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江戸絵画(「金」と「銀」と「墨」)の空間(その十) [金と銀と墨の空間]

(その十)渡辺始興筆「燕子花図屏風」

始興・燕子花.jpg

渡辺始興筆「燕子花図屏風」 六曲一双 紙本金地著色 各一七〇×三七九・七㎝
クリーブランド美術館蔵
【 始興ははじめ狩野派に学び、のち光琳の画風を慕った。本図は光琳学習の直接的な成果であり、光琳の代表作「燕子花図屏風」(根津美術館蔵)を意識しつつ、これに始興の個性を充分に発揮した傑作である。水中に深く没し、ゆるやかなリズムに配置された花叢(はなむら)の構成には、おだやかな始興画の特質がよくあらわれている。 】
(『創立百年記念特別展 琳派(東京国立博物館)』所収「作品解説186」)

 渡辺始興が、近衛家煕(いえひろ)に仕えたのは、宝永五年(一七〇八)、二十六歳の頃で、この年、光琳(五十一歳)は江戸にあって、酒井雅樂頭に仕えていた頃である。この翌年の宝永六年(一七〇九)の頃、渡辺素信(始興と思われる。二十七歳)が、乾山(光琳より五歳年下、始興より二十歳年上)の絵付けを手伝っていたことが乾山焼物から明らかになっている(『創立百年記念特別展 琳派(東京国立博物館)』所収「琳派展関係略年表」)。
 始興は絵師としてのスタートは、狩野派で、そして、公家の最大の大立者(摂政・関白・太政大臣を歴任)、近衛家煕に仕え、光琳・乾山・始興の次の世代の、近世写生画の創始者・円山応挙(一七三三~一七九五)が、模写したとされている「鳥類真写図巻」などを今に遺している。

始興・鳥類真写.jpg

渡辺始興筆「鳥類真写図巻」(部分図) 一巻 紙本著色 二六・八×一七五八・〇㎝
新町三井家旧蔵
【 江戸中期の著名な宮廷文化人・近衛家煕(予楽院、一六六七~一七三六)に家士として仕えた始興は、文芸の道に多彩な才能を示した家煕に教示されるところが多かった。『槐記(かいき)』(家煕の身辺を侍医・山科道庵が日記風に筆録したもの)にもみえるように、家煕は絵画表現の基本に即物写生を重視している。始興は、この図巻のような遺作のほかに、数多くの写生画を制作していたものと思われる。なお、近世写生画の巨匠・円山応挙(一七三三~一七九五)が本図巻を模写しており、現在、当館が所蔵する写生帖がそれである。 】
(『創立百年記念特別展 琳派(東京国立博物館)』所収「作品解説189」)

 尾形光琳が没した(五十九歳)、享保元年(一七一六)に与謝蕪村が生まれ、円山応挙が生まれたのは、享保十八年(一七三三)、「光琳・乾山・始興・芦舟」時代と「若冲・蕪村・応挙・呉春」時代とは、やや活躍した時代を異にしているが、同じ京都という土壌において、十八世紀の輝かしい日本絵画の豊かな世界を、これらの絵師たちが現出していたのであった。
 ともすると、前々回に取り上げた深江芦舟や、今回の渡辺始興などは、「光琳・若冲・蕪村・応挙」などの大きな影に埋没して目立たない存在であるが、「光琳・乾山」の時代と「若冲・蕪村・応挙」の時代とを結びつける、その鎹(かすがい)のような存在の絵師であった。

(別記一)茶会への招待―三井家の茶道具

 下記のアドレスで、渡辺始興の「鳥類真写図巻」(十七メートルに六十三種類の鳥類が描かれている)の動画が見られる。

https://www.museum.or.jp/modules/topics/?action=view&id=120

(別記二)渡辺始興筆「草花図屏風」二曲一隻(フリーア美術館蔵)

始興・草花図.jpg

Flowers → 草花図屏風
Type Screen (two-panel) → 二曲一隻
Maker(s) Artist: Watanabe Shiko (1683-1755) → 渡辺始興
Historical period(s) → Edo period, 18th century
School → Rinpa School
Medium Color and gold on paper → 紙本金地著色
Dimension(s) H x W (overall): 192.1 x 206.8 cm (75 5/8 x 81 7/16 in)

(参考) 渡辺始興(わたなべ しこう)
没年:宝暦5.7.29(1755.9.5)
生年:天和3(1683)
江戸中期の京都の画家。名は始興。号は景靄(けいあい)、環翠、環翠軒。禁裏や近衛家に出仕。狩野派や古典的なやまと絵の画技のほか,尾形光琳風の装飾画法にも習熟した。また近衛家煕(いえひろ)らに感化されて実物写生を試みたり、次世代の円山応挙画の出現を予告するような写生派風の作品を生み出すなど、過渡期の京都画壇を象徴する幅広い活動をした。代表作は「燕子花図屏風」(クリーブランド美術館蔵)や「梅に小禽図屏風」(ロサンゼルス,カウンティ美術館蔵)など。<参考文献>山根有三ほか編『琳派絵画全集 光琳派2』
(仲町啓子) 出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について


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