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四季花卉下絵古今集和歌巻(その一) [光悦・宗達・素庵]

その一  竹

四季花卉下絵古今集和歌巻70.jpg

「尾形光琳生誕三五〇周年記念 大琳派展―継承と変奏(東京国立博物館・読売新聞社編)」
所収「1-01 俵屋宗達下絵・本阿弥光悦筆 四季草花下絵古今和歌巻・重要文化財・畠山記念館蔵」(「四季花卉下絵古今集和歌巻」=『光悦……琳派の創始者(河野元昭編)』所収「書画の二重奏への道……光悦書・宗達画和歌巻の展開(玉蟲敏子稿)」) 三三・七×九一八・七

      題しらず  
863  わが上に露ぞ置くなる天の川とわたる舟のかいのしずくか(読人知らず)
(私の体が濡れているのは露が降りているのだそうだ。それならその露は天の川の渡し場を彦星が渡る舟の櫂から落ちた雫なのであろうか。)
864 思ふどちまどゐせる夜は唐錦たたまく惜しきものにぞありける(読人知らず)
(仲のいい者たちが車座に座って楽しいひとときを送っている夜は、立ち上がるのが本当に惜しいものだ。)

釈文(揮毫上の書体)=(『書道芸術第十八巻 本阿弥光悦』)
863 我(わが)上尓(に)露曾(ぞ)を久(く)那類(なる)天河(あまのがわ)とわ多(た)る舟濃(の)可(か)い乃(の)し徒(づ)久(く)可(か)

※我(わが)上尓(に)=我が上に。私の体の上に。
※露曾(ぞ)を久(く)那類(なる)=露ぞ置くなる。露がおいているのだそうだ。
※天河(あまのがわ)とわ多(た)る=天の川とわたる。天の川の川門を渡る。
※舟濃(の) 可(か)い乃(の)し徒(づ)久(く)=舟(七夕の夜に彦星が乗る舟)の櫂の雫。

864 おもふど知(ち)園居(まどゐ)世流(せる)夜(よ)ハ(は)唐錦多々(たた)ま久(く)於(お)し支(き)物尓(に)曾(ぞ)有(あり)介流(ける)

※おもふど知(ち)=思い合っている者たち。
※園居(まどゐ)世流(せる)=丸く座っている。集会している。
※唐錦(からにしき)=布に関する意から「た(裁)つ」「お(織)る」などにかかる枕詞。
※多々(たた)ま久(く)於(お)し支(き)=立ち上がることが惜しい。

(周辺ノート)

『光悦……琳派の創始者(河野元昭編)』所収「書画の二重奏への道……光悦書・宗達画和歌巻の展開(玉蟲敏子稿)」では、「光悦書・宗達画和歌巻」の代表的なものとして、次の五巻を挙げている。

① 「四季花卉下絵古今集和歌巻」一巻、畠山記念館蔵、重要文化財
② 「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」一巻、京都国立博物館蔵、重要文化財
③ 「鹿下絵新古今集和歌巻」一巻、MOA美術館、シアトル美術館ほか諸家分蔵
④ 「蓮下絵百人一首和歌巻」一巻、焼失を免れた断簡が東京国立博物館ほか諸家分蔵
➄ 「四季草花下絵千載集和歌巻」一巻、個人蔵

 これらの五巻のうち、下記の三巻については、これまでに取り上げてきた。

② 「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」一巻、京都国立博物館蔵、重要文化財
(『書道芸術第十八巻 本阿弥光悦』78-87=「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」)
その一
https://yahan.blog.ss-blog.jp/2020-02-19
その三十九
https://yahan.blog.ss-blog.jp/2020-04-28
③ 「鹿下絵新古今集和歌巻」一巻、MOA美術館、シアトル美術館ほか諸家分蔵
(『書道芸術第十八巻 本阿弥光悦』88-103=「鹿下絵新古今和歌巻」)
その一
https://yahan.blog.ss-blog.jp/2020-05-05
その二十九
https://yahan.blog.ss-blog.jp/2020-07-10

➄ 「四季草花下絵千載集和歌巻」一巻、個人蔵
(『書道芸術第十八巻 本阿弥光悦』30-42=「四季花卉下絵千載和歌巻」)
その一
https://yahan.blog.ss-blog.jp/2020-10-06
その二十五
https://yahan.blog.ss-blog.jp/2020-11-17

 今回取り上げるのは、【①「四季花卉下絵古今集和歌巻」一巻、畠山記念館蔵、重要文化財】(『書道芸術第十八巻 本阿弥光悦』70-77「四季草花下絵古今集和歌巻」)である。

【 この和歌巻は、書のほうからもっとものびのびと筆が運ばれていると評価され、確かに絵との関わりを見ると、書き手は下絵としての理解に徹し、『古今和歌集』巻十七歌上の巻頭から詞書・詠者名を省いて歌のみ十九首をほぼ七行程度の散らし書きで自在に連ねて行く。一首の単位はイメージのまとまりに対応しており、その特色は躑躅と糸薄を描いた箇所によく現れている。このようにほぼ一種類のイメージに和歌一首を割り当てる方法は色紙などの揮毫と同じであり、光悦は小品画で培った方法にならっているということができる。
 「四季花卉下絵」と通称されるが、実際は樹木を含む竹・梅・躑躅・下草(糸薄)・蔦の五種の植物で構成され、このうち、竹と梅は中国の文人画の典型的な主題である四君子(しくんし)のうちに属している。下草を除く四種の素材が、共通してベルリン国立アジア美術館蔵「四季草花図和歌色紙帖」の上帖十八図に見出され、「新古今集」から選んだ和歌の部立によれば、春から夏のモティーフとして扱われている。この色紙帖の構成に基づいて①を見ると、竹梅は早春、躑躅は仲春に相応し、その次の蔦は、青葉茂れる夏から、実のなる秋にかけての題材として扱われているのがわかる。絵は冒頭に文人的な四君子に属する竹・梅を選び、年初の歳寒のイメージを託す。弐種の素材であるので歳寒二友というべきであろう。
 】『光悦……琳派の創始者(河野元昭編)』所収「書画の二重奏への道……光悦書・宗達画和歌巻の展開(玉蟲敏子稿)」


(参考) 「四季花卉下絵古今集和歌巻」(竹・梅その一・梅その二)

四季花卉下絵古今集和歌巻一.jpg

「尾形光琳生誕三五〇周年記念 大琳派展―継承と変奏(東京国立博物館・読売新聞社編)」
所収「1-01 俵屋宗達下絵・本阿弥光悦筆 四季草花下絵古今和歌巻・重要文化財・畠山記念館蔵」彩箋墨書、三三・七×九一八・七

【 胡粉下地に金銀泥で、竹(冬)、梅(春)、躑躅(夏)、蔦(秋)を描いて下絵とし、その上に『古今和歌集』の十九首を散らし書きにした和歌巻である。右から左へ移動する巻物のもつ横長の連続的な画面の流れにのせて悠々と描かれたモティーフが、画面の中でドラマティックに展開する。竹の表面や梅・躑躅の幹など、滲みの効果をいかす「たらし込み」によって、量感や質感を見事に表現し、金銀の濃淡は、画面に情趣的な空間をつくりだしている。これに寛永の三筆の一人とされる光悦の豊麗秀潤な書が見事に調和し、絢爛豪華な美しさを生み出している。
 巻末に「光悦」の黒文方印があり、光悦の書であることを示している。また「伊年」の朱文円印は「四季草花千載集和歌巻」、「蓮池水禽図」に捺されるものと同印で、宗達が法橋叙任以前、自作に用いた印であったと考えられている。同印を捺す作品には、やや作風を異なにするものもあり、これを工房印の一種とみる説もあるが、本作品については作風の優秀性からも宗達筆とするのに異論はなく、光悦の書体から、慶長末期頃の作と考えられている。(高橋祐次)  】「尾形光琳生誕三五〇周年記念 大琳派展―継承と変奏(東京国立博物館・読売新聞社編)」
所収「1-01 俵屋宗達下絵・本阿弥光悦筆 四季草花下絵古今和歌巻・重要文化財・畠山記念館蔵」

(再掲)

https://yahan.blog.ss-blog.jp/2018-07-13

花卉摺絵新古今.jpg

本阿弥光悦書「花卉摺絵新古今集和歌巻」(「竹図」・部分図)
時代 桃山~江戸時代(17世紀) 素材・技法 紙本木版金銀泥摺・墨書 一巻
サイズ   34.1×全長 907.0㎝  (MOA美術館蔵)

http://www.moaart.or.jp/?collections=048

【金銀泥(きんぎんでい)を用いて梅・藤・竹・勺薬(しゃくやく)・蔦の下絵を反復して摺り上げた版画下絵の料紙に、『新古今和歌集』の恋歌二十一首を選んで散らし書きした一巻である。全長九メートルにおよぶもので、巻末に篆書(てんしょ)体で「光悦」の黒印が捺されている。きわめて良質の料紙で、紙背には、伝統的な図様の松葉文様が見られ、紙継ぎ部分には、「紙師宗二」の縫合印が捺されている。大胆な構成による下絵に光悦の巧みな運筆が見事にマッチし、その書画一体の構成は独自の趣きのあるものとなっている。雲母(きら)などで文様を摺った料紙は、中国からの舶来品として平安時代すでに愛好されていたが、その美意識を当世風に再興させた光悦の斬新で洗練された感覚が、下絵の金銀泥絵に見られる。書風は、筆線の濃淡や太細の変化が著しく、装飾的である。】

花卉に蝶摺絵.jpg

下絵・俵屋宗達、書・本阿弥光悦 「花卉に蝶摺絵新古今集和歌巻」(一部)
桃山時代末期~江戸時代初期・17世紀初頭 岡田美術館蔵 「一巻 紙本金銀泥摺絵墨書 三三・三×九㈣一・七㎝」

http://www.okada-museum.com/collection/japanese_painting/japanese_painting04.html

http://salonofvertigo.blogspot.com/2015/02/rimpa.html

【光悦と宗達の作品もいくつか展示されていて、中でも白眉は完本の「花卉に蝶摺絵新古今集和歌巻」。今に残る光悦の書の巻物はほとんどが断簡で、巻物として完全な形で残っているのは4本しかないそうです。宗達がデザインした色変わりの綺麗な料紙の上に流麗で美しい光悦の書。うっとりするほどの逸品です。】

 この「花卉に蝶摺絵新古今集和歌巻」(岡田美術館蔵)も摺絵(金銀泥摺)なのである。しかし、冒頭の「花卉摺絵新古今集和歌巻」(MOA美術館蔵)に比して、こちらは、「下絵・俵屋宗達、書・本阿弥光悦」と、俵屋宗達の名が表示されている。表示の仕方としては、「書家」と「絵師」との「コラボレーション」(「響き合い」)という視点から、こちらの方をとりたい。
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