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酒井抱一の「綺麗さび」の世界(十一) [抱一の「綺麗さび」]

その十一 「扇面雑画(五十三)・ごまめと水引図」(抱一筆)

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酒井抱一筆「扇面雑画(五十三)・ごまめと水引図」(「扇面雑画(六十面)の一面」)
紙本着色・墨画 三六・五×六三・八㎝(各面) 東京国立博物館蔵

https://image.tnm.jp/image/1024/C0004068.jpg

 これは「赤と白」の「水引」で、祝い事全般に用いられるもの。そして「ごまめ(田作り)」は、「片口いわしの甘露煮」(お節料理の一つ)で、「子孫繁栄・健康・豊作」の縁起ものとされている。ここに、鏡餅を添えると正月の飾り物となる。
 ずばり、抱一の一番弟子の鈴木其一筆「鏡餅と鼠」の豪勢な扇面画がある。其一もまた抱一に劣らず扇面画の名手であった。この「鼠」は、「子」の年の意味が込められていて、落款の「菁々」と合わせ、嘉永五年(一八五二)の制作のものではないかとする見方もあるが、その年、其一、五十七歳の時である。
 この時には、雨華庵一世・抱一も同二世・鶯蒲も亡くなっていて、雨華庵は三世・鶯一が継承している。

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鈴木其一筆「鏡餅と鼠図」一面 一八・二×四九・八㎝ 鴻池合資会社資料室蔵
【 鏡餅によじ登る鼠。鏡餅は正月にふさわしいモチーフだが、鼠が描かれることから、菁々落款が用いられた時期の子年、嘉永五年(一八五二)が制作年の可能性も考えられる。 】
(『鴻池コレクション扇絵名品展(図録)』所収「作品解説(赤木美智稿)」)

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池田孤邨筆「熨斗と水引図」一面 一九・三×五〇・八㎝ 鴻池合資会社資料室蔵
【 熨斗は、もともとアワビの肉を薄くはいで引き伸ばし乾燥した「のしあわび」のことで、紙にはさみ祝儀の進物に添えられた。延寿を象徴する吉祥文様として好まれる。扇の孤に添うように描かれる赤白の水引は、祝い事に用いられるもの。二つの祝賀のモチーフを淡彩で描き、落ち着いた画面としている。署名「孤邨写」、印章「蓮□」(朱文方印)・「参信」(朱文長方印)  】
(『鴻池コレクション扇絵名品展(図録)』所収「作品解説(赤木美智稿)」)

 池田孤邨もまた其一に次ぐ抱一門の俊秀ということになる。琳派の継承者を自任する孤邨は、晩年に、抱一、光琳の縮図を集めた『抱一上人真蹟鏡』(上下、慶応元年/一八六五刊)、『光琳新撰百図』(上下、慶応二年/一八六六刊)を刊行する。この「熨斗と水引図」は、抱一の「ごまめと水引図」を念頭に置いていることは一目瞭然である。
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