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抱一筆『集外三十六歌仙図画帖』周辺(その四) [三十六歌仙]

その四 宗長と肖柏

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抱一筆『集外三十六歌仙図画帖』所収「四 柴屋宗長」(姫路市立美術館蔵)
https://jmapps.ne.jp/hmgsbj/det.html?data_id=1508

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抱一筆『集外三十六歌仙図画帖』所収「二二 肖柏」(姫路市立美術館蔵)
https://jmapps.ne.jp/hmgsbj/det.html?data_id=1491

(歌合)

歌人(左方四) 柴屋宗長
歌題 春祝言
和歌 青柳のなびくを人のこゝろにて みちある御代のはるぞのどけき
歌人概要  室町中期~戦国期の連歌師

歌人(右方二二) 肖柏
歌題 月前述懐
和歌 おもふらし桜かざししみや人の かつらををらぬ月のうらみは
歌人概要  室町中期~戦国期の歌人・連歌師(公家出身)

(歌人周辺)

宗長(そうちょう) 生年:文安5(1448) 没年:天文1.3.6(1532.4.11)

室町時代の連歌師。初名,宗歓,号,柴屋軒。駿河国(静岡県)島田の鍛冶,五条義助の子。若くから守護今川義忠に仕えたが,文明8(1476)年義忠戦没後離郷。京都に出て一休宗純に参禅,また飯尾宗祇に連歌を学んだ。宗祇の越後や筑紫への旅行に随伴し,『水無瀬三吟』『湯山三吟』をはじめ多くの連歌に加わった。明応5(1496)年49歳のころ駿河に帰り,今川氏親の庇護を受けるようになり,以後今川氏のために連歌や古典を指導,ときには講和の使者に立つなど政治的な面にも関与した。駿河帰住後も京駿間を中心に頻繁に旅を重ねたが,その見聞を記した『宗長手記』は,戦乱の世相,地方武士の動静,また自身の俳諧や小歌に興じる洒脱な生活などが活写されており興味深い。ほかに句集『壁草』『那智籠』,連歌論に『永文』『三河下り』などがある。(沢井耐三稿・出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について)

肖柏(しょうはく) 生年:嘉吉3(1443)  没年:大永7.4.4(1527.5.4)

室町時代の連歌師。号は夢庵,弄花老人。初めは肖柏と名乗るが,永正7(1510)年に牡丹花(読みは「ぼたんげ」とも)と改名。中院通淳 の子であったが若くして遁世し,摂津国池田に庵を結び,晩年は堺に住んだ。連歌を飯尾宗祇に学び,宗祇やその弟子宗長 と共に『水無瀬三吟百韻』『湯山三吟百韻』などのすぐれた連歌作品を残した。また宗祇,猪苗代兼載の『新撰菟玖波集』選集作業を助け,『連歌新式』を改訂増補するなどその学識で連歌界に重きをなし,古今伝授(『古今和歌集』の和歌の解釈などの学説を授けること)を堺の人々に伝えてもいる。花と香と酒を愛し(『三愛記』),風流華麗な生活をし,句風もまた艶麗であった。
(伊藤伸江稿・出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について)

(参考)→(集外三十六歌仙 / 後水尾の上皇 [編]) → 早稲田図書館蔵(雲英文庫)

http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko31/bunko31_e0028/index.html

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柴屋宗長(狩野蓮長 画)

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牡丹花肖柏(狩野蓮長 画)

(参考) 水無瀬三吟 → 『日本詩人選一六 宗祇(小西甚一著)』など

水無瀬三吟何人百韻
   長享二年(一四八八)正月二十二日

〔初折りの表〕(初表=八句)         (式目=句材分析など)
一  雪ながら山もと霞む夕べかな    宗祇  春・降物・山類(体)
二    行く水遠く梅匂う里      肖柏  春・水辺(用)・木・居所(体)
三  川風にひとむら柳春見えて     宗長  春・水辺(体)・木
四    船さす音もしるき明け方    宗祇  雑・水辺(体用外)・夜分
五  月やなほ霧渡る夜に残るらん    肖柏  秋・光物・夜分・聳物
六    霜置く野原秋は暮れけり    宗長  秋・降物
七  鳴く虫の心ともなく草枯れて    宗祇  秋・虫・草
八    垣根をとへばあらはなる道   肖柏  雑・居所(体)
〔初折りの裏〕(初裏=十四句)
九  山深き里や嵐におくるらん     宗長  雑・山類(体)・居所(体) 
一〇   馴れぬ住まひぞ寂しさも憂き  宗祇  雑
一一 いまさらに一人ある身を思ふなよ  肖柏  雑・人倫・述懐
一二   移ろはむとはかねて知らずや  宗長  雑・述懐
一三 置きわぶる露こそ花にあはれなれ  宗祇  春・降物・植物・無常
一四   まだ残る日のうち霞むかげ   肖柏  春・光物
一五 暮れぬとや鳴きつつ鳥の帰るらん  宗長  春・鳥
一六   深山を行けばわく空もなし   宗祇  雑・山類(体)・旅
一七 晴るる間も袖は時雨の旅衣     肖柏  冬・降物・衣類・旅
一八   わが草枕月ややつさむ     宗長  秋・光物・夜分・旅
一九 いたずらに明かす夜多く秋更けて  宗祇  秋・夜分・恋
二〇   夢に恨むる荻の上風      肖柏  秋・夜分・草・恋 
二一 見しはみな故郷人の跡もなし    宗長  雑・人倫 
二二   老いの行方よ何に掛からむ   宗祇  雑・述懐
〔二の折りの表〕(二表=十四句)
二三 色もなき言の葉にだにあはれ知れ  肖柏  雑・述懐
二四   それも伴なる夕暮れの空    宗祇  雑
二五 雲にけふ花散り果つる嶺こえて   宗長  春・聳物・山類(体)
二六   きけばいまはの春のかりがね  肖柏  春・鳥
二七 おぼろげの月かは人も待てしばし  宗祇  春・光物・夜分・人倫
二八   かりねの露の秋のあけぼの   宗長  秋・降物・夜分
二九 末野のなる里ははるかに霧たちて  肖柏  秋・居所(体)・聳物
三〇   吹きくる風はころもうつこゑ  宗祇  秋・衣類
三一 冱ゆる日も身は袖うすき暮ごとに  宗長  秋・人倫・衣類
三二   頼むもはかなつま木とる山   肖柏  雑・山類(体)・述懐
三三 さりともの此世のみちは尽き果てて 宗祇  雑・述懐
三四   心細しやいづち行かまし    宗長  雑
三五 命のみ待つことにするきぬぎぬに  肖柏  雑・夜分・恋
三六   猶なになれや人の恋しき    宗祇  雑・人倫・恋
〔二の折りの裏〕(二裏=十四句)
三七 君を置きてあかずも誰を思ふらむ  宗長  雑・人倫・恋
三八   その俤に似たるだになし    肖柏  雑・恋
三九 草木さへふるき都の恨みにて    宗祇  雑・植物・述懐
四〇   身の憂きやども名残こそあれ  宗長  雑・人倫・居所(体)・述懐
四一 たらちねの遠からぬ跡に慰めよ   肖柏  雑・人倫・述懐
四二   月日の末や夢にめぐらむ    宗祇  雑
四三 この岸をもろこし舟の限りにて   宗長  雑・水辺(体)・旅
四四   又むまれこぬ法を聞かばや   肖柏  雑・釈教
四五 逢ふまでと思ひの露の消えかへり  宗祇  秋・降物
四六   身をあき風も人だのめなり   宗長  秋・人倫・恋
四七 松虫のなく音かひなき蓬生に    肖柏  秋・虫・草・恋
四八   しめゆふ山は月のみぞ住む   宗祇  秋・山類(体)・光物・夜分
四九 鐘に我ただあらましの寝覚めして  宗長  雑・夜分・述懐
五〇   戴きけりな夜な夜なの霜    肖柏  冬・夜分・降物・述懐
〔三の折りの表〕(三表=十四句)
五一 冬枯れの芦たづわびて立てる江に  宗祇  冬・鳥・水辺(体)
五ニ   夕汐かぜの沖つふ舟人     肖柏  雑・水辺(体)・人倫
五三 行方なき霞やいづく果てならむ   宗長  春・聳物 
五四   来るかた見えぬ山里の春    宗祇  春・山類(体)・居所(体)
五五 茂みよりたえだえ残る花落ちて   肖柏  春・植物
五六   木の下わくる路の露けさ    宗長  秋・木
五七 秋はなど漏らぬ岩屋も時雨るらん  宗祇   秋
五八   苔の袂に月は馴れけり     肖柏  秋・光物・夜分・衣類・釈教
五九 心ある限りぞしるき世捨人     宗長  雑・人倫・釈教
六〇   をさまる浪に舟いづる見ゆ   宗祇   雑・水辺(用)・旅
六一 朝なぎの空に跡なき夜の雲     肖柏 雑・聳物
六二   雪にさやけきよもの遠山    宗長  冬・降物・山類(体)
六三 嶺の庵木の葉の後も住みあかで   宗祇  冬・山類(体)・居所(体)・木 
六四   寂しさならふ松風の声     肖柏  雑・木
〔三の折りの裏〕(三表=十四句)        
六五 誰かこの暁起きを重ねまし     宗長  雑・人倫・夜分・釈教
六六   月は知るやの旅ぞ悲しき    宗祇  秋・光物・夜分・旅
六七 露深み霜さへしほる秋の袖     肖柏  秋・降物・衣類
六八   うす花薄散らまくもをし    宗長  秋・草
六九 鶉なくかた山くれて寒き日に    宗祇  秋・鳥・山類(体)
七〇   野となる里もわびつつぞ住む  肖柏  雑・居所(体)・述懐
七一 帰り来ば待ちし思ひを人や見ん   宗長  雑・人倫・恋
七二   疎きも誰が心なるべき     宗祇  雑・人倫・恋
七三 昔より唯あやにくの恋の道     肖柏  雑・恋
七四   忘れがたき世さへ恨めし    宗長  雑・恋
七五 山がつになど春秋の知らるらん   宗祇  雑・人倫
七六   植ゑぬ草葉のしげき柴の戸   肖柏  雑・草・居所(体)
七七 かたはらに垣ほの荒田かへし捨て  宗長  春・居所(体)
七八   行く人霞む雨の暮れ方     宗祇  春・人倫・降物
〔名残りの表〕(名表=十四句)
七九 宿りせむ野を鴬やいとふらむ    宗長  春・鳥
八〇   小夜もしづかに桜さく蔭    肖柏  春・夜分・鳥
八一 灯火をそむくる花に明けそめて   宗祇  春・夜分・植物
八二   誰が手枕に夢は見えけん    宗長  春・人倫・恋
八三 契りはや思ひ絶えつつ年も経ぬ   肖柏  雑・恋
八四   いまはのよはひ山も尋ねじ   宗祇  雑・山類(体)・述懐
八五 隠す身を人は亡きにもなしつらん  宗長  雑・人倫・述懐
八六   さても憂き世に掛かる玉のを  肖柏  雑・述懐
八七 松の葉をただ朝夕のけぶりにて   宗祇  雑・木・聳物
八八   浦わの里はいかに住むらん   宗長  雑・水辺(体)・居所(体)
八九 秋風の荒磯まくら臥しわびぬ    肖柏  秋・水辺(体)・旅
九〇   雁なく山の月ふ更くる空    宗祇  秋・鳥・山類(体)・光物・夜分
九一 小萩原うつろふ露も明日や見む   宗長  秋・草・降物
九二   阿太の大野を心なる人     肖柏  雑・人倫
〔名残りの裏〕(名裏=八句)
九三 忘るなよ限りや変る夢うつつ    宗祇  雑・述懐
九四   思へばいつを古にせむ     宗長  雑・述懐
九五 仏たち隠れては又いづる世に    肖柏  雑・釈教
九六   枯れし林も春風ぞ吹く     宗祇  春・植物・釈教
九七 山はけさ幾霜夜にか霞むらん    宗長  春・山類・降物
九八   けぶりのどかに見ゆる仮庵   肖柏  春・聳物・居所(体)
九九 卑しきも身をを修むるは有つべし  宗祇  雑・人倫
一〇〇  人をおしなべ道ぞ正しき    宗長  雑・人倫

(補注)

一 宗祇=三十四句、時に六十八歳。肖柏=四十六歳。宗長=三十三句、時に四十一歳。 

二 宗祇の発句「雪ながら山もと霞む夕べかな」は、後鳥羽院の「見渡せば山もと霞む水無瀬川夕べは秋となに思ひけむ」(『新古今集』春上)を踏まえている(後鳥羽院二五〇回忌に詠まれた後鳥羽院の鎮魂の奉納連歌とも解せられている)。

三 「連歌式目」(「式目・句材分析)の要点など

句数=続けてもよい句の数、または続けなければいけない句の数。→連続の制限
去嫌=同じ季や類似の事柄が重ならないように一定の間隔を設けた句の数。→間隔の制限

句材の分類(句材と去嫌・句数など)

(一) 季(春・夏・秋・冬)
春秋    同季五句去り、句数三句から五句まで。
夏冬    同季二句去り、句数一句から三句まで。

(二の一)事物一(句意全体に関わりのあるもの) 

恋(妹背など) 三句去り、句数二句から五句まで。
旅(草枕など) 二句去り、句数一句から三句まで。
神祇(斎垣など)・釈教(寺など) 二句去り、句数一句から三句まで。
述懐(昔など)・無常(鳥辺野など)三句去り、句数一句から三句まで。

(二の二)事物二(句意全体には関わりを持たないもの)

山類(峯など)・水辺(海など) 三句去り、句数一句から三句まで。
居所(里・庵など) 三句去り、句数一句から三句まで。異居所は打越を嫌わない。
降物(雨など)・聳物(雲など) 二句去り、句数一句から二句まで。
人倫(誰など) 原則二句去り、句数は自由。打越を嫌わない。
光物(日など)・夜分(暁など) 二句去り、句数一句から三句まで。打越を嫌わない。
植物(木類・草類) 二句去り、句数一句から二句まで。木と草は打越を嫌わない。
動物(虫・鳥など)二句去り、句数一句から二句まで。異生類は打越を嫌わない。    
衣類(衣・袖など)二句去り、句数一句から二句まで。
国名・名所(音羽山など) 二句去り、句数一句から二句まで。
※「山類・水辺・居所」については、「体」(固定的なもの=峯など)と「用」(可動的なもの=滝など)と「体用の外(例外規定=富士・浅間など)の特殊な区分がある。
※※連歌(百韻)では、各折りに「花」の句、表(面)には「月」の句を詠み、「四花八月」の決まりがある。
※※※連歌の「可隔何句物(なんくをへだつべきもの)」は、上記の「去嫌(さりきらい)」と同じ意である。

(三)一座何句物(何回以上用いてはいけないもの) → 重複の制限

一座一句物 「鶯」「鈴虫」「龍」「鬼」など「月・花(定座)」に匹敵する句材
一座二句物 「旅」「命」「老」「雁」「鶴」など「一句物」に次ぐ句材
一座三句物 「桜」「藤」「紅葉」「鹿」「都」などの「二句物」に次ぐ句材
一座四句物 「空」「天」「在明」「雪」「氷」などの「三句物」に次ぐ句材
一座五句物 「世」「梅」「橋」などの「四句物」に次ぐ句材
『源氏物語』を本説とする句は「一座三句物」と同じ。
「感動の助詞」の「かな」は、「発句」の「かな」だけ。

(その他)

(一)「たとへば歌仙は三十六歩也。一歩も後に帰る心なし」(三冊子)→俳諧はすべて前に進む事をもって一巻を成就する。同じ場所や状況に停滞したり、後へ戻ったりすることは許されない。ために類似した詞や縁の深い物が続いたり、近づいたりすることを嫌う。それを避けるために生まれたのが句数と去嫌である。

(二)「差合の事は時宜にもよるべし。まづは大かたにして宜し」(三冊子)→蕉門では外的な形式よりも、内的な余情や匂いを重んじる故に、式目上の句数や去嫌については、季、花、月を除いては余りこだわってはいない。     

四 上記のことを念頭において、この「水無瀬三吟」の百句をじっくりと見ていくと、まさしく、この「水無瀬三吟」は、「連歌」「俳諧(連句)」の、最も枢要なことを教示してくれる聖典(バイブル)のような思いがしてくる。

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