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鶴下絵三十六歌仙和歌巻(光悦書・宗達画)」周辺(その三十八) [光悦・宗達・素庵]

(その三十八)「鶴下絵和歌巻」Q・R図(2-17壬生忠見)

(Q図)
鶴下絵和歌巻q図.jpg
(藤原仲文 有明の月の光を待つほどに 我が世のいたく更けにけるかも)
2-17 壬生忠見 焼かずとも草はもえなむ春日野を ただ春の日に任せたらなむ(「撰」「俊」
(釈文)焼須共草盤もえ那無春日野を但ハる濃日尓ま可勢たら南
(R図:前図に続く)
鶴下絵和歌巻R 図.jpg
(「2-17 壬生忠見」・「中務」)
https://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/meihin/kinsei/item02.html

https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tadami.html

   題しらず
焼かずとも草はもえなむ春日野をただ春の日にまかせたらなむ(新古78)

【通釈】野焼きをせずとも草はもえるだろう。春日野をただ春の日の光に任せてほしい。
【補記】「もえ」が「燃え」と「萌え」、「ひ」が「日」と「火」の両義を持つことを活かして、若草萌える春の野を焼かないでほしいとの心を詠んだ。同じ歌が源重之の家集にも見える。なお春日野(かすがの)は大和国の歌枕。春日山・若草山の麓の台地。

壬生忠見一.jpg

壬生忠見/小川坊城中納言俊完:狩野安信/慶安元年(1648)  金刀比羅宮宝物館蔵
http://www.konpira.or.jp/museum/houmotsu/treasure_house_2015.html

https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tadami.html

   天暦御時歌合
恋すてふわが名はまだき立ちにけり人しれずこそ思ひそめしか(拾遺621)

【通釈】恋をしているという私の評判は、早くも立ってしまった。人知れず、ひそかに思い始めたのに。
【語釈】◇恋すてふ 「てふ」は「といふ」の縮約。◇わが名 私についての評判・噂。◇まだき 早くも。時期が早すぎるのに。◇立ちにけり 表立ってしまった。◇人しれずこそ… このコソ+已然形は逆接。下句が上句にかかる倒置形。◇思ひそめしか 「しか」は過去回想の助動詞「き」の已然形。

壬生忠見二.jpg

『三十六歌仙』(壬生忠見)本阿弥光悦書(国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288424

https://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/tadami.html

   天暦御時御屏風に、よどのわたりする人かける所に
いづ方になきてゆくらむ郭公淀のわたりのまだ夜ぶかきに(拾遺113)
【通釈】どちらの方へ啼いて行くというのだろうか、時鳥は。淀の渡りのあたりはまだ深夜で真っ暗なのに。
【語釈】◇淀のわたり 歌枕。山城国の淀川の渡船場。「わたり」には「辺り」の意も掛けるか。

(追記)「鹿下絵和歌巻断簡」の「シアトル美術館蔵」周辺(その十三・その十四)

鹿下絵和歌巻・シアトル十三.jpg
「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」(シアトル美術館蔵その十三)
鹿下絵和歌巻・シアトル十四.jpg
「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」(シアトル美術館蔵その十四)
http://art.seattleartmuseum.org/objects/14261/poem-scroll-with-deer?ctx=947bccb0-1f22-40c6-acef-ab7c81a74c67&idx=1

 上記の絵図の和歌(「その十三」から「その十四」の「三行目まで」は次の一首である。

388  大宰大弐重家 [詞書]法性寺入道前関白太政大臣家に月哥あまたよみ侍けるに
月みれはおもひそあへぬ山たかみいつれのとしの雪にかあるらん
(釈文)性寺入道前関白太政大臣家尓月哥安ま多よ見侍介る尓 大宰大弐重家
 月見禮半おも日曽安へぬ山高三い徒禮能年濃雪尓可有乱

http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/sigeie.html

  法性寺入道前関白太政大臣家に、月の歌あまたよみ侍りけるに
月見れば思ひぞあへぬ山たかみいづれの年の雪にかあるらむ(藤原重家「新古」388)

【通釈】山に射す月の光を見れば、どうしてもそれとは思えない。高い山にあって、万年雪が積もっているので、いつの年に降った雪かと思うのだ。
【語釈】◇思ひぞあへぬ 月光だと思おうとしても、思うことができない。◇いづれの年の雪 和漢朗詠集の「天山不弁何年雪 合浦応迷旧日珠」(天山は弁へず何れの年の雪ぞ。合浦には迷ひぬべし旧日の珠)を踏まえる。白じらと冴える月光を雪に見立てている。
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