SSブログ

芦雪あれこれ(山姥図) [芦雪]

その一 山姥図

山姥1.jpg
芦雪筆「山姥図」絹本着色 一五七・〇×八四cm 広島・厳島神社

 寛政九年(一七九七)、芦雪・四十三歳の頃の作品である。広島城下随一の呉服商といわれた富士屋の七代目・藤井嘉兵衛正道が筆頭願主となって、厳島神社に奉納した絵馬である。破れた笠を負い、長く白髪を垂らした老嫗の容貌は凄まじい。身に纏っている小袖は端裂を継いだもので、身すぼらしさを装っているが、一つ一つの裂は華やかである。おそらく、筆頭願主の富士屋の家業を意識してのものなのであろう。
 それにしても、厳島神社に奉納する絵馬に、よりよって、こんなグロテスクなものを、どうして、芦雪が描いたのかは、どうにも謎めいている。当時、上方歌舞伎で、「媼山姥(コモチヤマウバ)」(近松門左衛門作)が人気を博していたので、それらが、この作品の背景にあるのかも知れない。
 即ち、この「山姥」の主題は、山姥と化した遊女(八重桐)が怪童丸(坂田金時・金太郎)を育てる「母子像」ということなのかも知れない。
 この「山姥・金太郎」を主題とした浮世絵師は、美人画で名高い、喜多川歌麿その人である。歌麿は、いろいろな視点から、この「山姥・金太郎」を制作しているが、その山姥は、どれもが、歌麿好みの美人画となってしまう。
 芦雪も、「楊貴妃図」など美人画の名手であるが、その名手が一変して、これほど凄い「山姥→鬼女→媼(老女)」を現出させるのを目の当たりにすると、どうにも、歌麿の「山姥・金太郎」の、「山姥」は、どういう仕草(「アカンベー」など)をしても、「姥」ではない。

歌麿・あかんべー.jpg
「山姥・金太郎・あかんべえ」(歌麿筆)大判・錦絵


コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。