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鶴下絵三十六歌仙和歌巻(光悦書・宗達画)」周辺(その三十四) [光悦・宗達・素庵]

(その三十四)「鶴下絵和歌巻」O図(2-12 源重之)

鶴下絵和歌巻・O図.jpg

☆ 上部の欄外に加筆してある歌人・和歌
2-12 源重之 筑波山端山繁(しげ)山繁けれども 思ひ入るに障らざりけり(「俊」)
(釈文)徒くハ山葉山し介山志介々禮登おも日入尓ハさハらざ里介利
源信明 あたら夜の月と花とを同じくは あはれ知れらむ人に見せばや(「撰」「俊」)

https://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/meihin/kinsei/item02.html

http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/sigeyuki.html

   題しらず
つくば山は山しげ山しげけれど思ひ入るにはさはらざりけり(新古1013)

【通釈】筑波山が端山・茂山と繁っていても、人は山の中へ踏み入ってゆく。――そのように、人目がうるさいけれども、だからと言って恋へ踏み入ることに障害となりはしないのだ。
【語釈】◇つくば山 筑波山。常陸国の歌枕。嬥歌(かがひ)で名高いゆえに恋に懸けて詠まれることが多かった。歌枕紀行参照。◇は山しげ山 端山・重山、すなわち里山とその背後に連なる山々。また「葉山・茂山」でもあり、葉の茂る山々。ここまでが「しげけれど」を導く序。◇しげけれど 木の葉が茂っている意から人目が多い意に掛ける。◇思ひ入る 心を深くかける。「入る」は「山」の縁語。

源重之一.jpg

源重之/円満院門跡大僧正常尊:狩野安信/慶安元年(1648)  金刀比羅宮宝物館蔵
http://www.konpira.or.jp/museum/houmotsu/treasure_house_2015.html

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   冷泉院春宮と申しける時、百首歌たてまつりけるによめる
風をいたみ岩うつ波のおのれのみくだけて物を思ふ頃かな(詞花211)

【通釈】風がひどいので岩に打ち当たる波のように、自分ばかりが千々に心を砕いて思い悩むこの頃であるよ。
【語釈】◇風をいたみ 風が甚だしいので。◇岩うつ波の この句までが「おのれのみくだけて」を言い起こす序。心を動かさない恋人を「岩」に、それでも恋人に思いを寄せる我が身を「波」になぞらえる。◇くだけて物を思ふ 心を千々にして思い悩む。
【補記】『重之集』所載の百首歌の「恋十」に見られる歌。なお『伊勢集』に極めてよく似た歌が収められているが、伝写の過程で重之の歌が紛れ込んだものらしい。

源重之二.jpg

『三十六歌仙』(源重之)本阿弥光悦書(国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288424

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   題しらず
夏刈の玉江の蘆をふみしだき群れゐる鳥のたつ空ぞなき(後拾遺219)

【通釈】夏刈の行なわれた玉江の蘆原では、鳥たちが切株を踏み折って群らがっている――空へ飛び立つこともせず、あてどなく迷うばかりだ。
【語釈】◇夏刈 夏に伸びた草などを刈ること。◇玉江 越前・摂津に同名の歌枕がある。蘆の名所とされた。普通名詞としては「美しい入江」の意になる。◇蘆 イネ科の多年草。秋に穂を出す。因みに、穂の出ないうちは蘆(芦)、穂の出たものは葦と書く(『字通』)。◇たつ空ぞなき 空へ飛び立つどころではない。「空」には「気分」の意がある。

(追記)「鹿下絵和歌巻断簡」の「シアトル美術館蔵」周辺(その七)

鹿下絵シアトル七.jpg

「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」(シアトル美術館蔵その七)
http://art.seattleartmuseum.org/objects/14261/poem-scroll-with-deer?ctx=947bccb0-1f22-40c6-acef-ab7c81a74c67&idx=1

 上記の絵図の「三条院御哥」の和歌(後半のもの)は次のとおりである

382  三条院御哥
あしひきの山のあなたにすむ人はまたてや秋の月をみるらん
(釈文)安し日支能山濃安那多尓須無人盤ま多天や秋乃月を見るら無

https://open.mixi.jp/user/17423779/diary/1966152416

「月の出る山の向こう側に住んでいる人は、待つことなく秋の月を見ることであろうか。」『新日本古典文学大系 11』p.122
三条院(さんじょういん 976-1017)第67代天皇。冷泉天皇第二皇子。母は摂政太政大臣藤原兼家長女・贈皇太后超子。花山天皇異母弟。 後拾遺集初出。新古今二首。勅撰入集八首。 小倉百人一首 68 「心にもあらでうき世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな」
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