忍ぶ・偲ぶ)」を掛けることが多い。歌枕紀行陸奥国参照。
【補記】普通なら「曇る宵」を厭うのだが、この作者は「曇らぬ宵」を厭うという。雲のかかった月の風情がまさるとしたか。憂鬱な心に月の光が明るすぎたのか。あるいは、晴れがましさに対する羞恥の感情であろうか。
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:アート

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。